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第52話 井戸

 ハロハルハラが通ってきたのは、塔の下部にある隠し通路だった。この塔は上部が監獄となっていて、下部は深く掘り下げており井戸となっていた。塔の基礎部分から、上部まで道を作るのが大変だったそうだ。暖炉の煙突があって簡単なところもあったそうだが、石造りをのみ玄翁げんのうをつかって、ひたすら掘り進んだそうだ。その結果、何度か間違って、仲間も発見したそうだ。とりあえず抜け道を這って進み、ハロハルハラの胸がつかえているのを、頭で尻を押しながら、徐々に進んで行った。

「いやん、お尻は苦手なの」

「早く進め、馬鹿」

 俺は頭で尻を押して、ハロハルハラを壁で押し潰そうとした。

「いたたたっ、冗談ですよ、冗談!」

 煙突に出て、下に落ちて、掘り進めた部分をさらに落ちた。

 ちなみにここで服を脱いだ。水が痕跡を残すので、疑いを残したくなかったからだ。俺たちは井戸の水脈に到達して、冷たさに肝が冷えていた。

「ここから、一般の監獄までは水脈を通って、ひたすら東です」

「心臓が止まりそうだな」

「不死者なのにですか?」

「それもそうか」

 ハロハルハラが潜水をしたので、俺も後をつけた。人間では息が続かないだろう。俺たちは変なところに到着した。それは井戸の底で、見上げると灯りが見えた。

「この地下水道は保管庫として最初掘られたらしいですが、時間が経つにつれて地下水が浸食して、水がたまったそうです」

 ハロハルハラは真っ裸のまま率先して岩盤を登っていった。あられもない姿だが、本人も俺も気にするほどの年齢では無かったようだ。俺達は囚人の貫頭衣を着て、周囲を見渡した。囚人の飯を作る台所で、部屋の中にいて水を確保できるようだ。

「ここから移動できるとは、誰も思いつかないだろうな」

「ここからは人の気配を探りながら、私の檻にいきますが」

「鍵はどうするんだ」

 ハロハルハラは股を手で探って、服で拭いて、大きめの鍵を目の前に出した。

「どこから取り出したか聞かないけど、良く手に入れたな」

「鍵屋さんがいたんですよ」

 第二次世界大戦を舞台にした大脱走という映画があるが、それは第二次世界大戦以降では実現しない創造性溢れる計画だと言われている。第二次世界大戦以後は兵隊が兵隊の職業しか経験しないケースが多く、各種のスペシャリストが集まることが無くなったと言われている。この監獄には一辺倒の才能だけではなく、多種多彩の才能が集まっているのだろう。これは強みだ。


 だが脱出はできるだろうか。この監獄は天然の要塞とも言えるほどで、雪が周辺を覆っていて、歩くのさえ難しい、逆に言えばここに立て篭もればしばらくの間は闘う事ができる。

 俺達は周囲の状況を探るために、巡回する看守や衛兵たちの目を逃れながら、資料室へと入った。深夜にここに来る連中はいないので、奥の部屋で蝋燭をつけても大丈夫だった。

 この監獄は西側にある鉱山の発掘のために建設されたようだ。金と銀が採掘される国の財政の要であり、その他にも道路の整備など辺境開発の最前線のようだ。俺が確認したのはゴブリンのジノが言っていた半島だ。はるか南東にあり、天然の大森林が広がった先に半島があった。おれがしばらく滞在していた橋は、ここから真っ直ぐ南に行って、海沿いを歩いて、しばらく行った場所に記載されていた。

「食料の確保はどうなっている?」

「定期的に、南の都市から運び込まれるようです」

 もしも、兵士が来るとしたら南から来るだろう。唯一大きな街道があるのは南側だけなので、もしも南下するならその都市と衝突するのは避けられなかった。

「まずは、この監獄を占領しよう」

「逃げるのでは?」

「いや、それでは……俺の目的は達成できない」

 俺はハロハルハラに言っていなかったことを思い出した。

「ハロ……国を作らないか?」

 ハロは眼が点になったが、納得して頷いた。

「それは良いですね。なら、ここにいる不死者全員を仲間にしましょうか」

「ああ、それに他の監獄に収容されている連中もだ」

「エルフにドワーフもいますが……」

「一枚岩ではすまないだろうな。だが、それはそれで面白い」


 俺とハロハルハラは夜明けまで調査して、ハロハルハラは監獄へ戻り、俺は水脈を通って、塔へと戻った。床の穴を直して、昼まで部屋の中で筋トレをして、昼飯時に磔に戻った。部屋の中に入ってきたのは、豊満な女性で母性愛に溢れていそうな女だけだった。衛兵は入らずに扉を閉めた。いつも通りの方法なのだろう。俺は邪視で豊満な女性を魅了して、大きな乳房から栄養補給をした。女性を返して、俺は鍵穴から血の霧を出して、衛兵に気付かれないように溝鼠に変身した。足で潰されないように、気をつけて走り、監獄を一つずつ鍵穴から覗いてみたら、俺の部屋のように文字が書かれていた。おそらく封印されているのだろう。ここに入ったら、ひとたまりも無いだろう。その中で、一つだけ雰囲気が違う部屋があった。入れるな……俺は鍵穴から入ると、女が磔にされたまま眠っていた。窓から光が入らないように潰されているので、おそらく吸血鬼だろう。

 近寄って、顔を見てみると、知っている顔だった。

「オセロか……」

 鏡男が死んだ後に封印から開放された、男にして女の姿をしたヤヤコシイ吸血鬼だ。祖と同じ真祖だけど、吸血鬼の力を引き出そうと切磋琢磨したわけではないようで、俺と比べたら戦闘力は劣る。

「その声は、プレスターか? ハロハルハラが解放したのか」

 ハロハルハラが仲間と言っていたのは、オセロのことだったようだ。

「久し振りだな」

「同じ場所に捕まるなんて、縁があるね」

 俺達は久し振りに親交を深めた。

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