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第71話 初夜

 怒るのには理由がある。

 俺は考えてみた。

 レッドと分かれたのは何年前だったろうか……。

 ひいふうみいよーいつむう……。

 六年前――いや、すでに春になりかけているので六年半前だ。あの時に、俺は何を言っていただろう。たしか、浮気したら許さないとか、そういうことを言っていたはずだ。それに求婚していたよね……。

 いやー懐かしいねぇ。

 俺が昔を思い出して懐かしんで頬を緩めていると、レッドは無言のまま顔をしかめて見ている……。おやおや、最後にあったときの発言うんぬんじゃあないみたいだ。

 レッドは十七歳になっていた。

 結婚適齢期と言ったところだろうか。

 街道沿いの宿屋で育ち、何十人からも冗談と本気交じりで口説かれていたのだろう。その中には良い男もいたかも知れなかった。だけど、俺のことをずっと待っていて、まったく音沙汰が無かったわけだ。

 ああ、そうだ。

 俺が封印されていたことを知らないわけだ。

 つまり何年間も放って置かれたと思っているのだ。

「あの~、レッドさん。俺の言い訳を聞いてくれないか?」

「……遅い」

 ああ、やっぱり、そういうことですか。

「遅い遅い遅い遅い遅い遅い!」

 レッドは踵を返して、怒りながら歩いて行った。俺は追い縋ってついて行ったけど、レッドは後ろから俺がついてくるのをチラリと確認しながらどっかへ行こうとしているのが可愛かった。

 大丈夫、当然ついていくから……。

「あの後さ、封印されていたんだよ。だから、戻って来ようにもなかなか戻って来られなかったんだよ。六年間も封印されていたんだぞ」

「……半年間は何をしていたの?」

「別れる前に言っただろ? 国を作るための準備をしていたんだよ。まだまだ、作っている途中だけど、迎えに来られるようにはなったから来たんだぞ?」

「その前に、迎えに来てくれたら良かったのに」

「意地悪なことを言うなよ。昔はもっと素直だったのに」

 カチン、と来たのだろう。止まって振り向いた。

「おお、可愛くなったな」

 俺は瞬時のうちに近くまで寄って間近で顔を覗いた。肌理は中国の磨きぬいた玉のように輝いていて、指で触れてみると絹のように触り心地が良かった。頬に触れて、柔らかい唇に触れた。間近でじっくり見ていると恥ずかしいのか、顔を真っ赤にした。

「私……」

「ん? どうした」

 レッドは下を向いてから、俺に懇願する目付きなった。

「本当に私の事を好きなの?」


 まあ、レッドの言いたいことはこうだった。

 六年半前の旅で、レッドは俺と結婚したいと言い続けていたけど、俺がレッドと結婚したいと言ったのが最後だけだった。

 だから、慰めてくれただけかと思っていたそうだ。


 それは、由々しき事態だ。


 だから――。

「止めてよ。恥ずかしいよ!」

 俺は抱きしめて、

「愛している! 愛している! 愛している!」

 と言った。

 ここから、俺の嫌がらせが始まるとはレッドは思わなかったようだ。


「昔、子供の作り方を教えただろ。レッドの夢を見ちゃったよ」

「も、もう良いよ」

「俺も会いたかったんだぞ」

「私も」

「しかし六年半も経つと、胸も大きくなったよな……触って良い?」

 レッドは少し返事に迷ってから頷いた。

「お前ら、我輩がいるのを忘れていないか」

 俺達はユーリの家に戻り、ユーリと奥さんに挨拶して、大きくなった子供たちと一緒に遊んで、ユニコーンのバロンの馬小屋で逢引をしていた。

「なんだ。馬野郎。今いい所なんだよ!」

「だったら、わざわざ我輩のところでするな!」

 俺は頭一つ分身長に差のついたレッドを膝の上に乗せながら、バロンに向って怒鳴った。少女の固い体から、柔らかい体へと変わっている。後ろから抱きしめながら、処女が大好きなユニコーンを挑発した。

「一緒に来ないか?」

「……我輩に言っているのか?」

「ああ」

 バロンは迷っていたが、返事がすぐじゃなくても良かった。ユーリの馬として色々働いているかも知れないし、レッドを連れて行くのにこれ以上人手を少なくしたらユーリが可哀想だった。

 だが、バロンは必要だった。

 レッドに離れないでいてもらって、守ってもらいたかった。魔物が数多く住む半島では人間の身であるレッドにとっては荷が重いだろう。

「分かった……レッドの処女は俺が守る」

「それは守るな! 俺が奪うの」

「だから、人前でそういうことは言わないでよ!」

 馬前だけどね。

「だめだね。俺の愛を証明してあげるから」

「止めてよー!」


 と、まあ、夜である。

 俺たちが好きあっている仲を知っているので、ユーリは二人部屋を用意してくれた。

 俺としても思春期の肉体である。

 監獄で夢を見て粗相をしたように、若き男性の肉体なのだ。

 据え膳食わぬは男の恥だ。

 俺は身体を完全に綺麗にして、野獣のように待っていたが……。

 レッドは震えながら、部屋に入ってきた。

 曰く、友達の経験談から痛いと知っている――だから怖いと。

 まあ、分かる。

 女性は最初ほとんどの人がそうだ。

 だが、そこは吸血鬼生活数世紀の技術テクニックが俺の魂に刻み込まれている。徐々に教え込んでいくが、初体験の相手に対しての経験人数は星の数ほどである。

 篭絡するのは簡単だが――。

 しかし、目の前の女は星の数ほどのどうでもいい相手ではなかった。

 大事にしてあげたかった。

 そういうわけで、俺たちは並んで六年半の思い出を語り合った。それはとても一夜では語りつくせなかったので、何日も話しこんでお互いの空白を埋めたのだった。

 話の終わりには唇を交わして、俺達は眠った。

 俺はそれで満足だった。

 数日の間、俺は深く眠ることができた。

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