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舞園勇輝の学園物語。  作者: 姫井 七海
1章「片思いの舞園勇輝。」
8/21

7,「デート。 ~計画編~」

デートの計画をします!

舞園くんは、今回も桜川さんの引っ張りだこでいいの?本当は、桜川さん、リードしてもらいたいんじゃないの?頑張れ、舞園くん!

 ボクは今日も、桜川さんの向かいの席で、小さな日記を書いている。桜川さんにモデルにスカウトされた日からの日記だ。正直、彼女が原稿用紙に向かっている時が、ボクにとって一番時間がもったいないのだ。

 桜川さん曰く、今日のテーマは「デート」らしい。ボクとしては女の子と二人でおでかけなんて行ったことがない…デートなど、したことがない。ボクの年齢=彼女いない歴であるも当然さからだ。

 そんなボクは、桜川さんに踊らされているのだろうか。

「じゃあ舞園くん。早速だけど、作戦実行の日を決めよう?」

 ついには「デート」という名称を、「作戦」とまで呼び始めた。

 何てことだ。折角のトキメキ単語、「デート」を何かのミッションを受けたかのような呼び方にするなんて。ボクのトキメキを返せっ。

「ボクはいつでも空いてますよ。でも、なるべく人目のつかないところが…。」

「何言ってるの?デートの醍醐味は、人から寄せられる視線でしょう?『あの子たちお似合いだなぁ』とかっていう羨ましいオーラでしょう?」

「ボ、ボクはそんなの望んでないですっ!」

 人目が気になるなんて、普通なことじゃないのか?もしも桜川さんに視線が集まりすぎてナンパされてしまったら、ボクが守れるのか、心配なんですよ。

 ボクはぐっと言葉を飲みこんだ。

「桜川さんがそんなに言うなら…別に、ダメってわけじゃないです。でも、作戦なら、見つからない方が良かったりするじゃないですか。」

 その瞬間、桜川さんははっとした。

 作戦・・・①戦う際の計画。②ある期間、敵に対してとる行動。(三省堂 スーパー大辞林3.0 より)

「そ、そうだね…作戦なら、バレない方が…でも、バレるための、見つかるための作戦なら、べつに良いんじゃないの?」

「は?」

「だって、デートのいいところって、自慢の恋人と、その恋人との仲の良さをすれ違う人に見せびらかせることなんじゃないの?」

 …ああ、ここまで言われると、もうボクは反論なんてできない。

 ボクは少し顔を下に傾けて、無表情を装った雰囲気を醸し出した。

「納得はします。デートのいいところは、二人の仲の良さが見せびらかせるところです。でも、それが本当に学校の同級生に見つかったら大変なことになりますよ。」

 ボクは慎重にそう言った。

 こんなところでそんな勘違いされてはこちらが困る。いや、ボクは困らないだろうけど、桜川さんに疑いの目がかけられる。ボクみたいな弱気で影にいるような人が桜川さんと付き合ってるだなんて言ったら冷やかされたり反対されるのは桜川さんだ。

 だから、桜川さんにとっては迷惑極まりないのだ。

「まあ、そうよね。見つかったら舞園くんに迷惑よね。」

「あ、いや、ボクは別に大丈夫なんですけど。」

「私は別に、見つかろうが何言われようが構わないけど?舞園くんがそれでもいいって言うなら私は堂々と行けるよ?」

 え、あ、はい。え…っていうことは…。

「私は舞園くんさえ良いって言えば、噂にだってなってもいいってことだけど。」

 う、噂?!ボクと桜川さんが付き合ってるっていう噂ですか?!

 ボクは耳を疑った。聞き逃しがないように、耳元の髪も、耳にかけた。

「で、でも、た、ただの参考のうち、ですし…。」

「そう、参考のうちだもの。別にいいじゃない、取材デート。」

 またあの得意げなにやり、を放つ桜川さんに、ボクはえをも言わずにただため息をついた。

 できるならば、そう、できるならば、人生初のデートは、本命の子と本気で行きたかった。まあ、今回は100%にはいかないけど、75%は確保確定だから良しとしよう。

「じゃあ、良いとして、いつ行きますか?」

「んー、どうしよう…。」

 何を迷っているんですか、桜川さん。今週の土曜日は各部活動が大会で、デートスポットである駅やデパート、公園や、カフェやら服屋やらがたくさん詰まった駅前ストリートなんか、学生がいなくていいじゃないですか。その日ですよね、ね?

 逆に、その明々後日(月)は嫌だな。大会の振り替え休日で、土日を満喫できなかった少年少女が遊び場(主にデートスポット)に集る。しかも、同じ学校ではなく、他校からも、だ。そこまで見られることが好きではないボクにとって、地獄になるのだろう。

 桜川さんは、生徒手帳の今月のページと睨めっこし、所々「うーん。」といううめき声をあげていた。そして、その後数十秒後にふっと顔を上げ、ほっと溜息をついた。

「決めた。」

「いつですか?」

「明々後日。」

「…え?」

「だから、明々後日。」

 …ボクが一番望まない日をダイレクトに選びやが…選んでくださった、桜川さん。

 全然嬉しくないです!

「あ、その顔はもしや、一番嫌な日を丁寧に当ててくださってありがとうございますって顔でしょう?」

 ニコニコしながら愉快に笑う桜川さんは、わざとらしく右手に頬杖をつく。

「あ、あたってますけど、感謝だけはしていませんよ?寧ろその選択に憤りを覚えます。」

「その割に、頬が赤くなっているけどね?」

「は、はぇっ⁈」

 裏返る驚いた声を盛大にあげるボクを楽しそうに見てくださって、心が温まります。いろんな意味で。

 ボクはそぉっと桜川さんから顔を斜め横に逸らす。

「え、あの、じゃあ桜川さん明後日…ですか?」

「うん、明々後日。」

「え、明後日じゃ―--」

「明々後日ね。舞園くん、ちゃんとお洒落な格好してきてよね?そうじゃなきゃ、かっこいいって褒められない。」

 お洒落…かっこいい…。普段家にいるボクの頭の中に出てきた洋服たちは、そんなワードを連想し難いものばかりだった。

 桜川さんは、バッグに原稿用紙やペンケースをしまい、それを肩にかけた。

「あれ、もう帰るんですか?」

「うん。だって、早く帰って作戦の日に着ていく、とびきりかわいい洋服、買ってこなきゃでしょう?」

 照れ交じりにそう言うと、一人取り残され、ポカンとしているボクに小さく手を振り、一日の疲れが吹き飛ぶほどの明るい笑みを残して、廊下へ出て行った。

 ぼ、ボクも明日、ちゃんとした服を買ってこよう。

 …あれ、取材デート、ですよね?本気になってるわけじゃないですよね?

 

 もしかして、女神様や天使の類のものが、弱気なボクにチャンスを与えてくださったのではないのか?


 ボクが、その女神様や天使の類のものが彼女だと気づくのには、相当な時間がかかるのだろう。


 

 ああ、明々後日が、異常なほどに楽しみになってきた。

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