第78話 引越
青々とした葉を取り、巻き煙草を作って煙を吸った。
皆が旅の準備が終わるまで考察することにした。
ベルゼブルとスヴェントヴィトのことだ。
前世――地球ではアブラハムの宗教が勢力を拡大するにつれて、異教の神々を悪魔として取り入れ、徐々に勢力を拡大した。それは逆も言えて、侵略されるごとに取り入れて膨れ上がった。不滅に近い力を有している巨大な思想であった。
スヴェントヴィトも吸収された神々の一人なのだろう。
ベルゼブルが奴隷の神と言っていたけど、スラブの語源は奴隷という意味なので、揶揄して言ったのだろう。スラブ神話はキリスト教によって駆逐されてしまい、おぼろげな影としてしか残っていなかった。
それは良い。
それは良いが、何故此処の世界にいるのだろう。
追い出された?
それは有り得るが……。空想の羽を伸ばせば色んなところへ結論が辿り着けるけど、ミステリーの推理と同じで判断材料が少ないときに考えるのは禁物だ。
紫煙を吐き出した。
異教の神が悪魔になるはずが無いと思うかもしれないが、悪魔には別の言い方がある。『この世の神』と言う呼び方だ。唯一神を崇める者は多神教を蔑む、多神教の神々は世にはびこり、堕落させる神と言ったところだろう。
それすなわち、この世の神、つまり悪魔。
という考えかた。
「煙草吸わないで」
いつの間にかレッドが荷物を整えていて、俺の目の前に立っていた。俺は考察を打ち切って、レッドの旅姿を見た。鞄が一つだけで余分なものを持っておらず、服装は動きやすそうだった。
「俺の唯一の楽しみが」
レッドが胸を張った。
「私というものがいるじゃないか……」
張った胸を掴んだ。
……レッドの顔が名前通りに真っ赤になり、胸を押さえて退いた。
「公衆の面前でなんて言う事を!」
「俺にはレッドがいたのを忘れていた。ちゅーさせろ、ちゅー」
「やだ。煙草臭い!」
「なんだよー」
俺は煙草を地面で消して、数年前に作った濾過装置の水を飲んだ。美味くはないが、水分補給といったところだ。吸血鬼も熱中症になるのである。
「手を出すなら、夜に手を出すがいい」
ちなみに俺たちは肉体的に結ばれていなかった。吸血鬼数世紀の夜伽技を教えている最中であり、まだ序の口の段階だった。
「まだ、嫌がっているくせに」
「嫌がっているんじゃなくて、怖がっているの」
「ほとんど変わらんよ」
「でもさー、ああいうこといっぱい教えてくれるなら、別にいたしても構わないんだけど」
「お前はわかってねーなー」
良いかい? 人間と吸血鬼の間に子供は出来にくいんだよ。
うん、前に聞いた。
だから、いっぱい行為に及ばないといけないわけさ。
うわー、頑張らないと。
でだ、毎日毎日同じ食事だと飽きるだろ。
ぷーちゃん、吸血鬼だから大変だよね。
そう、その通りさ。俺はね。食事のメニューを増やそうとしているだけなんだよ。月曜日はアレ、火曜日はコレ、水曜日はアーレー、木曜日はヒエー、金曜日はヤメテー、土曜日は日曜日は次の週は次の月は次の年は次の年! 次の年! 次の年! ……365日すべて別メニューを目標にしているんだよ。
えー! そんなに覚えられないよ。
諦めるな! 諦めたら子供は出来ないぞ。俺との子供が欲しいだろ?
うん、欲しい!
だったら、毎日するのさ! 当然だろ?
うん、理屈は正しいよ!
その通りさ、俺は間違ったことはしていない。レッドとエッチなことをしたいって訳じゃあないんだよ。俺は生殖行為を行って子供を生もうとしているのさ! 断じて、レッドが好きだから毎日チューしたいとか毎日エッチなことをしたいとか思っているわけじゃあないんだよ。ああ、俺は子供が欲しいのさ! だから毎日毎日いたしたいと言っているだけだ。何も間違っていない。間違っていないだろ。俺が間違っていたら、世界が誕生したことも間違っているようなもんだ。動物たちは生殖行為を行ってここまで増えてきたんだ。断じて、気持ち良いからとか、気持ち良いからとか、気持ち良いからとか、そんな低俗な理由で生物は繁栄したわけじゃあないんだよ。君の両親も、そのまた両親も、みーんなはね。子供を作ろうとして行為をおこなったわけだよ。エッチな気分なんてこれっぽっちもなかったのさ。行為で受精する子供の将来を語り合いながら行為に……!
「何、アホなことしているんだ」
俺は気づいたら、レッドの服をめくり上げて、臍をなめていた。言葉をかけたのはユニコーンのバロンだった。ユーリの宿屋の馬として働いていたが、俺の誘いに乗って来ることになっていた。とりあえず用意は済ませたようだ。申し訳程度に荷物が首からぶら下がっている。
代わりの馬を探す時間が無かったので馬の代金をユーリに預けたので、バロンは遠慮なく俺と一緒に来ることができる。
「いま来なかったら、危ないところだった」
レッドは硬直して動かなかったが、臍に唇をつけて、目の前で起き上がると、真っ赤な顔をして額から汗を流していた。
「大将、私たちは仲間探しに行くからね」
ナユキとヴィトは旅装もそこそこに腹を膨らまして宿から出てきた。やつらにとって旅の準備とは腹溜めすることだったようだ。
「あー」
そういえばそんなこと言ってたな。
てっきり一緒に戻るものかと思っていた。
「いま、一緒に行くものと思っていたでしょ。アホですね」
俺の手刀がナユキの首に叩きつけられた。
「痛い!」
「面と向ってアホとか言うな! 影で言いなさい、影で」
「影ならいいんですか」
「聞こえなきゃね」
「人間がでかいですね」
「吸血鬼だけどな」
ナユキが溜息をついた。
「私は昔の知り合いのところへ行って戻るので、大将たちと途中で合流できるようにしますので、一応道順を教えてくれませんか」
俺から道順を聞くと、一人と一匹はとっとと旅立ってしまった。
遅い。
アイビーがいつまで経っても来なかった。
待ちくたびれたので、別れの挨拶を告げたユーリに再び会った。
「もう戻ってきたのか」
「そんな訳ねーだろ。アイビーは?」
「アイビーならとっくに出て行っているぞ」
……ホワッ!
「いつ?」
「お前が挨拶をしたすぐ後だ」
ベルゼブルとスヴェントヴィトの考察をしていた時だけど、視線はずっと出入口に向けていた。
……透明になっていたのか。
わざわざ俺から姿を消して何処かへと行ったのだ。
「どこへ行くって言っていた」
駄目もとで聞いてみると、良い返事だった。
仇討ちを成功させた少年に会いに行ったそうだ。
「という事だと、レッドの能力は協調性がねーなー」
「そんなこと言われてもー」
レッドはバロンに跨り、俺の後ろを追ってきている。
ユーリは待ち合わせの場所を知っていたので、俺たちは走って向っていた。だが、近づくにつれて様子がおかしいのが分かった。何故か人だかりが出来ていた。
「様子がおかしいな。お前らは遠くにいろ」
俺は近くの木によじ登り、人だかりの中を覗いた。
「ちっ」思わず舌打ちが出てしまった。
アイビーはベルと睨みあっていたからだ




