表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/209

第66話 食卓

 それは巨大だった。神話で神々と対決した巨人たちも同じような威容だったのだろう。

大きいから遅いと言う常識はまったく無く、ダンビラは神速で俺の馬を真っ二つにした。馬は折り目のある紙のように真っ二つになり、破れ目が粗雑で、血が水風船を割ったように飛び散った。俺はダンビラの刃先を避けて、棟側に音をたてずに乗った。殺された馬はあきれるほどに駄馬だった。だが、篭城のなか訓練を続けて名馬への道が開けていた。

 それが、ここで潰えようとは……。

 俺は百手巨人ヘカトンケイルを睨んだ。

「ゴミが手前は馬の仇だ」

 俺は棟をゆっくりと歩き、すぐに走って不意をついた。

 百手巨人ヘカトンケイルの大声が俺の体を芯から震わせた。

「避けたか。だが……甘い」

 俺の体に手が殺到してきた。三回斬り捨て、棟を滑りながら親指を斬った。すぐに手が殺到してきたので反撃を諦めて、襲い掛かってくる百の手を足場にして、跳んで逃げた。手の先には歪な指が生えている。腕は細いものもあれば、太いものもあり、骨の無いものもあり、踏んだ感触はグニャリとして薄気味悪かった。深海生物の触手のように気持ち悪くて、内臓が外に出て暴れているような感触だった。

「遅い」

 脇腹に痛みが走り、親指が異常に発達した手がめり込んでいた。ラケットで打たれたように一直線に地面に叩きつけられて、ハロハルハラの横に転がされた。俺は受身を取って立ち上がり、身体に異常が無いか点検した。

 叩きつけられたところ以外は平気だった。

 ハロハルハラがこちらを心配そうに見ていたので、

「ただいま」

「おかえりなさい」

 ハロハルハラが手を掴んで起こしてくれた。ハロハルハラは迫りくる巨人を睨みつけて、右肩を回転させてならした。近くにいるエルフから槍を渡されて、百手巨人ヘカトンケイルへ向けて槍を構えた。

「食らえ!」

 ハロハルハラが大きく振りかぶって、槍を一直線に百手巨人ヘカトンケイルに投げつけた。言葉と同時に囚人たちが投げ槍をした。多くの槍は百手に叩きつけられたが、ハロハルハラが投げた槍は手を穿ち、百手巨人の喉に刺さった。

美事みごと

「まあまあですね」

 と言いながらも、喉に刺さった槍にご満悦のようだった。

「さて、どうするかな」

「どうしましょう」

 教団の執行官が来るのは分かっていた。橋の建設中に執行官が吸血鬼退治に急遽向ったことがあった。監獄には多数の吸血鬼が封印されているので、監獄破りが起きたとなれば執行官を向かわせるのは道理だった。

 雲が上空を横切ったかと思った。それは百手巨人の手で、一斉に色んなところへ広がった。ドワーフ、エルフ、人間、敵味方関係なく手は襲いかかり掴んだ。手が悲鳴と共に戻ってきて、次々に人面疽が食った。

 バリボリバリボリグチャ。

 軟骨を噛み砕くような安っぽい音だった。人面疽から果物を食べたように汁が溢れて、雨水が跡を残すように肌が汚れた。


「私が行きましょうか」

 ナユキが指笛を吹いて、手下の人間たちを集めた。ナユキの配下たちは囚人たちと比べて質が違う。魅了チャームを使えば、どんな死地にでも恐れが無くなる。だが、馬が無いので機動力が足りなかった。

「お前らでは機動力が足りない。だから、あの女を頼む」

 あの女――シルヴィア・ウォーターズは地面を歩きながら、立ち向かってくる男たちを撫で殺していた。ある時は素手、足、刀を使って、一瞬のうちに斬り殺した。『王の眼』は全てを見通す。相手の弱点を的確に突いて、覇気の無い一撃必殺を次々に繰り出している。

「分かりました。ただ――」

「どうした?」

「私の力は性的興奮が引き鉄なので……キスしてもらいたいんですが?」

 ……はあ?

 ナユキは顔を隠していた布を下げて唇を出した。

 俺は唇を押し付けて、離す時に甘い香りを嗅いだ。

「これで良いか?」

「はい、大丈夫です」

 ナユキは頭上に甘い香りを吐いて、男たちを操って、シルヴィアへ突撃していった。

「ヒューヒュー、色男。婚約者にチクリますよ」

 ハロハルハラがからかってきた。

「お前はガキか。キスぐらいで騒ぐな」


 女心を弄ぶのはいけないなぁ。

 俺の中の祖が話しかけてきた。

 どうしましたか?

 どうも、こうも、アレと戦いたいのよ。

 百手巨人ヘカトンケイルとですか?

 ああ、アレは私の記憶にすらない化物だ。神話でしか聞いたことがない……。

 ですが、危ないですよ。

 頼むよ、ジョン……。

 分かりました。

 俺は祖の願いを無下にすることは出来なかった。

 俺は胸の前の服を両側に破いた。ハロハルハラが変な顔をしたが、俺の体が変貌するのを見て、目を見開いた。俺の胸と臀部は柔らかく膨らみ、腰が細くなった。背中から翼が生えて、髪の毛も長くなった。

「プレスター様……」

 ハロハルハラも俺が祖に変身したのを見たことが無かった。祖は俺を通してハロハルハラのことを分かっているので、腕を絡ませてハロハルハラに抱きついた。

「生きていて、嬉しいぞ」

「あっ、はい。どうも、ありがとうございます」

 祖はバイセクシャルなところがあるので、ハロハルハラに好色的な目つきをした。


「さて、地獄の蓋を開くとしようか」

 私は空を飛びあがり、爪で百手を切り刻んだ。百手に掴まれた中に皇子を護衛していた女がいた。空中で体を受けて、地面に下ろしてあげた。

「どうして?」

「貸しイチな」

 助ける暇があったから助けただけだった。

 実際、助けている間に百手巨人ヘカトンケイルに攻撃されることは無かった。私は再び上昇して、襲いかかる百手を回転しながら避けて、巨人の耳を掴んで、そのままの勢いで引っ張った。古代の出雲大社が倒れた時も同じような衝撃が伝わったのだろう。地面に生えた木々に後頭部を激突させて、脳を壊そうとしたが木々の方が負けてしまった。

「残念」

「おのれ! 吸血鬼め!」

 返答している暇は無かった。

 私は木を引っこ抜いて、額に向けて振り下ろした。硬い物が崩れる音がした。私は執行官の弱点である白濁した液体を露出させようとした。だが、攻め方はお互いに分かっているものだ。私は後ろから来た手に気付かず、足を掴まれて地面に叩きつけられてしまった。続けて手が押し付けられ、私は強烈な一撃に死ななかったが埋まってしまった。

 手が離れた瞬間に、私は脱出して、空を飛んで距離をとった。

 大丈夫ですか?

 ああ、問題ない……が。

 が?

 血を飲んでいないと力が出ないものだね。

 私に向って何かが飛んできた。何かは瓶だった。私は瓶を掴み、中を覗いてみると透明な液体が入っていた。

 飛んできた方向を見ると、変なのがいた。

 あれは?

 ……人間の皮だ。

 それは人間の皮を繋ぎ合わせて作られた大きな服だった。全身を隠しており、眼の部分だけ、虫の眼のようなものがつけられていた。

「やはりアルカード様の血族のものでしたか」

 その声はオセロだった。他にも人間の皮を被った吸血鬼たちがいて、襲い掛かる百手を次々に叩きのめしていた。

「これは何だ?」

「人工血液です」

「なるほど……由来は」

「品種改良された豚です。……これなら大丈夫ですよ。ただ、条件があります」

 何故、こんなものを持っている? と聞きたかったが、私には選択肢は無かった。

 飲むぞ? いいな?

 ……待ってください。

 大丈夫だよ、ジョン。あの男は私には嘘をつかない。

 私はオセロを見下ろした。

「条件は?」

「アルカード様に会っていただきたいのです」

「お父様に? 良いだろう」

 私は透明な液体を口に含み、飲み下した。全身が熱くなり、完全なる充足が全身に行き渡った。コレハ、カンペキダ。全身が脈打ち、蘇生された患者のように生に満ち溢れた。

 私は巨人を睨んだ時に分かった。

 実力は拮抗したと――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ