この世界の女はおかしい3
夢も見ず、深い眠りに落ちていた魔王は突き刺さるかのような殺気に目を覚ます。そのまま上掛けのシーツを跳ね飛ばし起き上がる。
「魔王様から離れなさい! このアバズレども!! そして死になさい!!!」
紅茶に1滴ミルクを垂らしたような髪の娘が剣を振り回して、警護のサキュバスたちを蹴散らしている。
寝室に警護を置くなら、女性のほうがいい。華やかで良い匂いがする。と、ごく普通の男である魔王が考えた結果、この部屋にはサキュバスたちがいる。
何故サキュバスたちかというと、他の種族の女性兵士は警護とはいえ、魔王の寝室に侍るのを拒否したからだ。
魔王が手を差し出すと愛剣がその手に現れる。その剣を手にし、勇者に飛びかかる。
「いい加減にしてくれ、伝言勇者! 彼女らは警護の者だ。そして手を出すな! 殺すな!」
勇者は襲いかかる魔王の一撃を、膂力を強化して剣で受け止める。
魔王は相対する時ですら門から玉座の場所まで配下を配置しない。魔族で一番強い自分が相手をすれば、配下に被害が出ないからだ。もし、自分が負ければ別の誰かが魔王になるだけで、魔族の減少には繋がらないという合理的な考えからだった。
寝室に置いた警護も、不意打ちを避ける為だけに置いたものにすぎない。
「伝言勇者じゃありません! ペチーナです!」
「伝言勇者でも、ペチーナでもどっちでもいいから寝させてくれ!」
鍔迫り合いをしながら互いに叫び合う。
「なら添い寝します」
勇者の鼻息は荒い。
「いらん!!」
魔王は一言の下に切り捨てた。
「何故、寝ているところに来る?! 昼間来い、昼間に!」
「寝ているところでないと夜這いになりません」
頭の痛くなるような返答だった。
互いに剣を手にしているというのに、魔王は目を閉じ、俯いて左右に首を振る。
「・・・」
『もう、やめてくれ。どうしてこうなってしまったんだ?』と魔王は心の中で呟く。
魔王は剣を下ろし、天蓋付きの寝台に戻って行く。その背中は疲れ果てた心中を表すかのように丸まっている。
「夜這いしなくていい、帰れ」
勇者は剣を握り締める。自分の想いが伝わらず、つらくて。
「嫌です。私がどんなに魔王様をお慕い申し上げているのか、わかってらっしゃらないからそんなことが仰れるんです。あれは我が姫を攫いに魔王様が現れた時でした。私は魔王様のお姿を一目見ただけで虜になり、動けなくなりました。お仕えしていた姫が攫われ、私は騎士たちに混じって剣の鍛錬をし、時間を惜しんで魔法を習い、勇者と呼ばれるようになりました。ここまでしたのに、どうしてわかってくれないんですか?」
キラキラとしたダークブラウンの目で言われても、眠りを妨げられ、疲れきった魔王の心には届かない。
「わかったからと言って、受け入れられるか!! もう帰れ。帰ってくれ。頼む。余に平穏な眠りをくれ!」
警護のサキュバスたちに追い立てられて、勇者は素直に退室して行った。
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夢も見ず、深い眠りに落ちていた魔王は突き刺さるかのような殺気に目を覚ます。そのまま上掛けのシーツを跳ね飛ばし起き上がる。
「魔王様から離れなさい! この色狂いども!! そして死になさい!!!」
紅茶に1滴ミルクを垂らしたような髪の娘が剣を振り回して、警護のインキュバスたちを蹴散らしている。
以前、寝室の警護をサキュバスたちにさせて、伝言勇者に斬りかかられた経験から、魔王は男の警護の者を置こうと考えた結果、この部屋にはインキュバスたちがいる。
何故インキュバスたちかというと、寝室にいる護衛なら、むさ苦しいよりは見目麗しいほうが良い、という理由であった。因みに魔王の寝室には風景画が飾られていて、ゴツイ置物の類はない。
魔王が手を差し出すと愛剣がその手に現れる。その剣を手にし、勇者に飛びかかる。
「いい加減にしてくれ、伝言勇者! 彼らは警護の者だ。そして手を出すな! 殺すな!」
勇者は襲いかかる魔王の一撃を、膂力を強化して剣で受け止める。
「伝言勇者じゃありません! ペチーナです!」
「伝言勇者でも、ペチーナでもどっちでもいいから寝させてくれ!」
鍔迫り合いをしながら互いに叫び合う。
「なら添い寝します」
勇者の鼻息は荒い。
「いらん!!」
魔王は一言の下に切り捨てた。
その一言に勇者は自分の気持を拒絶されたことがわかって悲しみのあまり剣を下ろす。
「夜這いしなくていい、帰れ! 帰ってくれ。頼む。余に平穏な眠りをくれ!」
警護のインキュバスたちに追い立てられて、勇者は素直に退室して行った。
天蓋付きの寝台に戻り、魔王は座り込んで頭を抱える。
「どうしてこうなってしまったんだ? 生まれる世界を間違えてしまったのか?」
魔王の呟きは闇に飲まれる。
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今日も魔王は安定の不憫属性だった。
以上、『勇者の求愛、魔王の不幸』でした。