8,「デート。〜当日その1〜」
小説のネタにするため、桜川さんと舞園くんは、デートという名の作戦に出ることになった。案を探すべく、桜川さんは舞園くんに近づき、おとそうとする。
そんなことをしなくても、舞園くんは桜川さんのことが好き。舞園くんにとっては、天国な一日になるのか…?
デート当日の行きの電車の中…「スタートダッシュは早い方がいいでしょう?」
ボクは彼女が来るのを駅で待っていた。…というのは、ボクらは同じ電車に乗って目的の駅まで行くからだ。
現在時刻は10時57分、桜川さんは一つ前の駅から乗車し、今は綺麗な田んぼの景色に揺られているところだろう。そんな黄昏ている桜川さんを想像しているうちに、その天使を乗せた電車はやってきた。
ボクは軽く緊張する気持ちを抑え、深呼吸をする。
そして、開いた扉の中にいたのは。
紺色のフレアスカートに、白い七分袖の服に身を包んだ、桜川さんの姿だった。
見るだけでも癒される、学校では見ることができない特別な桜川さんを見ることができて、それだけでも天に登れるような気分になった。
「あ、おはよう、舞園くん。」
「お、おはようございます。」
中に入ったボクは、手招きに誘われて、桜川さんの横に座った。
珍しく下ろした長くて栗色の髪からはシャンプーの香りがして、ボクの鼻をくすぐる。既にボクの理性は飛ぶ寸前。
と、ここで桜川さんの一言がボクの意識を繋ぎ止めた。
「あれ、舞園くん、新品の服?」
「そうですけど?」
桜川さんは、ボクの着ている、というか羽織っているチェック柄のシャツを小さく摘まむ。そして、控えめに言った。
「値札…」
「はい?」
「値札、ついてる…(笑)」
…わ、わぁぁっ⁈な、そ、そんな馬鹿なっ!!
ボクは盛大に驚き、羞恥心に襲い掛かられた。
「えっ、あっ、嘘っ!?と、とと、取ってくださいぃっ!!」
涙ながらに必死にお願いし始めるボクに、桜川さんは「はいはい、仕方ないなあ。」と言って、ボクの方を向いた。
恐る恐る、というように、彼女はボクの後ろの首元へ手を伸ばした。その手つきがゆっくり過ぎて、緊張するボクは少しばかり硬直してしまった。
ボクの襟元が一瞬軽くなる。そして冷たいものが皮膚に軽く当たる。一瞬ひやっとしたが、その感覚もすぐになくなり、パチッと音がすると軽くなった襟元が再びボクの肩に乗った。
「はい、とれたよ。」
桜川さんはとった値札を目の前に吊るし、じーっと見つめた。
「あ、ありがとうございます。」
ボクは建前のようで本音な感謝の言葉を口にして、俯いた。
「へえ、ふむふむ…意外と高かったんだね、そのシャツ。」
珍しいものを見たかのような反応をしている桜川さんに、ボクは顔を向ける。
「あ、う、いや、まあ…別に、桜川さんに合わせなきゃとか、思っていませんから…っ。」
「へえ、照れ隠しのつもり?全然照れ隠しになってないけど?むしろ、ツンデレでかわいいよ?」
「…え、え⁈そ、そんな、そんなつもりないですけどっ!?」
いいものを見た、というようににやり、としてから、天使のような微笑みを浮かべ、わざとらしくボクに近づくように移動した。その度、ボクの服に彼女の髪がかかる。そして、ボクと桜川さんの間の距離は、どんどん縮まっていく。
その近づく毎に、彼女の体温が感じられるようになっていく。
そ、そろそろ止めてもらわなきゃ、ボクの理性が壊れていまいますよっ!
「あ、あの、桜川さん…そ、そろそろやめなきゃ…ぼ、ボクが壊れます…。」
「ん?何?もうギブ?べ、別に、良いじゃない、だって、デート、なんでしょう?」
桜川さんはボク側にある右手を、ボクの手をめがけて進ませた。そして、指先で、ボクの指に小さく触れる。
「あ、あの…?」
「…な、なんでもないっ。とりあえず、もう駅に着くよ?」
本当に悪いようなタイミングで、到着のアナウンスが鳴り響く。そしてボクらは、停車した電車から、ホームへと降り立った。
これからが本番。
ボクは息をのみ、桜川さんを一瞥する。
ここからは、桜川さんのつくった大雑把な予定に合わせて行動するだけ。だから、心配はいらない。そう思ったとき、桜川さんが、言い放つ。
「ねえ、舞園くん。その、申し訳ないんだけど、私、今日の予定、作ってないの。だから、舞園くんに振り回される一日になるかなぁって…。」
「…え?よ、予定がない…?ボクが振り回す…?」
「うん。ってことで、今日は一日、よろしくね?」
桜川さんの明るい笑みによって、明るくて楽しい一日のゴングが鳴った。