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第96話 虎穴

 バルティカ王国の船団は約半数撃滅することができた。俺は海を眺めながら併走する水蛇に話しかけた。

「戦争終結まで制海権の攻守を一任する」

 監獄からの知り合いの水蛇は口を海面から上げた。

「単独では船団を抑えることは不可能だ」

「竜族の中には水中で生活するものもいる」半島での戦争で最初に反応したのは竜だが、最初に屈服したのも竜だった。竜族は翼竜、竜人、水竜と大枠に分けられていて、比較的簡単に降伏させることができた。比較的と言うのは種族の多様性が他の部族と比べて少なく、言葉を理解するだけの知能があったからだ。竜族が味方になれば空も海も使うことができるようになり、戦争の幅が一段階上がることになるが、戦争が終結してすぐに味方の軍に編成するほど信頼がある訳ではなかった。「用いてみるか?」

「たかが蛇に竜が言うことを聞くだろうか?」

「蛇の方が恐怖されるに相応しい」

 蛇が世界中の神話で恐怖されたのは手足が無いからだ。

「まあ、水竜がいなくても……あれらで十分かもな」

 船の後ろで人魚が泳いでいた。人魚たちは半島からバルティカ王国の小島の各地に住んでおり、半島の戦争も関係ないと静観していた。だがバルティカ王国の進出を知り、一挙に戦争への恐怖が広がった。そんな時に、百人で一万の軍を蹴散らした男が現れた。人魚たちは遠くの海から戦況を眺めて、どちらに味方をするか決定した。

「ミグルと申します」

 上半身は隠さず、下半身は魚鱗が美しく輝いた人魚の姫だった。姫といっても齢は百年を超えているそうで、子供も二桁を超えているそうだ。男よりも女のほうが権力が強いようで、構成された兵士たちも女たちが多かった。ナユキの配下たちも人魚と聞いて嬉々して露な上半身を覗いたが――。

 そこは女の園ではなく、女ゴリラの園であった。

「そりゃ、男より権力あるわ」

 ナユキは哀れんだのも無理は無かった。男ボディビルダーのような女たちの中で、細いのはミグルと男たちだけだった。姫様が自分だけモテるように女たちの価値観を変えたかのような異様な光景だった。

 ……いや、そうに違いない。

「あのゴリラたちをお前の配下にしてやろう」

「マジかよ。超嫌なんだけど」

「まあ、ミグルがいるから」

「いやいや、あのゴリラ軍団を作ったのがミグルと考えると、もっと嫌だ」

「……お前の言うことはもっともだ」

「ああ、なら、水竜たちを」

「だが駄目だ」

「俺に選択権は無いのか!」

「水竜を用いるのは時期尚早だ。死にたいなら止めないがな」

「……分かりました」

 人魚――魚人族を戦わずに仲間に出来たのは運が良かった。

 亜人族となると竜族と比べて種類が多い、魚人族、豚人族、猫人族、犬人族などなど、この中に竜人も含まれるが竜族の中に含まれているので除外する。亜人族は他にもいて、虫人族などもいて、これは個体数が二桁に満たないのや、多数いながら言葉を理解できないのもいるので討伐の対象になっても仲間の対象とはならなかった。亜人が多種多様とはいえ、亜人全体を仲間と思っている連中も少なくなく、少数派の虫人族を討伐し始めると、それに不快感を示して徹底して抵抗する少数派も現れた。少数派は徐々に群れを成して、集団を形成しつつあった。


「まあ、それは好都合だ」

「と言うと?」

「考えてみなさい」

「えー」

 レッドは椅子の上で足をブラブラさせながら俺の問いを考えた。俺とナユキがでてから数日しか経っていないが、ゴブリン国がフィオナを見捨てなかったのは運が良かった。それほどまでに俺たちとゴブリン王との関係は冷え切っている。特に俺が勝手に魔王軍を撃退したのがいけなかった――まあ、そんなのは覚悟の上だが。

 レッドが赤い唇に人差し指をあてて、思考を回転させるように首を何度か傾げた。

「……一網打尽に出来るから?」

「その通り、大規模な戦いになるかも知れないが、ここで一網打尽にすれば余計な不安要素を消すことができる」

 俺のいない間にハロハルハラが植物系の魔物を撃退して、ゴブリン王の信用を深めていた。動物系の魔物はいまだに討伐しきっていないが、亜人たち烏合の衆が最後の大規模な戦いとなるだろう。

「あとはフィオナの宗教的な熱狂がどこまで膨れ上がるかだな」

「それは問題ないかもね」

 フィオナの人気は凄まじかった。俺たちの戦争の強さもあるだろうが、フィオナが病気を治したとか、雨を降らせたとか、いわくありそうな噂が真実のように信じられていた。特に戦争の劇的な勝利は賞賛されており、魔王軍を撃退した戦いも尾鰭つきで熱狂させていた。

 だからこそ、蛮勇を振るった苦労があった。

「フィオナの護衛は問題ないか」

「アイビーがしているけど」

 アイビーを鍛えているが、レッドの為よりもフィオナの為に強くなっているような感じだった。元から子供好きなので、フィオナの可愛らしさに心が蕩けてしまったようだ。普段から一緒にいて、風呂場も寝る時も一緒で保母のようであった。

「不安だ……」

「でも――」

「ああ、他に頼める相手がいない」

 ナユキなら信頼に足るが、ナユキの武力を考えたら護衛では勿体無かった。だからこそ危険でも常に俺の近くに居させた。

「あと少しの辛抱だが……」


 †††††


 これは後から分かったことだけど、時系列ではこの時期なので語るね。

 ゴブリン国から北東の位置に亜人たちは集結しつつあったんだ。

 少数派が集まったため烏合の衆と見られていたけど、それを纏める者がいた。

 それを使わしたのはゴブリン王で、この時点でゴブリン王はフィオナを討伐することを決めていたようだね。

 纏めた者……それがEaterだった。

 彼らはゴブリン王によって封印を解かれて、次々に亜人たちを襲い始めた。ぐぱっと口を開き、もごよっと食らい、ぐぁちぐぁちと租借した。

 亜人たちの首領どもはその日を境に統一した動きを見せて、私こと――ハロハルハラの死者の軍団と互角以上に戦い始めた。プレスター様も出陣をしたけど直後にゴブリン王から後方から攻撃された。

 死者の軍団と激突していた亜人たちは半分に分かれて、プレスター様たちを襲うために森を迂回して、ゴブリン王の軍と亜陣がプレスター様を挟撃しようとした。

 私たちの軍はゴブリン王からプレスター様が裏切ったと嘘を書き連ねた書状を貰ったけど、私たちはプレスター様の配下なので、当然亜人たちへの攻撃を続行して、プレスター様たちを挟撃しに行った亜人たちにはナユキが向かおうとした。

「駄目」

「なんで?」

「戦力を分散する余裕は無い」

 戦争とは多数により少数を倒すのが基本だ。

「でも助けに行かないと」

「分かっているけど、下策を行う訳にはいかない。それに――」

「それに?」

「あの人の強さを世界に知らしめる機会だ」

 私は思わず笑っていた。

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