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第51話 復活

 最初に回復したのは嗅覚だ。匂いが鼻腔から侵入してきて、俺の記憶に懐かしさを蘇らせた。次に回復した聴覚で、その足音に覚えがあった。

「……ハロか?」

「プレスター様、お気づきになりましたか? 声はあげないでくださいね。廊下には衛兵がいますので、気付かれたら面倒なので」

 村で死んだハロハルハラが別の身体に復活したようだ。彼女の好きな匂いは、屍人の匂いを消すために独特の調合をされた香水だ。五感が徐々に回復していき、俺はハロハルハラを見ることができた。彼女は前と同じように包帯を巻いているが、肌の色が黒くなり、耳が尖がっていた。物語に良く出てくるエルフのような容姿だった。

「イメチェン?」

「今回は、前の身体より可愛いですよ」

 俺は体を動かそうとして、両腕両足が切断されているのを思い出した。俺は十字架に磔にされており、切断された四肢も一緒に結び付けられていた。部屋の中を見渡すと、石造りのドームの屋根、一人を監禁するには広い部屋で、床、壁、天井に美しい文字が書かれていた。ハロハルハラは墨のようなもので文字を塗りつぶしていった。封印するための文字が消えて、徐々に圧力が無くなっていった。

「よく動けるな」

「入るときに、すでに魔法陣は崩していますから」

 ハロハルハラが指差した先の床板が外されていた。床下を潜ってこの部屋に侵入したようだ。ハロハルハラは文字を潰していって、徐々に俺の封印が解かれていった。俺は切断された身体をくっ付けて、ハロハルハラが縄を解いてくれるのを待った。

「状況を教えてくれ」

「はい。ここは大陸の北方にある監獄兼強制収容所です。私は死んでから、ここへ送り込まれるエルフの一団で不慮の死に見舞われた女に転生しました。屍人だったので、屍人と同じ場所に放り込まれましたが、私は意思があったので看守たちと色々と交渉をしました。私は屍人たちを自由に操る代わりに、他の連中より待遇を良くしてもらい、食事も便宜してもらっていました。そんな時、秋ごろにプレスター様が運ばれてきました。最初は漏れ伝わるだけでプレスター様と分からなかったのですが、私は看守と仲良くしていますので、運よくプレスター様だと知ることができました」

「どういった連中が収容されているんだ?」

「人間以外ですね。この場所は不死者が集められていて、ここは凶悪犯罪者を封印する塔です」

「エルフとかもいるのか?」

「そうですね。ドワーフもいます」

 俺は部屋の端まで行き、辺りを見渡した。長く、高い城壁が囲まれていて、衛兵が数多く巡回していた。弓矢も銃も所持しており、城壁の外側は雪で閉ざされていた。除雪もされておらず、正規の道以外は脱出できそうにも無かった。

「これは厳しいな」

「はい、ですがプレスター様だけなら」

「ハロも一緒に逃げるんだよ」

 それに……逃げるなら大勢で逃げたほうが成功率は高まるだろう。俺は顎を擦りながら思案していたが、音が思考を破った。腹が盛大な音をたてて鳴った。

「腹減った……」

「プレスター様、私のをどうぞ」

 ハロハルハラが両腕を広げて、胸を張った。

 屍人だから乳は出ないはずなんだが……。

 俺は服を掴み、胸をはだいて、試してみた。

 ……出ない。

「冗談ですよ。エッチですねー」

 俺はハロハルハラを卍固めした。


「だから、冗談ですよ。痛いですよ」

「俺は腹が減っているのだ」

「厳しい時にも冗談を言ったほうが良いですよ」

「知るか」

 俺は八重歯を生やして、ハロハルハラを威嚇した。

「プレスター様の授乳係りが昼に来るはずなのでそれまで耐えてださい」

 今は深夜だった。

「ううっ……腹減った……」

 俺は腹をおさえて、やっと異常に気づいた。

 俺の体はかなり大きくなっていた。

「おい、ハロ」

「どうしましたか。プレスター様」

「何年経った」

 えーと、とハロハルハラは指を折って数えていた。

「以前の私が死んでから六年ですね」


 ……助けるの、遅くね?

「おい、ハロ――もう少し、頑張れなかったのか?」

「全力でコレでした。すみません」

 テヘッ、とハロハルハラはわざとらしく舌を出した。なんか前と会った時と性格が変わっているような気がする。一緒に居なかった六年間のせいか、元の身体の持ち主の性格が表面に出ているのか分からなかったが、明るくなった分だけ良いかも知れない。

 俺の体は十歳の時と比べて見違えるほど大きくなっていた。あと数年経てば成長が止まり不老化するだろう。この肉体ならば十歳の時に苦戦していた相手と戦っても圧倒することができるだろう。

 あのシェリダンも成長しているかも知れないが、今の俺には敵ではないだろう。

「まいったな。待たせている人がいるんだよな」

「誰ですか?」

「結婚の約束をしたんだよ」

 ハロハルハラが興味深そうに顔を近づけてきた。

 近いぞ、おい。

「……ずるいです」

「はあ?」

「プレスター様だけ、外に女をつくって、私も恋がしたいです」

 しらねーよ。

「六年も待っているかなぁ」

「ははは、他に男がつくっていますよ」

 ハロハルハラは膝固めをくらって悶絶していた。


「ところで相手は何歳くらいなんですか?」

「今は十六歳」

「……うわっ、ロリコンですか」

 今回のハロハルハラは陽気なようだが、少しムカつく性格になったようだ。

 俺は首を絞めて落とそうとした。

「でも、良かったじゃないですか。16歳なんて……女盛りですよ」

 ……確かにそうだ。

「待っているか分かりませんけどね」

「くらぁ!」

 俺は首を絞めて落とした。

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