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第55話 手紙

 子供所長を仲間にしたいと言ったのは冗談でも嘘でも無い、無能はこの世に溢れていて、有能は無能に埋没して見つかりづらい、優秀な才能がいるならば建国を目指すものとしては唾をつけておきたいところだ。

 だが、その欲望もいったんお預けだ。

 まずは手紙の偽装をしなければいけなかった。

 深夜。

 塔から屍人の監獄へ行き、姿を隠して、一部分を鼠にして、血の霧になり鍵穴から外へ出た。建物の影を利用しながら、壁まで走って行き、看守たちの位置を確認して、視線が外れた時に、壁を駆け上って、壁の上にそびえる四つの塔を見た。東北の塔の外壁の掘り込みが立派だったので、中に入って、頂上まで階段を昇っていくと、見事に子供所長をみつけた。

 鍵穴からのぞくと、そこは寝室兼書斎の雰囲気があり、大人用の机の上に本が雑然と広がっていた。子供所長は大人用の椅子で足をブラブラさせながら、蝋燭の光のもと書類に眼を通していた。書類の量は多くないようで、じっくりと眼を通してからハンコを押した。ハンコ押しが終わると、本に文字を書き始め、しばらくすると蝋燭を消して、姿を消した。耳をすましていると、寝息が聞こえてきた。

 鍵穴を通り、鼠の姿のまま子供所長が書いていた本を探した。おそらく日記だろう。偽の手紙を出す計画なので、参考に出来るものは何でも見ておきたかった。

 机の上に無造作に広がっている本があった。子供所長が書いていた本だろう。俺は最初に一枚をめくってみると、大きな文字が書かれていた。

『小説家になろう……大作戦ノート』

 ……はい?

 俺は次の一枚をめくったときに衝撃を受けた。

『ある朝、起きると私は虫になっていた』

 カフカの『変身』かよっ!

 この女、地球の小説をパクって小説家になるつもりか……なんてやつだ。その発想はなかったー! 誰もパクリだと証明できないと思って好き勝手にしようとしやがって……あれ? となると、この女も地球にいたことがあるのか。旅を続けていた時も、地球の記憶を持つ人はいなかったので、この監獄に三人もいるとなると縁を感じた。

 俺は音をたてないように手紙を探して、一つは食糧供給増加のお願いと、もう一つ秘密の手紙をしたためた。どちらも現金取引で金が通常よりも膨れ上がるから、金を持ち出すときに気付かれてしまう恐れがあった。だが一度監獄の外へ出てしまえば、こちらの勝ちだ。

 俺は扉を数分かけてゆっくりと開けて、外に手紙を置いて、扉を閉めに戻った。すると、鼻先に生暖かい息を感じた。犬と目が合った。子供所長が飼っている犬だろうか、同じ部屋の中にいてまったく気付かなかった。俺が扉を閉めようとすると、前足で扉を押して開けてしまった。

「うちのお嬢に、何のようかね?」

 ヤレヤレ、犬が喋っているぜ。

「怪しい鼠だ。いつの間に部屋に入ってきたんだ」

 犬は俺の全身の臭いをかいだ。

「ドブの臭いもしない……怪しいな」

「ヂュウゥゥゥ」

 俺は鼠のフリをすることにした。

「……もしかして誰かが飼っている鼠か? あまりにも綺麗過ぎる」

「チュウ、チュウ」

「ん? 手紙が外に出ているな」

 犬は手紙を上手に噛んで、部屋の中へ戻り、椅子の上に座って、鼻先で何かを探していた。それは同じような手紙で、封筒に入っていた。犬は文字の日付を見て、手紙を入れ替えた。子供所長が書いたほうをゴミ籠に捨ててしまった。

 ……よーしっ。

 手紙をすりかえる機会を窺うつもりだったけど、運がこちらに向いてきたようだ。


「夜道の散歩は楽しいものだ」

 鼠のまま立ち去ろうとしたら、犬がついてきて、俺達は並んで歩いていた。壁の上を警備している兵が、犬を見てポケットから干し肉を投げてきた。

「ご苦労様」

「また散歩か。風邪を引くなよ」

「うむ」

 犬はヴィトと呼ばれており、じっくり観察してみると狼だと分かった。

「うわー、鼠可愛いな」

「綺麗な毛並みだ」

「何でも言うことを聞くな」

 鼠の俺は怪しまれないように、色んな人に愛敬を振りまいた。

「鼠がそんなに可愛いかね」

「ヂュウウウウ」

「まあまあ、怒るんじゃない」

 馬鹿狼め、地球の鼠人気を知らないな。

 著作権のヤクザを知らないとは幸せなものだ。


 俺達はしばらく一緒に並んで歩いて、ヴィトが独り言を喋るのを聞いていた。俺は屍人の監獄で立ち止まり、扉のまでカリカリと爪をたてた。ヴィトが気をきかせて吼えてくれて、鍵を持った男が扉を開けてくれた。

「じゃあな」

「チュウ」

 俺は男の足元を通って、物陰に隠れた。男が鍵を隠す場所を観察した。


「と、まあ、大冒険をしていたよ。ラリルレロ」

「私の名前はハロハルハラです。ラリルレロなんて、どこかの大佐が発狂したときに言う言葉じゃありません!」

「悪かったよ。ハロハロハロ」

「挨拶を何度も繰り返すなんて失礼ですよ」

 俺達はいつも通りに、俺の部屋で会話を交わしていた。

「冗談はさておき、この前言っていた鍵屋さんって誰なんだ?」

「正気を保っている屍人の一人ですが」

「今日、鍵の在り処がわかったから複製をつくってもらいたい」

 それぞれの監獄の鍵は別個に保管されているようだが、それぞれの建物に入る鍵は揃っていた。同時蜂起する為に、エルフとドワーフの監獄の鍵、それに五つの塔の鍵はつくっておきたかった。

「必要ない可能性はあるが、無いよりはマシだ」

 俺達は着実に目標に近づきつつあった。

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