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第50話 封印

 数百年間、吸血鬼の食用に適した人間を選別し続けたら、猪が家畜化されて豚になったように、吸血鬼の食用に適した家畜人が誕生した。俺たちの甘みのある血に吸血鬼は虜になり、俺達を増産し続けた。俺は祖と出会うまで、老若男女問わずに吸われ続けていたが、彼女と出会ってから祖専門の家畜人として愛された。

 一番優しかったのは、祖だった。俺が男に暴力を振るわれたときに、優しく声をかけてくれたのは、妖艶な美しさで一見怖そうに見えた祖だった。

「泣かないで」

「……うん」

 体中が痛くて泣いていると、俺の時間を買って、何もせずに優しくしてくれた。

「私の名前は、アイシャよ。君は?」

「プレスター・ジョンです」

 祖は顔をしかめて、俺の髪の毛を撫でた。

「挑発的な名前ね。でも、可愛いわ」

 唇を吸われて、交わした舌は優しかった。

 ただ――優しかったのは最初だけだ。

 俺たちには人間の法律は適用されなかった。

 祖は俺の首筋に牙を突きたてて、流れた血を舌で卑猥な音たてながら飲み下し、徹底的に犯し続けた。傷口を舌先で広げられ、必要な分だけ搾り出された。

 痛めつけられた精神は麻痺して、呆然としながら吸血鬼を羨ましく思っていた。何をしても咎められることの無い圧倒的な力、俺は傍若無人な力に羨望していた。

 ある日、俺は祖に吸血鬼にならないか誘われた。

 彼女はその時点で数世紀を超える長寿だったが、成人もしていない子どもの事が好きになったそうだ。不死者にとって年月は考慮するに値しない、数千年生きたものでも数歳の子供を好きになるのは良くあった。それが何故かは分からない。もしかしたら、自分だけ愛してくれる存在を育てたいと思っているのかもしれない。

 祖は吸血鬼の交合に耐えられる男の肉体が欲しくて――ただ、それだけの理由で祖は俺を吸血鬼に誘った。

 自分の寂しさを紛らわすために、他人の人生を終わらせた。

 今なら断るが、その時の俺は喜んだ。

 誰にも煩わされることのない力を手に入れられることに俺は喜んだ。

 こうして、俺は吸血鬼となった。


 俺は家畜人からの成り上がりということで、真祖たちには毛嫌いされていたが、祖に愛され続けて、徐々に色々なことを学ぶことで、可愛げのないくらい成長した。

 そこまで行くのに、色々なことを経験した。

 それは人間が大成するまでの数倍の時間はかかった。

 俺が有利だったのは、その当時の真祖たちは弱体化しつつあったからだ。というのも、生まれながら才能はあるものの、鬼の力があれば支障をきたすことは殆ど無かったので、自らを研磨すると言うことはしなかった。異例とも言えるほどの研鑽で、俺は真祖と比べても劣らないほどの力を手に入れた。

 その研鑽が間違っていなかったのは、人間が科学力を手にしてから判明した。人間たちは道具を使って目を見張るほど強くなり、吸血鬼たちは歴史の闇で葬られていった。

 吸血鬼と人間の闘争に飽きて、俺は久し振りに故郷へと帰った。

 その時に、俺は妻となる女性に出会った。

 彼女も家畜人の一員だが、美しく、血も美味かった。

 俺は彼女を大金で買い取って、彼女と一緒に逃げ出した。数百年に渡る祖との愛情に疲れていたので、彼女との生活は新鮮で楽しいものだった。俺は建築系の企業を作り、一から着実に築くことで、人間社会に馴染んでいった。

 運が良いことに、吸血鬼と人間の混血児も産まれたが、ある日終わりが来た。祖はそれまで、俺のことを放って置いてくれていた。どうせ人間はすぐに死ぬ、死ねば戻ってくると思い、しばらくの楽しみを与えてくれた。

 俺の妻を、屍人としたのは、真祖の一人だった。

 俺は不死者の苦しみを妻に与えたくなかったので、愛していたとしても吸血鬼にはしなかった。


 吸血鬼にとっては遊びだったのだろう。

 成り上がりに対する、ちょっとした嫌がらせのつもりだったのかも知れないが、俺はその吸血鬼を八つ裂きにした。

 俺は吸血鬼の死体を、屍人と化した妻のところへ持っていった。

 妻は口の端から涎を垂らして食べたそうにしていた。

 彼女は何も考えない、思考を放棄したなら、死んだも同然だった。

 俺は彼女に慈悲の死を与えた。


 だが、納得しない女がいた――俺の娘だ。

 吸血鬼と人間の混血と言うことで、良い面も悪い面も引き継いでしまった娘は、俺が手塩をかけて育てていたので、不意打ちをつけば普通の吸血鬼ぐらいは倒すことができた。俺が妻を殺すことを娘も納得していると思っていたが、時間が経つにつれて俺と娘の間に大きな溝が生まれ始めた。

 俺を殺したとき、娘が泣いていた。


 それで、あちらの話は終わりだ。

 俺が過去を頑張って思い出そうとしていたのは、シェリダンとの戦いの後に封印されてしまったからだ。隙があればどうにか逃げ出しているのだが、今のところ逃げ出せる余地が無かった。時間の感覚も無くて、外がどうなっているか検討もつかなかった。

 はっきり言うと、最悪だ。

 当然だが封印された側は、何もできないのだ。

 封印を破るには、外から誰かに助けてもらうしかない。

 なので……誰か助けてー!

 ……。

 ……だれか、いませんかー!

 ……。

 助けてくださーい。

 ……。

 終わった……。

 ……。

 SOS……Help me!!

 こうして、しばらくの間、俺は封印されていた。


 ~第一部、完~

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