第46話 執行
「馬鹿な、バカな、お兄さん。本当に間抜けなんだから、私が敵と通じていて、大お兄様と関係を持っていることも知らないで、ただ目の前に出された女に真実の愛を見出していたなんて……本当に腐れ脳ね。頭働いている?」
教団の駐屯地の扉から正面突破、衛兵を斬り殺して、よどみない足取りでシルヴィアと向かい合っていた。ダルシャンがシルヴィアの横を斬りぬけて、血と内臓を飛ばしたが、瞬時に血が止まった。
「そんなので死ぬと思った……」
「悪いな。刃に蜂蜜を塗っていたんだ」
「なっ……」
俺が何かの時のために取って置いた毒の蜂蜜を盗まれていたようだ。肉体を治すことはできるが、はたして毒はどうであろうか? 答えは表情に出ていた。シルヴィアの表情が苦悶で歪んで、地面に膝をついた。
「毒? なんて卑怯な」
「卑怯? お前の口から出るとは思わなかったな」
実の兄妹に殺意が行き交った。
「お前は俺を落としいれようとした。それだけで、死に値する」
「やめっ……」
頭を上から両断、ダルシャンは反転してマントで血を受けて、首をはね飛ばした。服には血が一滴もつかずに終わった。
奇跡の治療技はついえてしまった。
「本当に殺しやがった」
「まだ、ついて来ていたのか」
「最後まで……」
見届ける。という前に、蝗の大群が家の外壁を突き破って、風景を漆黒に塗りつぶした。この前は、蝗を使わなかったので、最初から全開で来たのだろう。俺は親指を噛み切って、その場で回転して血をまいて、体の回りを地で球体の壁を作った。蝗が何匹か突撃してきて俺の血を飲んだので全て俺の配下とした。ヘドウィッグは俺の顔を見て、悲しそうな表情をしたが、俺には攻撃せずにダルシャンへ蝗を殺到させた。服にも蜂の毒を使っていたようで、服を噛み切る蝗たちがボトボトと死に始めて、その隙をついて突撃して行った。
ヘドウィックは剣を抜いて、迎え撃った。
転瞬、剣が強烈な火花を産んだ。
命の輝きが火花として生まれて、瞬時に消えていった。
数合打ち合い、ダルシャンの勢いが勝ち、ヘドウィッグの剣が砕け散った。
ダルシャンは剣をはね上げて、ヘドウィックの耳を切り飛ばした。
ヘドウィックは壊れた剣を捨てて、徒手空拳で立ち向かった。体捌きは見事で、手の甲で刃を弾き、剣の間合いの内側に入り、鼻を拳で潰した。鼻は柔らかいので簡単に陥没する。ダルシャンは剣に頼らずに、額で目玉を狙った。間合いを離して、放ったのは突きだった。ヘドウィッグが脇で挟み込んで、捻って、ダルシャンから剣を奪った。
ダルシャンが剣にこだわらなかったのが勝機だった。
肘鉄を鳩尾にあてて、服を掴んで股間を膝蹴りした。膝をつき倒れたので、頭部に横から蹴りをいれた。
「俺のか……」
蝗が主人の危険に、ダルシャンを襲い始めた。皮膚に歯が入り、数千の血潮が飛び散り、赤と黒の塊が命を奪おうとしていた。
俺は迷った。
助けるか、どうか。
だが、ダルシャンは自分の命を自ら助けた。火が燃え上がり火達磨になった。貪り食う蝗たちが火の玉と化して、次々と墜落していった。自分の服に火をつけたのだ。なんて愚かな男だろう。アルコールの匂いと焦げた匂いが漂ってきた。
「俺の愛した女、そして騙したことを許さん」
「あれが、か?」
ダルシャンは燃えながら剣を拾い、ヘドウィッグの鼻を斬った。
「死ぬが良い」
「ヘドウィック・ウォーターズ。それが俺の名だ」
ダルシャンの愛した女の名前は、シルヴィア・ウォーターズ。シルヴィアは教団からの刺客だった。そして、ヘドウィッグの娘だった。
常人ならば、ここで戸惑っただろう。
だが、ダルシャンは違う。
彼は迷わなかった。唇の間から出てきたのは、箱に保管されていた聖遺物のトゲだった。指に挟み持って、勢いをつけて心臓を貫いた。
体に穴の開いている部分が輝いて、高音の悲鳴が世界中に響いて膨れ上がった。俺はこの光景を知っている。祖は俺が聖遺物で殺されたと言った。膨れ上がり、赤くなり、血が飛び散りながら、俺が見た光景と似ていた。爆発するように弾けとんだ。
ヘドウィッグは死んだ。
俺は思い出してしまった。
誰が、俺を殺したか。
俺は愛する女を殺してしまい、その娘が俺を恨んだ。
俺は、俺の娘に殺された。
吸血鬼と人間の混血では普通の聖遺物では俺を殺せない。
銀の剣の先に、婚約指輪がつけられていて、俺の心臓を貫いた。
それで、死んだ。
それが、結末だった。
俺とダルシャンは血嵐を巻き起こして、教団の執行官を打ち倒していった。ダルシャンはすぐに火傷で倒れたため、仕方が無いので俺が担いで連れて行った。俺の掌にはトゲが掴まれていた。これが彼女を殺すのだろう。
「ご主人様……」
俺はビィの目の前で、ダルシャンを地面に叩きつけるように投げた。俺は猟刀を抜いて、首筋に剣先を突きつけた。ビィが蒼ざめていたが、何も言えないでいた。俺は迷って殺すのを止めた。
この男は危険な男だ。
生きていては誰のためにもならないだろう。
この男が少しでも善と見えていたのは、愛する女のための復讐する戦いだったからだ。それが無くなったら、残るものは何なのだろうか。
まあ、いい……。
この火傷で生き残れるはずが無い。
「じゃあな、もう二度と会う機会は無いだろうな」
「……そんなことはありませんよ」
ビィの言葉は不気味なものだった。
俺はトゲを持って、旅に出かけた。ミナが向った方角は調べていたので、そちらの道をひたすら歩いた。道すがら店で情報を集め、冒険者ギルドの支部があれば侵入して、色々調査した。教団が滞在している街と、吸血鬼が跋扈している場所を特定できた。
俺が目指すべき街は分かった。
これで終わりにしよう。




