1,「きっかけの賞。」
ここからが本編です。
プロローグは読み返すと恥ずかしくなるので、こっちが本当の私です。
生徒が下校していく、騒がしい廊下。その廊下に桜川春子はいた。彼女は何かを考えるような素振りで、とある掲示物をただじっと見つめていた。
気になった僕は、少しだけ距離をおいて、同じようにそれを見つめてみた。
『芋恋小説賞』
なんだその賞は。
彼女…桜川さんは、僕に気付いて視線を上げる。
「何か、用?」
彼女は小首を傾げながらそう言った。このときにした、不思議そうで天然な微笑が正直たまらない。抜け目があるような、油断させる柔らかいその頬に目が惹かれてしまう。
少し(少しどころではないが)見入ってしまったボクは、約三秒後に無事意識を取り戻し、桜川さんの表情に対する感想を呑み込んだ。
「か、かわ……い、いえっ、べ、別に…ッ」
人見知りで、もじもじしてしまう。それが僕の特徴であり、欠点なのだ。今回も、それが表面に出てきてしまった。
…正直に言おう。桜川さんとは、今まで話したことがない。つまりは、初めて話した。だから、せめて第一印象だけでも良いものにしたいと思ったのだ。まあ、そんな僕の作戦も儚く崩れ散ってしまったが。
視線に気づいて、僕は顔を上げ、桜川さんを見た。彼女はにやり、と意地悪そうな表情をして、僕に告げた。
「ねぇ、私、これに応募しようと思うんだけど、モデル…やってくれない?」
「……はい?」