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舞園勇輝の学園物語。  作者: 姫井 七海
1章「片思いの舞園勇輝。」
7/21

6,「ボクを選んだ理由。」

5,の続き…その日の続きです。

桜川さんが、なぜ舞園くんをモデルに選んだのかなんて、舞園くん自身になどわかりえないこと。舞園くんより、桜川さんが振った子の方が、断然カッコいいのに。

疑問を持つことは大切だけど、無理やり聞くのはよくないよ、舞園くん。

「あの、桜川さん。かわいいってどういうことですか?」

 机を向かい合わせた席で、原稿用紙を手にしたボクはさっきの言葉を聞いて疑問になっていたことを質問した。なんとも思ってはいなかったものの、今回ばかりは気になるし、今までの短い人生経験のうち、こんなことを言ってはなんだが、ここで否定すると面倒なことになることが分かっていたため否定よりも疑問を持った。


「それに私は、こんなにかわいいモデルの子を放置しておくなんて、心配で到底無理だから」


 不思議でたまらない。なぜこんな言葉を言ったのか。

 桜川さんはボクを見て、意地悪そうに笑う。

「別に、かわいいのは本当だよ。深い意味なんて無いし。かわいいからモデルにしようとしたんだけどな?」

 かわいい=モデルの概念が全く分からない。かわいさを求めるのは、女子だけでいいのではないのか?


「舞園くんはわかってない。かわいいっていうのは、もはや性別の境界線を越えるほどのもので、それを飛び越えての主人公だよ?カッコいい系女子が流行している今、カワイイ系男子が流行らないわけがないの。」

 その流行とやらに乗るのが桜川さんなのか。なんだか意味が違うような。

 ボクは「わかりました。」と、ため息交じりの返答をして、もう一度彼女の書いた原稿用紙に睨めっこした。悪くはない。ボクが思っていることを素直に書かれている。なにか妖術を使ったのか、と疑えるほどボクの心情が丸裸になっていた。

 そんな原稿に目も心も奪われていたボクに、向かい側から声が降ってきた。


「あのね、私、こんな子がモデルになってくれたら、絶対に大賞とれるんだろうなーって、ずっと思ってたの。」

「へえ、そうだったんですか。新しい分野として?」

「うん。可愛い系男子が頑張る、っていう分野として。で、大賞とったときには百万円よ?今の私じゃ、目が眩むくらい。そしたら、協力者として、山分けしてあげる。」

 桜川さんの最終目的は、賞金の百万円だった。女子中学生が、そんな賞とれる筈がない、そう思った。それでも親切に、「山分け」などというワードを出してくれているのだ。ありがたや~。

「結局、目的は賞金なんですね?まあ、五十万円も悪くはないですけど」


「うん。でもまあ、本当は違ってたりするんだけどね?」


「え?」

 違う?目的が、か?

 最近、桜川さんに、怪しい言動が多くなった。「心配だ」とか、「舞園くんだけ」とか、「可愛い」とかもそうだし、「求愛行動」だなんてワードが出てきたとき(第5部参照)なんか、気が狂いそうなほどだった。まるで、迷子の仔羊を自分におとすかのような、言葉の戦術。そんな風にも思えてきた。

 ボクは中身は鈍感の塊だ。その中になにかメッセージが込められていたとしても、ボクじゃとても気づけない。そこは唯一自覚のあるところなのだ。


 ボクは一旦話題を変えるために、彼女の学力について聞いた。

「あれ、桜川さんって、成績はどうなんですか?文芸部とは言えども、受験生ですからそんなに没頭しない方が…」

 成績、に反応したのか、急にニコニコとし始めた。

「ん?ああ、私の成績?学年7位だけど?」

「が、学年7位…。」

 ボクらの学年は、上位1~15位までの先頭集団の学力争いが激しい。そしてほとんどが一桁の点数の差なのだ。

 正直、怖い。

「私、舞園くんの順位知ってるよ?学年で28位でしょう?安定圏内の」

「な、なんで桜川さんがボクの順位知ってるんですか?しかもあってるし…」

「私、地獄耳なんで。舞園くんが浮かれあがってお友達に順位を教えあってるときにちらっと聞いちゃってね」

 これもボクの不注意か。…いやいや、絶対に聞き耳立ててたでしょう⁈

「で、でも、受験生は変わらないですし、勉強の一つや二つ…」

「そんなの、推薦でいけばいいじゃない、大賞とって。まあ多分無理でしょうから、それなりに頑張っておかなきゃね、舞園くん」

「明らかに矛盾しているっ!」


「あ、舞園くん、そろそろ下校時刻だよ。続きは明日でもいいんじゃない?」

 桜川さんにそういわれ、この教室の壁に掛けられた時計に目をやる。完全下校時刻の2分前。

 かなりギリギリの時間だ。


 我に返った部長のボクは教室を見渡す。そこにいたはずの部員は、桜川さんを除いて、誰一人としていなかった。

「何よー。みんな自立してるじゃんか」

「いやいや、勝手に解散しちゃっただけじゃないですか。ボクとて心配ですよ」

 心配、だなんて言うが、本当は心配の文字のひとかけらもないくらい、部員には興味がない。

 ともかく、急がねば。遅れてしまったら部活動停止。そんなことになれば、ほぼ毎日の日課になっている、桜川さんとの放課後の時間は、これから先送れなくなってしまうのだろう。

 ボクは急ぎめに支度をして、荷物を背負った。そして、鍵を閉めようとする桜川さんの隣に小走りに移動した。

 だが、彼女に急ぐ様子は無かった。

「あの、桜川さん」

「うん?」

「急がなくていいんですか?」

「うん。だってまだ8分あるし」

 え?だってこの教室の時計は30分の2分前を指しているし……。

 桜川さんの悪戯な笑みを見て、ボクはハッとした。


 完全にだまされた。

「ふふふ、やっと引っかかってくれる子ができた。いい反応をありがとう、ごちそうさまでした」


「なっ……」


 この教室の時計は、約5分早い、というのが本当。いつもなら覚えているはずのボクは、今日は気が散るようなことばかりが起きていたからそんなことを気にすることさえ忘れていた。

 小悪魔…というか、悪魔の笑みを張りつけた桜川さんは、楽しそうにボクをからかう。

 そんな彼女を甘やかすのがボク。

 こんなデコボコなボクらに、明るい先なんて見る必要さえない。


  本当に、彼女はなんでボクを選んだのだろう。


 明日、また聞いてみよう。


「じゃあ、帰りましょうか。」

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