表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/209

第80話 無神

 ナユキは抜刀してベルゼブルを待ち、俺はベルゼブルに突進した。大振りで右拳をくりだして、防御した瞬間に手首を掴んだ。「むっ?」俺は力任せに引き寄せて体勢を崩させて、後方へ回り込んで、背中に蹴りを入れた。反転すると、俺とナユキでベルゼブルを挟み込んだ形となった。常人なら足を止めるが蝿の王は問題なく戦いを始めた。突然現れたナユキへ向けて、ベルゼブルは徒手空拳で刃と打ち合った。「ちっ」ナユキは舌打ちをして、刀で悪魔の王の我武者羅がむしゃらな乱舞を弾いていた。ナユキの膂力ではベルゼブルに傷をつけることはできないが、防御には十分なようだ。殴られるたびに足元の橋が弾け飛び、全身が悲鳴をあげている。俺はアイビーを降ろして逃げさせて、足元の橋の板を掴んで取り、両手使いでベルゼブルの後頭部へ叩き付けた。木片が弾け飛び、ベルゼブルはまったく問題にしなかった。

「くそっ!」

「無駄なんだよ。ぶぁかっ……」

 俺はナユキの横にいるヴィトことスヴェントヴィトを睨んだが、そっぽを向いた。どうやら本性を表す気は無いようだ。スヴェントヴィトの助力が望めないならば、やはり河に落としてみるしかなかった。悪を浄化する川の力か、生命の根源たる川への畏怖心による力か、どちらかは分からないが悪魔祓士エクソシストよりは役に立つだろう。

 俺はナユキを見て、下へ目線を送った。

 橋を殴り、数年前に完成した橋に振動を与えた。我武者羅に掴み、ベルゼブルへ向けて投げつけ、殴りつけ、粉々にされて、ナユキも同調して橋を壊し始めた。「おっとと」ベルゼブルは勘付いたのか、川に落ちないように千鳥足になりながら俺たちに攻撃してきた。だが、俺たちは防御は出来た。足場の悪ければ攻撃力は格段に下がる。とうとう柱脚のみが残り、ベルゼブルは片足で乗っていた。

「こんなことをして」

 俺はベルゼブルが乗っていない柱脚を木の板で壊して、ベルゼブルへ向って横殴りした。

「何になる?」

 ベルゼブルは体勢を崩されているので、柱脚から落ちた。

 落ちたはずだった――浮いていた。

 ベルゼブルの背中から羽が生えて、ブーンと嫌な音を立てて飛んでいた。

「うわーん」

 ナユキは半泣きになりながらベルゼブルへ刀を振り下ろした。鎖骨へ深々と入り、根元から粉々に砕けた。半泣きになるのも仕方がなかった。RPGで雑魚敵と一回もエンカウントせずにラスボスと戦っているようなレベル差を感じた。何度攻撃しても『1』のダメージぐらいしか与えられず、ターンごとに『999』回復されているような絶望感があった。このままではターンを経過し続けて疲労死してしまう勢いだった。誰だって無謀な挑戦はしたくないものだ。それが涙となって現れたに過ぎない……。

 俺だって余りの力量の差に冷静じゃなくなった。

「飛ぶんじゃねー! 糞虫がっ!」

 橋が砕けたので、下に流水がある状態では一歩も近づくことは出来なかった。だから、俺は後方へ血を飛ばして、逃がしていたアイビーを捕まえて手元へと寄せた。

「なんでしょうかー!」

「羽、掴んで来い」

 俺は問答無用でアイビーをベルゼブルへ投げた。ナユキの攻撃を受けていたベルゼブルは透明なアイビーの掴みかかりに反応ができなかった。羽は動きを止めて、ベルゼブルとアイビーは大河へと落ちた。

「よっしゃああ! 俺たちの勝利だ! 勝鬨かちどきをあげろ!」

「うおおおおおっ!」

 あっぷ。と声を出して、ベルゼブルは頭を出したままイヌカキを始めた。一方、アイビーは透明なまま流されていた。

「だから、こんなことをして何になるんだ?」

 ベルゼブルは首を傾げた。

 アテガハズレタ!

「大将! 駄目じゃん!」

「信じるものは救われない」

 ナユキは諦めたのか、旅装を整えた鞄を拾って逃げの準備をした。

 畜生、畜生、最後のアテが外れちまった。どうすれば勝てるんだ? 蝿だからウ○コが好きだろうから、今すぐ脱○して、それを餌に最大攻撃をしたとしても殺せる気がしなかった。そうだよ。肉体の力では勝てる気がしないんだ。体勢は崩せるが関節技で仕留められる気配は無い、関節を決めたとしても力で解かれてしまうだろう。

 ああ、畜生。

 銃を持っていれば撃ってみたいが、肉体に傷つけることは出来ないだろう。確信があった。俺とナユキの力は銃弾以上だからだ。

 ああ、どうしたら良いんだ?

 前世に戻って自動小銃を持ってきても、大口径の銃で撃っても、地雷も機雷もカミカゼアタックも効きそうにない、だったら病気にさせればいいか、毒を盛ればいいか、だがそんな暇は無かった。それに悪の根源たる悪魔にそんなモノが効くかが分からねーしよ。コロニー落としも、隕石落としも、イ○ナ落としも効きそうにない、ならレールガンを作ればいいのか? 無理無理無理! まず作れねーよ! 第一宇宙速度で槍をぶつけても貫けそうにないほどに圧倒的な差を感じた。

 勝てねーじゃん!

 ベルゼブルは順調にイヌカキをして橋へと戻ろうとしていた。

 まずい……。

 その時、コトンと何かが思いついた。

「コイツ」

 根源的なことだが引っかかった。

 何故、存在する?

 まずどうして、いる?

 唯一神の名前の語源を調べると存在するという言葉に行き着くこともあるそうだが、悪魔たるベルゼブルも存在しないはずなのに存在している――と思われている存在だ。その存在は根拠がなく、絶対にいないはずだ。それは鶏が先か、卵が先かと同じ命題だろう。神が先か、人間が先か……もしも人間が先で神を想像力で作ったなら実在するはずがない。

 想像……?

 俺はナユキに「逃げろ」といい、後退した。

 ベルゼブルが濡れたまま橋によじ登ってきた。

「逃げるのか?」

「逃げないよね」

 後ろから突然声が聞こえたので驚いて振り向くと、レッドが一人で立っていた。バロンの姿が見えないと思ったら、大河を馬が泳いでいた。アイビーを助けに行ったのだろう。

「アイビーを助けに行ったのに、川に流してどうするのよ」

 腰に手を当てて怒っていたが、正論なので何も言えなかった。

「おやおや、また仲間が増えたのか」

 ベルゼブルは笑いながら向ってきた。


「まず第一に」レッドはコホンと咳をたてて、「根本的に間違っているわ」

 ベルゼブルは突如現れたレッドが話しかけて来たので、興味深そうに「何が?」と聞いた。レッドはこの世界の人間なので、教団の聖書を読んでいる。それはキリストと言う強烈なカリスマが除外された聖書だが、新約聖書の中にいるベルゼブルについては除外されていなかった。つまり、ベルゼブルの存在については知っていた。

「悪魔は悪を為すための存在だと思っていない?」

 口角を上げた。

「違うのか?」

「まったく違う! 唯一神は全知全能だよ。つまり悪魔の為すことも既に知っている。この世のことは全て知っている」

「……まったく違うという主張が分からんが」

「悪魔は人間を堕落させるために存在する。『人間』を堕落させるために存在することを許されているのに、なんで吸血鬼に固執するの?」

 吸血鬼とは俺のことだろう。キリスト教は人間至上主義だ。行きがかりとはいえ、吸血鬼に固執するのは筋違いとも言えるだろう。

「そんなことは私の勝手だ……。吸血鬼を襲うのも勝手だろう?」

「それを言って良いの?」

 レッドは鼻で笑った。

「それを言ってしまったら、悪魔の存在理由も意味も無いことになるんだよ。存在しなくても良いことにならないかな? 天使が悪魔となったのは『人間』への嫉妬心からだよ。悪魔は人間に固執しているんだよ。なんで人間に嫉妬したの? 唯一神の寵愛が人間に降り注がれたからじゃないの? 楽園喪失で天使の最高位が落ちた理由は嫉妬でしょ? どんな行きがかりでも悪魔は人間に執着していなければいけないのよ。その悪魔が人間を堕落させない――つまりは人間に嫉妬をしなくなった――よって悪魔の存在を証明する人もいなくなるんじゃないかな?」

 ベルゼブルは笑っていた。

 レッドは悪魔を証明する人がいない――神は死んだと言っているからだ。

「これはこれは、空論に空論を重ねてとんでもない結論を」

 レッドが胸を張って、

「結論、神はいない。だけど悪魔はいる」

 しれっと言った。

「はっは! 私は存在しているのが神の証明じゃないか。お前たちも私の事が見えているだろ」

「下位は上位を証明できないわ。」

 ベルゼブルは舌打ちをして、

「神がいないなら悪魔は聖書を焚書している。聖書がある時点で、神がいないなんて……」

「違うな」

 聖書は別の世界から持ってきたものだ。

 俺は転生をしているから分かる。

 それを持ってきたのは、おそらく目の前にいる悪魔だろう。

 何故、持ってきた?

 それは悪魔にも信仰心が必要だからだ。

 やっと理解できた。

 悪魔が存在するには悪魔への恐怖心が必要なのだろう。悪魔とは想像の世界、もしくは魂の世界の住人だ。それが具現化しているのが、目の前にいる蝿の王だ。

 だから圧倒的なまでに強い。

 本体が別次元にいるから、どんなに傷つけようとしても無駄なのだ。

「違うだろ? 蝿の王」

 やっと分かった。

 悪魔は殺すことができない、信仰している者がいるかぎり、消滅させることはできないのだ。存在の根源理由が違い過ぎた。

 この世界の聖書への違和感も納得ができた。

 強烈なカリスマであるキリストを排除しているのは、別の救世主を信仰心で生ませないためだろう。わざわざ違和感なく改変させたのだろう。

「これは困った」

 ベルゼブルは頭をポリポリとかいた。

「お遊びのつもりが、とんだ事になったようだ」

 後ろ向きに倒れて、川へと飛び込んだ。

「まあ、良い……そこへ辿り着いたとしても何も変わらない」

 そして姿を消してしまった。


「もう! アイビーを雑に扱わないでよね」

 レッドが川原へ引き上げたアイビーをタオルで拭いていた。

「おう、悪かった」

「悪いと思ってないでしょ」

「うん」

 もう! と言ってレッドは拭く作業を続けた。

 神がいないのも良い、悪魔がいるのも良い、だけど何でこの世界に来ているんだろう。俺はスヴェントヴィトに腹を割って聞く必要があるな――と思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ