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第82話 挟撃

 湿地帯だった場所は排水を終えて、区画整理が完備されていた。平屋建てながら街並みが形成されており、子供の頃の助言が役に立ったようだ。ゴブリンの国なので俺たち一行の姿は目立っていた。

 特に吸血鬼と人間の夫婦は目立っていたようで、後々までの語り草となったそうだ。俺達はゴブリンの街に入り、宿屋で長逗留することにした。ハロハルハラや監獄を一緒に脱出した同志達と再会したかったが、俺は完全無視をしていた。

 道中考えていたことだが、俺とハロハルハラは仲間と思わせないようにすることにした。合流せずに内と外から挟撃する形にして、国盗りを戦争と同様に考えた。

 二日目の夜に、俺とレッドが手を繋いで食後の散歩をしていると、目の前からハロハルハラが歩いてきた。黒い肌のエルフの姿は変わらず、屍人たちを引き連れて歩いてきた。

「あっ」

 ハロハルハラが嬉しそうな顔をしたが、

「ふんっ」

 俺はそっぽを向いた。ハロハルハラとは口裏あわせをしていなかったので唖然とした顔をしていた。咄嗟に酷い態度を取ったので、俺は俺の経歴を書き換えることにした。この国に来てから夜しか活動していないので、周囲のゴブリンたちは俺が昼に動けるとは夢にも思っていないだろう。その行動から俺を吸血鬼だと気付いているだろう。

 よし……俺は監獄に繋がれていた吸血鬼のフリをして、ハロハルハラたちに恨みを持っていることにした。

 丑三つ時、ハロハルハラが宿屋の窓から侵入してきた。俺はハロハルハラとは気付かずに、侵入してきた瞬間に蹴りを食らわしていた。

「なんだ、ハロか」

「……プレスター様。私の事をお忘れで?」

「はあ? 簡単に忘れることができる性格じゃねーだろ」

「だったら、さっきはなんで」

「ああ、そのことなんだが」

 ハロハルハラはゆるりと俺に近づいてきた。

「眼を覚ましてください」

 拳が俺の頬へめり込み、俺は床に叩きつけられた。

 ぶちっ! 俺の細すぎる堪忍袋の緒が切れた。

 あかこーなーせかいきゅうけつきちゃんぴおーんぷれすたー! ぱちぱちぱち……。あおこーなーさんぜんせかいくそおおばかどちくしょうしびとちゃんぴおーんはろー! ぶーぶーぶー……。

 ふぁいっ!

「このぼけなすがあっ!」

 俺は左手で頭を鷲掴みにして、右手で顔面を殴りまくった。

「正気に戻ってください!」

 ハロハルハラも同じようにしてきたので、どっかのプロレスラーとどっかの首領ドンとの殴り合いを思い出した。俺はハロの首を掴んで、首相撲で体崩しして、膝蹴りをして、足の裏で蹴り、窓の外へと飛ばした。部屋の中にはレッドがいて、呆然と俺と馬鹿の殴り合いをみていた。

「だ、大丈夫?」

「駄目だから、トドメを刺してくる」

 俺は窓枠に手をかけて、星明りの夜を飛んだ。ハロハルハラが立ち直って、戻ってきたので、空中で抱きついて、勢いのまま地面に叩き付けた。

 空が白み始めるまで殴り続けていたが、そろそろ飽きてきたので本題に入ることにした。

「ぽれぱめぇ、ぱくぺぇんぴゃの」=これはね、作戦なの。

「ぽーぱんぺぷか?」=そーなんですか。

 俺達は顔を腫らしまくっていたので、マトモに会話が出来なかった。


 きちんと会話を始めたのは、昼ぐらいになってからだ。

 ハロハルハラたちをゴブリンの国へ案内してくれたのはジノだった。大臣であるジノは国王を説得して、都市計画の助言をしてくれた恩人として国に招きいれた。その時に半島の魔物たちを討伐して統一国家をつくる提案をしてみたが、ゴブリンの国の王は反応が悪かった。

「私たちの戦闘力を信じていないみたいですね」

「まあ、いい」

 ハロハルハラは軍事力を維持するために、土木工事を積極的に行った。道を強固な舗装路として、海岸へと繋がる道を作り、小さいながら港の整備も行った。

「歴史については……」

 ハロハルハラが語ったことは、フィオナが言ったこととほとんど同じ説明だった。迫害された魔物に同情したフィオナの眷属である魔族が神として崇められていた。だが長い年月の間に別の魔物たちが移住、魔物の数の増加により、どんどん権力が形骸化していった。

 だが、フィオナの力を借りて本を解読していくと別の見方ができた。

 ドラゴンなどは半島の一大勢力だが、後年に移住してきたのでフィオナの一族と関係が無いように思えた。それは違っていた。

 移住してくる魔物たちはすべて魔族に挨拶をして住む所を承認されていたのだ。それは本を読み解くと間違いなく書いており、後からの移住者は別の神話を持っていたとしても、それは変わらない歴史的事実だった。

 何日も経ち、ハロハルハラと歴史を読み合わせた。

「つまり、フィオナの一族は半島の承認役だった」

「ふーん、それを狙っていたんですね」

 俺がハロハルハラに歴史と宗教を調べろと言ったのには、王の権力の背景を調べるためだった。たいていの国家は神から権利を与えられて統治をしている――という体裁を取っている。それは忘れがちになる感覚だが、歴史の転換点で浮上してくる問題だ。

「偽装をしようと思っていたが、幸運は転がり込んできた」

 これは少しだけ嘘だ。

 半島の神々の一族はすでに断絶していた。話を詳しく聞くところによると、フィオナは拾い子であり、神々の血を一滴も受け継いでいないそうだ。

「劉備みたいですね」

「大声で主張すれば、クソも立派になる」

 俺は上奏する草稿を考え始めた。

 まず、フィオナを神として保護することを主張する。

 そして、フィオナを拾った神殿を解体して、あらたにゴブリンの国に神殿を建てて、神として祀る。

 その後あらためてフィオナに半島で暮らすことを承認してもらい、正式な国家の設立を宣言する。本当だったら法律の制定などしなくてはいけないが、俺が国を盗る前に地盤を強化しすぎては面倒なので放っておくことにした。法が制定されていないので魔族や人間、吸血鬼の国から見たらゴミのような国家設立宣言だろうけど、周囲の魔物の国に対しては抜群の効果を発揮するだろう。

 ゴブリンも他の魔物も烏合の衆だ。最初は神に承認されたからと言って大して気にしないだろうけど、他の魔物たちに非承認の烙印を押して討伐し始めたら、そうも言っていられなくなるだろう。

「これを上奏するのは良いですけど、プレスター様はどうなさるので?」

「俺か? 俺も別ルートでゴブリンの仲間になろうと思っているが――」

「が――?」

「フィオナの存在をバラ撒いてからな」

 周囲の国々はフィオナの影響力を知らないので、種ぐらいは撒いておかないと後々大きな影響力を期待できない。

 陰謀を重ねるのは趣味じゃあないが、野望の前には小さなことだった。

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