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第90話 串刺

 河口の淡水と海水が混じる境界よりも曖昧な区切り――国境を越えて内乱は始まった。半島の魔物たちからしたら内乱では無いが、外部から見たら内乱にしか見えないだろう。半島と言う区切りが戦争の様相を変えている。

 俺たちが属しているゴブリンの国は周辺国から包囲網をされ当初は苦戦したが、ハロハルハラ率いる死者旅団レギオン、それに義兵を掻き集めた宗教騎士団クルセードで各個撃破を行って五分以上に戦った。ハロハルハラの旅団は監獄から率いてきた連中と、鉄砲玉のナユキがいるので負け知らずの戦いを繰り広げた。一方の俺は義兵を率いて勝利と敗北を繰り返していた。ハロハルハラとは仲の悪いフリをしていたので、兵たちを借りることは出来なかったので最初は苦戦続きだった。

「それでも流石と言うか……」

 ナユキと肩を並べてオークと戦った時に感嘆された。宗教騎士団クルセードは何度も負けたが被害は最小、負けてはいけない闘いでは必勝だった。

「戦争の呼吸と言うものだ」

「戦争と言うものは難しいものですね」

 百戦九十九勝が頂点に立てない……戦争と言うものは恐ろしいものだ。

 宗教騎士団クルセードが半島の西側の防衛に行くことになったのは、土壇場での強さを見せつけ続けたお陰だろう。魔物たちを叩き続けて、新たに現れたのが帝国軍だった。帝国と言うものの性質に、親分体質と言う物がある。地続きの半島が内乱状態が起きれば、お節介を焼いて軍を派遣する。世界の覇権を握った帝国特有のお節介さは、異世界であっても同じことだった。

「我輩は疲れた」

「頑張って、バロン」

 ユニコーンに跨りレッドは悠々と走り、俺の真横まで来た。アイビーが送れて栗毛の馬を走らせて、全身を甲冑に包んだ俺の横まで来た。俺の馬は葦毛で、宗教騎士団クルセードの馬は俺が苛め抜いたため数ヶ月で軍馬としてモノになっていた。

 夏に内乱は始まったが、すでに稲も刈り取りを終わり、雪の気配が近づいていた。義兵たちの中には農民も多かったが、農家の次男・三男が多かったようで刈り取りに影響はほとんど無かった。義兵たちの眼は現人神の輿に注がれていた。派手に着飾り、顔も肌の色すら見えないほどに布を幾層にも重ね、輿は黄金色に飾られていた。フィオナを俺たちの側から離すわけにはいかなかったので、必然的に一緒に転戦を行っていた。当然、迅速に動く時は邪魔だが、その時は激戦地から離したりして、どうにか安全を保っていた。

「帝国軍と戦うの?」

「それは有り得ないな」

 半島に来てから何度か人間たちと戦闘を行ったが、本格的な戦闘が起きることはまず無いだろう。それは人間の都市からここまでの道程が険しいからだ。ある程度の場所で留まり威嚇行動は行うだろうが、もうすぐ冬が近づくために兵站の確保が難しくなる。それ以上近づくと兵站的に問題になる所までは近づいて来ないはずだ。

「威力偵察に来るところを引っ叩く」


 丘の上に野営をして、遥か西に視線を向けた。

 チリチリと殺気が立ち昇り、こちらへ殺意を向けている。

「感じるか?」

「ぷーちゃんの熱い視線を」

「ちげーよ」

「いやー! 夫婦関係が早くも冷めた!」

 フィオナが指摘した通り、俺には王の資質が無いのだろう。

 むしろ武人。

 青天に轟くような殺気を感じることが出来るのは、本物の戦人いくさびとだけだろう。


 お互いの兵を確認できない中、少人数での小競り合いが始まった。こちらが勝ち、こちらが負ける。奇数と偶数が交互に来るように勝ち負けが重なった。

 アイビーがフィオナと仲良く喋っていた。フィオナは俺たちに懐いているようだが、一番仲が良いのはアイビーだった。アイビーも子供好きそうなので、全身で好意を受け止めている。そのため俺はアイビーにフィオナを守らせていた。

 ある夜。

 アイビーの悲鳴が聞こえた瞬間に短槍を掴み、俺はレッドの横を走り、フィオナを浚おうとした老人を確認した。人間。瞬時に暗殺教団ハッシシを思い出した。老人が短刀を投げつけてきて、俺は手の甲で短刀の腹を叩き落した。劇薬が塗られていたが、俺の肌を傷つけることは出来なかった。

 俺は老人の首を掴んで、爪を伸ばして刺した。血が吹き出して力なくなり、フィオナを背中から落としたので、遠慮なく頭上へ放り投げた。

「避けてみろ」

 俺は短槍を上へ向けて、落ちてくる老人を串刺にした。


 刺さった矢を抜くと失血死することもあるが、その老人の耐力は常人のものではなかった。俺は老人を串刺にしたまま野営地から西側へと歩いて行った。崖があるのでそこから落としてやろうとした。

「なにか喋るか?」

 一度老人に聞いてみたが、歴戦の暗殺者らしく口が固そうだった。俺が出来ることは恥辱に満ちた死を与えることだけだった。

 崖まで来た。

 俺は老人を串刺にした短槍を真っ直ぐ伸ばして、崖の上で浮かせた。刺さった場所から血が流れてヌルヌルと重力に従い落ちていこうとした。

 その時、闇の奥から光が飛んできた。老人が付いたまま槍を動かして、光を数十叩き落した。光は刀だった。刀の表面には血が塗りたくられていて、光沢を抑えようとしていた。

「誰だ!」とは叫ばずに、俺は闇の奥を覗いた。

 そいつは手を振っていた。

「シェリダン……」

 こちらの世界の母親が大きくなった姿で現れた。戦場において凄惨な美しさが際立っており、死の天使長のような残虐さが笑い顔に現れていた。

 そうか……だから分かったのだ。

 お互いの縁が殺意を伝え合ったのだろう。

 気づいた時には、老人を串刺にした槍を投げつけていた。

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