第73話 透明
『ワタシキトク スグカエレ ハロ』
変な手紙が来たので、丸めて捨てようとしたけど、怒りの感情を抑え込んで続きを読んだ。もしかしたら何か重要なことが書かれているかも知れなかった。
『嘘です。すみません。えーと、ハロハルハラです。名前が変なので間違えないとは思いますが、あなたの愛人です。うふっ』
アイツ、コロス。俺は決意した。
『すみません。また、ふざけました。仏の顔も三度まで言いますので許してください』
俺の顔が仏になることは一度も無いけどな。特にお前には。
『状況報告です。半島に到着して、ゴブリンのジノと話をつけました。プレスター様の言うとおりに全部の武器は放棄しましたが、念のためにまとめて隠しておきました。遠くなのですぐに確保するのは難しいですが、他の連中には見つからないと思います。
ジノはこちらに好意的ですが、ゴブリンも一枚岩ではないようで、国王とは不穏な雰囲気です。家を借りた身として、工事に従事していますが、なかなか図面の方を手に入れるのは難しいですね。なので、ナユキと私で色々なところへ言って簡易的な図面を書いているところです。歴史と宗教は調べている途中ですが、半島には土着の宗教があったようなのは確かですが、それぞれの種族ごとに土着と独自の宗教が混じっているような状態です』
ほうほう、ハロハルハラはけっこう頑張っているようだ。
『今のところ何も無いですが、上に立つのは苦手なので早く戻って着て欲しいです。PS.お土産はういろうがいいです。買って来てください』
俺は手紙を丸めて、一息で飲み込んだ。
「もう一回転生しろ!」
「どうしたの? ぷーちゃん?」
「ああ、気にするな。俺の部下からの手紙だ」
囚人の一人だったエルフが外で待っているので、追加の指示を出して渡した。ハロハルハラは手紙をスペイン語で書いたが、俺は中国語で書いて渡した。書いた後に、ハロハルハラが中国語を読めるか分からなかったがもう遅かった。
「まあ、いいか」
快晴の日和は続いて、安逸を貪るように生きていた。平和に生きてはいたが、今まで調べていなかった世界情勢というものを調べて、それぞれの街の商人や有力貴族なども調査していた。冒険者ギルドに依頼して調べていたが、俺の名前と顔はバレているのでナユキの名前を借りて依頼した。
そんな日が続き、そろそろ旅立たないとなーと思っていた頃だった。
レッドの超能力であるアイビーが姿を消した。気は荒いがなかなか良い子で、レッドと一緒にユーリの仕事を手伝っていたのだが、突然消えてしまったのだ。
当然、捜索するのは暇な俺。
捜査の基本は足である。俺は聞き込みをして、アイビーを見かけなかったか調べつくした。すると、子供と歩いていた証言を得た。
なるほど幼児誘拐か。
誘拐犯は懲らしめるしかないな。
俺は消えて行った方向へ行くと、少年は見つかったがアイビーはいなかった。朽ちた教会に少年はいて、他に誰もいなかったので訪ねてみようとすると、少年は茶錆びた剣を構えた。
おっ、やるの?
俺は悪意に対しては容赦ないよ。
「お前、誰だ?」
その質問の答えは難しかった。
「人間の敵かな」
少年は外壁に背を向けて、ジリジリと後退した。足は草むらを踏み潰しながら、虫たちを飛び上がらせていた。
「まあ、待てよ。俺はアイビーという女を捜しているんだ」
眼の色が変わった、コイツは何かを知っている。
「おねえちゃんを狙っているのか?」
「俺は同居人だ」
この言葉に勘違いしたのか、眼の色に失望が広がった。
話を詳しく聞いてみると、少年は敵討ちの旅に出ているそうだ。首都から教団の一行をつけて来ていて、やっと橋の街で追いついたそうだ。それは教団のベルたち一行の中にいた。バルティカ王国の使者のビィを護衛する教団の兵士の男の一人だそうだ。
その男は少年の父親と親しき仲だったそうだが、物事は不変であるように友情も形を変えたようだ。ある時少年の父親はクーデターを目論む組織の一人となり、男は教団の護衛兵となった。数ヶ月前、クーデターを目論む組織が大掛かりな作戦に臨むことになり、少年の父親は怖じ気がついたそうだ。
友人であった男に全てを洗いざらいに話すから、命だけは助けてくれと懇願した。
少年の父親の裏切りによってクーデターを目論んだ組織は一網打尽にされたが、教団の処罰の触手は根元にまで及んだ。少年の父親の裏切りにより助かったとはいえ、一度裏切った者を許すことはしなかった。
となると、その男にも触手が及ぶことになる。
男は忠告される前に、少年の父親をだまし討ちして殺し、今の地位を保った。粛清の嵐は親類縁者にまで及び、命からがら逃げ出せたのは少年だけだった。少年は冒険者ギルドに頼んで、敵討ちの助太刀を頼んだそうだ。
それが、アイビー。
おそらくレッドは知らないだろう。
俺は少年に隠れてついて行き、敵討ちの顛末を眺めた。アイビーは街娼を装い、男を一人だけにして、少年が剣を握って突進するのを助けた。男は力任せにアイビーを振り切ったが、アイビーは諦めずにもう一度組み付いた。
俺は眼を疑った。
アイビーは姿を消した。
だが男は押さえつけられたように地面に倒れた。
H.G.ウェルズの透明人間、もしくは光学迷彩と言ったところだろうか。至近距離とはいえ姿が見えない相手では振りほどくのも一苦労だった。その間に、少年の剣は男の首筋に溶け込み、一つの命は昇天した。
俺は少年から離れて家路についたが、途中から後ろに気配があった。
おそらくアイビーだろうけど、悪戯を考えているのかナカナカ近づいてこなかった。
ミナと闘った時に、視覚を使わずに闘った事もあるので、なんとなくの気配はかすかな物音で伝わってきた。
アイビーが早足になった。
俺はその場でしゃがみ、後ろに跳ねるように転がった。足にあたった感覚があり、目の前の地面が動いた。足で背中を踏みつけて、首を締め上げようとしたら、柔らかいものがあたった。
「なんてデカイ首だ!」
「いやー! そこは胸!」
しっとるわ。
俺は立ち上がって、脇腹を蹴って、もう一回背中を踏んだ。
「もう二度と、悪戯はしませんと誓え」
「……しません」
「聞こえんなー」
などと、しばらく虐めていると、
「ぷーちゃん! アイビーを虐めないでよ!」
レッドもアイビーを探しに来たようで、俺が寝技の練習を一通りしているところを見られた。ちなみに最後にしていたのは、上四方固めだ
「しかもド変態なことして!」
「いやー、楽しかったー」
アイビーは半泣きになりながら、俺を見ていた。




