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第59話 釣果

「私の場所を与えてくれるなら、私は貴方に従います」

 ナユキは俺の配下になった。ただ、監獄での生活でナユキを殺したがっている連中は多かったので、極秘に監獄の外へ出した。秘密の抜け道は南西の塔にあって、この前逃げ出した二人もここから抜け出したようだ。と言っても、それほど距離は無い様で、南の防御設備を築いている連中に気付かれるのも時間の問題だった。

 夜陰に乗じて、志願兵を募って、ナユキの部隊を作った。志願兵に看守はいなく、すべて衛兵たちだった。ナユキがここに来るまでに連れてきた子飼いの配下で、東北の塔で闘った連中ばかりだった。二十名ほどだが、ナユキの命令に忠実に従っているので、その力は計り知れないものになるだろう。当然、従わなかった連中は倍以上いるので、そいつらは幽閉したままだ。

 ナユキの足元にはヴィトがいて、犬用の服を着ていた。他の連中は雪山を歩く格好をしているが、鞄に国の兵士の服を一式揃えていた。

「国ではなく、帝国ですよ」

 ナユキが俺に教えてくれたが、数年前にこの国は帝国と自称したようだ。それは周辺諸国に喧嘩を売ったようなもので、実際小さな国は滅ぼされているそうだ。

「今日から、貴様らは俺の懐刀だ」

「分かっています」

 俺は日曜大工で東北の塔の上に腕木を建てていた。狼煙よりも正確な情報を伝えるために、腕木の形を変えて文章を伝える方法だ。これで外にいても、ナユキは俺の手足となって働くことができるだろう。俺は形を紙に書いて渡したが、ナユキはじっくりと見てすぐに燃やしてしまった。いとも簡単に覚えてしまったようだ。

「こちらからはどのように連絡をすれば?」

「命令は絶対厳守、質問は無しだ」

「分かりました」

 ナユキはあっさりと承諾した。ナユキの手下たちも平然とした顔をしており、主人に仕える犬のようだった。余計なことを言わないように下々にまで命令を徹底しているようだ。彼等の表情は柔和で女殺しの顔をしているが、それもそのはずで女用の娼館で働かされていた男たちだそうだ。筋肉が整っていて、余分なものがついていない、ナユキが栄養とトレーニングを考えて育てたらしく精鋭と言えた。

「まずは、鉱山を、次にエルフたちを――」

 襲え。

 それが俺の命じたことだった。ただしナユキたちが襲うのではなくて、金銀を使って、近隣の山賊を雇ってのことだ。

「山賊たちは、俺とハロでどうにかする」

 味方に危機感を与えておこうと思っていた。

「その後は、どのようにしたらいいでしょうか」

「近隣の村を略奪しろ」

「分かりました」

 帝国の兵士の姿で――。

 俺の予想だと、監獄が支配されたとバレるのは時間の問題だった。だが、帝国が兵士たちを向けてくるのは雪解けが始まってからだろう。俺たちも移動するのは雪解けが始まってからだ。雪の大地を強行してもいいが、南の都市の常備軍が問題だった。監獄に一番近い軍隊は南の都市なので、間違いなく南の都市の軍隊が来る。行軍中に戦うよりも、ここで戦ったほうが断然有利だった。そのために道程にある村々から食料を徴発されないように、先に潰しておいて、帝国兵に悪さをされたと悪評をばらまくことにした。

 だが、別の意見はある。

 それは少数で、冬の間に脱出すると言うものだった。

「間違いなく、そちらの方が正しい」

 だが、それでは俺が困る。

 味方を山賊に襲わせて、逃亡する連中をナユキに殺させた。その結果、一団で守ると言う決意が広まり、徐々に結束が高まって、俺の言うことを聞くようになってきた。


 言うことを聞かないのは予想外だったが、エルフの一部だった。

 ハロハルハラはエルフに転生したが、ハロハルハラ曰く超絶ビッチだったため、嫌悪感を示す連中が多かった。

「知りませんがな」

 と、ハロハルハラは言うが、エルフの連中からは、「食われたー」とか、「犯されたー」とか、「僕の大事なものを返してー」などと陰口が囁かれていた。しかも、エルフの中の名家の生まれで擁護する連中も多かった。その為エルフたちの間は険悪なムードに包まれていた。

「何やってんだよ。雌犬ビッチ

「失礼な。私は雌犬ビッチではありませんよ」

「じゃあ、何?」

「うーん、超絶雌犬ハイパービッチ

 何言ってんだ。コイツ。


 数十日経ち、食料が来たが、余計なものまで来た。

 数百人ほどの兵隊だ。

 南側の防御設備を見て、にわかに騒ぎになっていた。

 俺は壁から飛び降りて、防御設備を越えて、走り出していた。食料と兵隊は反転しようとしているが、俺はすでに腕木でナユキに指示を出していた。雪山が爆発して、振動で粉雪を吹き飛ばした。俺が調合した爆弾が雪崩を起こして、兵士と食料の逃走経路を封じた。

 俺は兵隊を率いている大将を見ながら走った。

 かなりの年寄りだが、落ち着いて指示を出しており、立派に整列させていた。走っている間に、兵士たちがいる検討がついた。おそらくハロハルハラが殺しを見られたときに、屍人が増えていると商人たちの間で広まったのだろう。だから、兵隊が警護を任された。

 老兵は馬を自在に操りながら、俺を睨みつけてきた。

「食料を運搬、ご苦労」

「貴様、何者だ」

 俺は雪に足をとられないように、近づいていった。

「お前を殺す男だ」

 頭を潰せば軍隊は無力化される。俺は軍隊と闘わずに、武将と一騎打ちをしようと思っていた。俺の実力を見せる意味もあるし、兵隊を余計なことで疲弊させたくなかった。

「安い挑発を……」

 老兵は鼻で笑った。

 俺の肩を矢が貫いた。俺は呻いて後ろを振り向くと、木の陰から射手が顔を出した。

「そいつが、敵の大将です。討ち取ってください!」

 ハロが変装をして、女の声で助けを求めた。俺は瀕死のフリをして、剣を杖に逃げ出した。すると、老兵が馬を操って俺に突撃してきた。

 機と見たのだろう。

 だが、それは擬餌だ。

 完全に釣った……。

 俺は剣を体に隠して、背後を見せながら逃げた。背中はがら空きで、今にも攻撃できそうだろう。だが馬の足が近づいてきたときに、俺は剣を隠しながら踵を返した。

 死にそうな男が、鬼神に変身したように見えただろう。

 俺は飛び上がって、上から切り落とした。一撃で殺したつもりだったが、馬を真っ二つにして、老人の鼻を両断しただけだった。老兵は覇気に押されて、体を退けてしまったようで、運よく命を守った。

 老人ながら惜しい人物だ。

 老人を無力化したことで、相手の兵士たちは投降した。俺は兵士たちの身包みを剥がして、武器防具と馬と食料を確保して、老人のみを捕まえて、全員を逃がした。

 初戦は完勝だった。

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