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第7話 家族

 数日が経過して、冒険者たちが村へやってきた。旅芸人も村にいたので、にわかに人が増えて、俺はハロハルハラと会うことを止めていた。いくら力の差があろうと、誰にだって油断はあるので警戒することに越したことは無い。冒険者たちはすぐに男の死体を見つけて、燃やしたそうだ。日数が経過しているので、原形はほとんどとどめていないだろう。男の家族にその姿を見せるべきではない。

 魔物と出会っての死と勘違いしてくれればいいのだが、冒険者たちは屍人の仕業と思うはずだ。そうなると、冒険者ギルドへ報告をされることになる。そうなれば、もっと強い奴等がハロハルハラを殺しに来るだろう。

 ハロハルハラは近いうちに山から去らなければならない、俺も仲間だからついて行きたかったが、食料の問題があるのでそれは叶わなかった。俺は不完全とはいえ鬼の力を有しているので、冒険することは楽だけど、食料を確保するのが大変だ。確実に得ることの出来るミナと離れることは考えられなかった。

 食料を安定して確保できなくなれば、変身能力も衰えていき、身体能力の高いだけの鬼となってしまう。

 本当は、それで良いのかもしれない。

 だけど、一度得た力はそう簡単には手放せなかった。


 俺は子どもらしく散策しながら、村を歩いていると、冒険者たちが山に行くのを見た。もしかしたら、ハロハルハラの元へ行くのかも知れなかった。そうなれば、必ず戦闘が起きる。俺はいったん家に戻ろうとしたら、広場で物を広げていた旅芸人が片付けを始めているのを見た。

 もうそろそろ村を後にするのだろう。

 だが、あの少女の姿は見えなかった。

 茅葺屋根の修理はほとんど終わり、村人が作業する音が絶えてしまった。小鳥のさえずりが聞こえて、いつも通りの静かな日常が戻ろうとしている。このまま平和な日々が続くなら何も問題が無い、この世界には色々と不満があるが衣食住が満足できればそれで良かった。

 俺も家具を完成させて、頼まれた家に持って行き、自家製のチーズを貰った。麦の芳醇な香りのするチーズで美味しかった。

 俺は食べ歩きしながら家に帰り、扉の前で止まって、耳を澄ました。ミナが誰かと話をしていたからだ。家の裏の山羊と牛の納屋から天井裏へと昇って、天井の隙間から下を覗いてみた。


 ミナと話していたのは、旅芸人の少女だった。

「戻ってきなさい。もう、十分よ」

 上から目線の声が、旅芸人の少女だった。

「嫌だ。戻ったら、プレスターを殺す気でしょ」

「当然よ。彼は吸血鬼よ。当たり前のことじゃない」

 喉が渇き、二人の会話に耳を澄ました。

 何でこんな会話をしているんだ。

「教団の執行官がいつまでも席を空けるわけにはいかないのよ」

 執行官。

 薄々気付いてはいたが、ミナは教団の関係者だったようだ。ソレは分かるが、俺と同い年くらいの少女と対等に話しているのが気になった。この村に来てから彼女は教団とほとんど接触をしていなかった。もしかしたら意図的に避けていたのかもしれない、俺が吸血鬼だからだろうか。


「……」

 不自然な沈黙が俺には幸運だった。

 体を捻ると、剣が刺さり、天井を貫いて何度も剣が襲ってきた。

 天井裏を這いながら、家から飛び出すように出ると、旅芸人の少女が追ってきた。

 ここでは村人を巻き込む、鬼の力で走ると、平然と少女はついてきた。その後ろからはミナもついてきている。人間の姿をした人外たちの闘争が始まった。

 俺が追い詰められた場所は崖の上だった。ここならもしもの時も崖の下へ降りれば、人間ならついてくることは出来ない。俺ですら痛い高さだからだ。

「もしやと思ったけど、命の恩人が吸血鬼か」

 艶やかな表情を浮かべて、剣を煌かせた。

 前髪を切られ、位置を変え、俺は徒手空拳で剣と相対した。当たらなければ良い、ただ反撃も出来なかった。超近距離以外は徒手空拳は不利だ。

「人間は恩知らずだな。命の恩人を殺そうとするとは」

「それが人間だ」

 剣を空振りにさせ、一気に間合いを詰めた。

 多少の怪我は怖がらない、これが命の有るものと無いものの差だった。

 頭/鳩尾、二点同時に突きをいれ、怯んだところで服を掴んだ。

 近くにあった木の根に投げつけて、頭に衝撃を与えた。

 反撃に剣がなぎ払われたが、力のない剣は手の甲で受け止めることが出来た。それは吸血鬼の身体能力が高いから出来る芸当だった。肉を断たせて、骨で止める。

 だが、少女の動きは止まらない。

 靴を蹴り脱ぎ、俺の顔面に衝突させ、自由になった足で木の枝を掴んだ。盗賊たちを一掃した時の足技はしなやかで眼にも止まらなかった。

 気付いた時には脇腹に枝が刺さった。

「女は女らしく弱い方がモテるぞ」

「残念だけど、モテるのには興味なくてね」

 久々に攻撃を食らったからイライラしてきた。

 少女が顔面目掛けて蹴りを入れてきたので、腕で止めた。

 だが、当たった瞬間にしなやかに曲がり、鞭のように顔面の横に当たった。

 柔軟性がなせる技だが、いい加減――我慢の限界だった。

 足を掴んで、股を蹴り上げて、悶絶している間に足を両腕で掴んで樹へ投げた。

「あんまり舐めるなよ。人間」

 木の葉が舞い落ち、少女は血を吐いた。


 美しい血だ。

 舌で舐め上げたくなる。

 だが、俺は血を拒否する。


「おい、女。お前はミナの知り合いか?」

 少女は血を吐きながら、笑っていた。

「知り合い? 当たり前じゃないの」

「どういう関係だ。教団なのはすでに聞いた」

「私はミナの姉よ」

 一瞬頭が混乱して、機を少女に譲ってしまった。

 少女は木の枝を拾って、今度は腹の中心を刺し貫いてきた。

 素早い突進だった。

「あははははっ! 油断油断」

「クソッ……」

 避ける反応は遅れたが、反撃には十分だった。

 左手で首を持ち、樹に押し付けた。

「戯れ言を! 死ね!」

「殺せるかな?」

 少女は自信満々に睨みつけていた。

 俺は右手で心臓を刺し貫こうとしたが、俺と少女の間にミナが入ってきた。

 俺は反撃をやめ、少女の反撃を食らってしまった。

 左目に指が入り、激痛が襲ってきた。

「よそ見するなよ。思わず目をつぶしちゃったよ」

 俺は退いて、怪我した目を抑えた。

「駄目!」

「ミナ! 何を!」

「この人は……あなたのお母さんなのよ!」

「その通りさ! 馬鹿息子が!」

 右目に指が飛んできたので、少女を蹴り飛ばして、跳んで距離を取った。

「何を訳の分からないことを」

「本当なのよ。信じて」

「愛しきボーヤ。お願いがあるの……死んで」

 駄目だ。

 理解が追いつかない。

 俺は崖から飛び降りて、川へと飛び込んだ。

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