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第56話 破獄

 交換した手紙が壁の外へ出て行き、金も上乗せされて出て行った。気付かれたのは、手紙が出て行って、すぐだった。子供所長が金庫の金が少なくなっているのに気付いた。俺は子供所長の部屋の窓の外に耳を澄まして隠れていた。

「金の計算が合わない」

 その呟きが合図だった。俺は窓の外から飛び降りて、指笛を吹いた。子供所長がいる塔の出入口は一つだけだ。角材を横にして扉に押し付けて、錆びた剣を二本刺した。これで中にいる連中は外に出ることはできない、これが日本なら出来ない事だったろう。西洋の扉は内側に物を置くことで侵入させないようにしているので、扉はほとんどが内開きとなっている。日本の場合、狭い家屋を広く使うために、ほとんどが外開きとなっている。

 壁から見下ろすと、屍人の監獄から騒ぎが起きて、人が一斉に飛び出した。ハロハルハラがエルフとドワーフの所へ行き、鍵を開けて中になだれ込んだ。俺が幽閉されていた塔からも死人たちは武器を片手に持って飛び出してきた。

 看守たちも異変に気付いて武器を手にして、壁に交代しながら死人を斬り捨て、首輪を爆破させていった。俺は手近にいた男を締め落として気絶させた。銃を奪い取って、向ってくる人間たちの足を撃ち抜いた。

 俺は壁の上に立って、屍人たちを見下ろして、久し振りに大声を出した。腹のそこから出た声は、化物の雄叫びだ。太鼓や花火のように内側から震わせる声は、人間を襲い始めた屍人達に届いたようだ。

 屍人たちも遠吠えを始めて、人間を威嚇し始めた。

 その時、俺の頭を銃弾が貫通しようとした。俺は掌でそれを掴み、撃ってきた南東の射手目掛けて投げ返した。射手は倒れて、うめき声をあげた。

「投降するもの以外は、全て皆殺しだ。さあ、どうする! さあ!」

 俺はあたかも代表者のように大声を出した。最初に誰が親分か示しておく必要がある。俺は屍人たちに向って、冷徹な命令をくだした。

「同士たちよ、聞け! 俺がお前たちに武器を渡した。何故渡した? どうして、このような殺戮兵器を渡したのか。それは我々が生き延びるためだ! 知っているか。夏になれば監獄は廃止されて、関係者全員の口を封じるために、我々は殺される運命にある!」

 嘘だけどね。

 だが、この嘘は必要だ。

 死が身近にあれば必死になる。

「何故、死ななければいけない。我々には生きる価値がある、意味がある、理由がある。それを勝ち取るために、我々は武器を取ったのだ。敵は……」

 俺は子供所長がいる塔にかかげられた旗を銃で狙って、撃ち抜いた。

 それは国旗であった。

「国家だ!」

 歓声が上がったが、サクラのハロハルハラからだった。それは伝染していき、訳の分からない熱がいたるところから上がっていった。

「俺は安息を約束する。だから、目の前の敵を殺戮しろ!」

 俺は辺りを見渡して、

「さあ、どうする? 降れば命だけは助けるぞ! さあ、どうする!」

 本心から言うと人間の命なんてどうでも良いのだが、後々のことを考えると手荒に扱いたくは無かった。

「ほざくな! 化物が」

 南東の塔から威勢の良い男がでてきた。鍛えぬいた身体で、人間なら強者に位置されるだろう。銀の剣を手に、勢い余った死人を斬って、壁の上から落としながら向ってきた。

「殺してくれる」

「ほう、面白い」

 願っても無い誘いだ。

 俺は錆びきった剣を持って、身体で隠すように片手で垂らした。

「構えろ」

「馬鹿が」

 俺は歩き、走って近寄った。

 飛び上がり、下から上へ身体を真っ二つにした。

 屍人たちはサクラ無しで歓声をあげた。幸先が良い、圧倒的な実力を見せることができて、屍人たちもそれを認識したようだ。

「どうした! これで終わりか」

 三つの塔の看守と兵たちは次々に投降して、広場で捕縛された。屍人の一人が食おうとしたので、俺は撃ち殺した。

「捕縛された者を虐待することは許さん」

 人間たちはホッとしたようで、屍人たちも整然として成り行きを見ていた。そのうち、エルフとドワーフたちも出てきたが、武器は持たされておらず、外の状況に驚いた声をあげていた。

 俺達は囚人の首輪の鍵を確保して、次々と首輪を外していった。運が良いことに一斉に爆破させる方法はなかったようで、爆破された囚人も数十名で済んだ。


 問題は北東の塔だ。

 扉を木で止めてから、何の反応も無かった。俺とハロハルハラは剣を抜き、木を取って、扉を開けて中を確認した。ここには誰もいないようだが、空気が変わったような威圧感があった。屍人の一人が様子見で入っていって、しばらくすると戻ってきて、俺を襲った。頭を掴んで、上に放り投げて、落下してバラバラにした。

「失礼した!」

 俺は扉の中へ向けて、大声を出した。

「我々は投降を要求する! どうする?」

 静まりきっていたが、子供の声がした。

「舐めるな。下郎が」

 甘い香りが漂ってきて、周りの屍人たちが俺に向けて、剣を振り下ろしてきた。それはハロハルハラも同じで、俺は多少焦ったが、すべての攻撃を避けた。

「交渉不成立のようだ」

 俺は単独で侵入して、内側から扉を閉めた。

「では、力づくでいこう」

 塔の一番上に行くまで、人の気配はまるでしなかった。扉の奥は、子供所長の寝室兼書斎だ。俺は扉を蹴り飛ばして、椅子に座る子供所長を見た。周りには十人ほど完全武装した衛兵がいて、狼のヴィトもいた。子供所長は笑って、足をブラブラとしていた。

「投降しろ」

「やるなら、ちからずくでこい」

「お前、自分が強いと思っているな?」

「だって、つよいもん」

「その通り。お前が欲しいよ」

 悪魔のような笑みだった。

「欲しいなら、殺してから好きにしな。ドサンピン」

 中指が立てられた。

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