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第63話 早熟

 馬鹿息子と呼ぶのは止めよう――皇子は平然と軍を操っていた。これが女に溺れて、精根を搾りつくされて、傀儡と化していた男なのだろうか。彼は別人と化していた。いいや……これが本来の姿なのかも知れない。王族の権力争いは激しく、日常が騙しあいで殺しあいだ。殺されるくらいなら馬鹿にされて生きたほうが良いだろう。彼は非凡な能力はあるが、女好きだった。女好きなら大望を持たずとも、女色に溺れていても幸せだろう。

 俺が安息をへし折るまでは……。

 辺境のクダラナイ戦い来て、部下に全てを任せていたが、たかが囚人如きに勝つことができなかった。このままでは取り返しのつかないことになる。果ては自分たちの命が危うくなる。

 しかたないから、俺がやるか……そんなところだろう。

「ハロ……。面倒なことになりそうだ」

「そうですね。ああいう手合いが一番面倒です」

 戦争とは勉強して覚えるものではない、天性の呼吸と言うものがあり、血煙とキナ臭さのなか自然と呼吸できるものが強い。だが強いからと言って全て勝つわけではない、どんな名将といわれていても必ず負ける。必勝ならぬ、必敗を食らわせてやろう。

「面倒だが、楽しいなぁ」

 俺の悪辣な笑みを、ハロハルハラは笑いながら見ていた。


 皇子は不甲斐ない部下を処刑して、実権を完全に掌握したようだ。老兵も姿を見せず、独力で俺たちを鏖殺おうさつしようとしている。支配系統も一新させて、夜伽をしていた女傑たちが兵士たちの上にたった。女が男の上に立つのは抵抗がありそうなものだが、若き軍人が処刑されたのを見て、兵士たちは粛々と従っている。自分たちを従えているのは馬鹿ではなく、鬼神のように怖い男だと分かったのだろう。完全に軍隊を立て直したようだ。

 あの女たちは本当に曲者だった。俺たちは火計を成功させたかにみえたが、肝心要の火薬庫と食料庫を炎上させることが出来なかった。ナユキたちの配下は、女たちに斬り殺されてしまい、おおがかりな火計は失敗に終わった。

「武力は無くて、暴力からは女に守ってもらって、夜は天下無双」

 ……うわー、アイツ男の敵だ。

「色男ですね。よほどアレがアレなのか」

「いや、アレがアレーでアレかも知れないぞ」

「な、なんと……それは勝ち目が無いですね」

 本当に伝わってんのか?

 ちなみに俺は適当に言っているぞ。

「しかし……『私』といい、ナユキといい、皇子の取り巻きといい、これからは女尊男卑ですね! 我を崇めよー!」

 お前、大して活躍してないけどね。

「だったら、お前がどうにかしろ。ハロ。ボクチン、ナンニモ、カンガエマセンヨ」

「そげなー」

 男女は別の生き物と言われるくらいに性質が違う。個人対個人の武の勝負なら、男が力で押し切れるだろう。だが、集団を操る戦争となると様相が変わってくる。微妙なところで違和感があると、とても遣りづらくなるだろう。


 メンドクセー、と俺たちが溜息をしていると、遠くから爆発する音が聞こえた。

 どしーん。

 ずささささっ。

 俺たちはお互いの頭の上に『?』を浮かべて、外を見た。俺たちの防御施設に雪崩が襲いかかり、土壁が辛うじて半分残ったが、他は全て埋め尽くされてしまった。雪崩が起きた部分を見ると黒い点があり、それは大砲の玉だと分かった。

「な、雪崩を起こしたの!」

「あちゃー、防御設備が飲み込まれたよ」

 俺たちが雪崩を使ったときに、雪はほとんど流れていたが、また溜まっていたようだ。おそらく俺たちが雪崩を起こしたのを聞いて、使えると思って、意図的に起こしたのだろう。

「ど、どうするんですか!」

「大丈夫だ……多分ね」

「や、やばい」

 ハロハルハラが慌てて、部屋の中をフラフラと歩いていた。

「まだ、諦めるな。雪だぞ。落とし穴とかが埋まっても、歩きづらく……」

 敵は普通に歩いていた。

「無いようですね。ありゃー、随分と固い雪なのね」

「ひやー! 死にたくねー!」

「うるせー!」

 俺はハロハルハラの尻を強かに蹴り、壁まで吹き飛ばした。

「上に立つ連中が慌てたら、恐怖が感染するだろ!」

「で、でも」

「まずは、落ち着いて、貴重品を集めるんだ。ブリーフケースを持って来てくれ」

「プレスター様が落ち着いてください!」

「また次があるさ」

「逃げちゃ駄目です。プレスター様がはじめた戦いですよ!」

「ほれ」俺はハロハルハラに貴重品を見せた。それは水脈から発掘した酒の瓶だ。火薬の原料である木炭、硝石、硫黄が個別に詰められていた。

「火薬ですか」

「これで爆死しよう」

「私たちは松永弾正まつながだんじょうですか!」

「また、分かり辛いツッコミを」

「こんなので、どうするんですか?」

「なんで瓶につめていると思う?」

「……乾燥させないためですか?」

 ちょっと違うよ。

「水の中を運ぶためだ」

「ま、まさか……」

「南側の水脈を爆破させて、足場から崩してやる」

 水脈には水が溜まり、水蛇が通るくらいに穴は開いている。落ちる――まではいかないだろうが、陥没して、水が溢れて、凍死するほどに震え上がるだろう。そして足元が泥濘ぬかるみ、やがて凍るだろうが、その間に最大火力でぶち殺す。

「土壁でなんとか食い止めているが、あそこまで侵入されたら大砲も監獄の中まで撃てる。下手をすると火薬庫を撃ち抜かれる可能性もある。行動を起こすしかないようだな。本当は春まで持ちこたえたかったが、どうやら状況が許さないようだ」

「監獄を出るんですか?」

「予定より早く撃破したなら、予定より早く南の都市まで行かなければならない。つまり、そういうことになるな」

 ハロハルハラは本当に嫌そうな顔をした。

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