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第54話 幼艶

「木炭、硫黄、硝石……」

「火薬ですか?」

「ああ」

「ドワーフがいるので銃を造れない事も無いでしょうが、材料が少ないので」

「いや、銃は造らない」

 弓矢の方が下手な銃よりも射程距離が長いし、銃の扱いは屍人には難しすぎる。たしかに銃の音は死を上回る恐怖を相手に与えるが、材料の問題が立ち塞がる。造る技術はあっても、銃に使える金属の確保は難しかった。

「それにドワーフが言うことを聞くかな?」

「それは……難しいかもしれませんね」

「エルフはハロの肉体から関係者を辿れば、知り合いが手伝ってくれるかも知れないが、エルフもドワーフも一時的にしか手を組むことができなさそうだ」

 人間と同様にエルフもドワーフも自意識が強い、それに蔑んできた屍人と手を組むのを嫌がる連中は必ずいる。下手をすると人間の看守に味方して、活路を見出す連中がいるかも知れない、それに比べて屍人たちは殆ど思考しないし、吸血鬼が親分なので操るのが楽だ。だが、後のことを考えるとエルフとドワーフの中に少数でもいいから味方は欲しかった。

「とりあえず、銃の作成は無いんですね?」

「火槍と簡単な爆弾を作ろうかと思っている」

「……火槍?」

「ん? 分からないか」

「そこまで年寄りでは無いので」

 カチン! 誰が年寄りだって?

 俺はハロハルハラの頭をベアクローした。

「脳が潰れちゃう!」

「ハロ、身体変わってから性格変わりすぎだ」

「この身体の持ち主は、超絶ビッチだったらしいですよ。てへっ」

 エルフなのに雌犬ビッチとは親の顔が見てみたかった。

「プレスター様、火薬は少量ならありますよ」

 なんで? と疑問に思ったがすぐに解決した。

「鉱山で発掘に使っているのか」

「そうです。危険なので余程の硬い岩盤にあたらないと使いませんがあることはあります」

 俺の捜索では見つからなかったので、看守たちが眠っている塔に安置されているのかも知れない、今度調査してみることにしよう。

「屍人の監獄に木炭の備蓄はあったが、後々のことを考えて増やしておきたい。周りの山から木を集めて燃やせば、十日ぐらいでつくることはできるな」

「そうなると……硝石は便所ですか?」

「任せた」

「ううっ……こう見えても女の子なのに」

 寒い大地の鉱床に硝石はできづらいので、排泄物からできる硝石を利用することにした。長年積もり積もった便所があるので、汚い目にあえば硝石の確保もできるだろう。

「問題なのは硫黄だ」

 外にいれば火山から硫黄を取ってくるなど朝飯前だ。

「あっ、それなら大丈夫です。鉱山から取れますから」

「それは良かった」

 鉱山から黄鉄鉱フールズ・ゴールドが採掘されるようだ。黄鉄鉱と練炭を一緒に積んで燃やせば、硫黄が気化するので、それを冷やせば採取することができる。


「プレスター様、火薬談義は良いのですが、いつ決起するのですか?」

「いや、少し考えがあるんだ」

 監獄は冬になり自給自足が出来なくなりつつある。そのため南の都市から食料が輸送されてくるのだが、これが通常なら二月分の食料が運ばれてくる。俺はそれをどうにか三月分に増やしたかった。

「所長の手紙を偽装して、援助物資を増やそうかと思っている。だから、それが終わった後に、事を起こしたいと思っている」

「プレスター様の力があれば簡単に鎮圧できるような」

「いや……油断は禁物だ。俺が封印されていた塔には、俺のほかにも吸血鬼が封印されている。これが何かあって脱走する可能性はあるだろ? その時の対処方法が何も無いのはおかしいと思わないか」

「あっ……! 一人いました。強そうで怪しいのが」

「誰だ?」

「子供所長です」


「おまえらー、せいれつしろー」

 俺は鼠に変身して、集会所を眺めていた。ここは屍人の監獄の地下に広がる集会所だ。エルフとドワーフも首輪をつけて整列しているが、囚人の中でも序列があるようで、屍人たちに嫌悪感のある眼をしていた。

「はーやーくー、せいれつしろー」

 ステージの上で、机から顔を出すように、台の上に乗っている女の子がいた。これが所長だそうだ。子どもは実力があっても認められることは絶対に無いので、まず間違いなく不死者の一員だろう。そうなると所長は幼女の時に全盛期が来てしまったようだ。

 強いのか、弱いのか、よく分からないが看守たちは粛々と従っている。そして最も良く従っていたのが衛兵たちだ。尊敬するような眼で子供所長を見ていた。どうやら敵たちを仲間割れさせるのは難しそうだ。

 俺が色々考えていると、急に空間が割れたような声が響いた。

「早くしろ。クソども」

 空気が一変して、甘ったるい匂いが漂った。

 俺は鼠の鼻を抑えて、侵入してくる香気を我慢した。

 これは俺の邪視と同じ魅了チャームだ。囚人たちの眼がとろけて、子供所長の言葉を涎を垂らしながら聞いていた。

「ふおんにも、だっそうみすいをした、えるふがいた。いまから、にめいをこうかいしょけいする」

 ステージ上に、男のエルフが二人現れて、二人とも眼が蕩けていた。

「では、ころしあえ」

 徒手空拳の殺し合いは、吐き気がする醜さだった。一人が打ち勝って、もう一人を殴殺した。どちらも喜悦の表情を浮かべていた。

「おまえは、じさつしろ」

 目玉を指が穿ち、脳を破壊して、エルフは死んだ。

「おまえたちも、こうなりたくなかったら、せいしんせいいではたらくように」

 子供所長は台から跳んで降りて、スタスタと歩いて姿を消した。


 不老不死は肉体と精神の全盛期になるまでは加齢する。普通なら大人になってから加齢が止まるはずだが、美しさの全盛期が幼女の時代だったのだろう。

「……面白いな」

「全然面白く無いですよ。魅了チャームを広範囲でかけられるなんて化物ですよ」

 夜になってハロハルハラがやってきたので、子供所長の話になった。

「俺効かないし」

「私は効きます」

「お前、両刀使いだったのか」

「違いますよ……! 私は雌犬ビッチですよ!」

 魅了チャームの純粋な使い手なら、性別関係なく魅了することができるだろう。

「仲間にできるか試してみたいな」

「……耳鼻科行って来ます」

 ハロハルハラは呆れていた。

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