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第45話 愛別

 薄汚れた服を脱いで、新しく服を整えた。狩猟用に揃えていた弓矢を持ち、猟刀を腰帯に結び付けて、革靴も新しくした。荷物は全てバロンへ積み込んで、俺の荷物は無くなった。金が余ったので、レッドへあげて、俺はユーリへ手紙を書いた。

「本当の娘のように育ててくださいって書こうか?」

「箱入り娘に育ててって書いて」

「駄目でーす」

「えー、なんでー?」

「世間知らずは、良くはならない」

「可愛い感じで良いのに」

 レッドの世話をユーリに頼もうかと思っていた。冒険者ギルドの金と、村から持ってきた銅を集めれば、それくらいの資金はゆうに超えるだろう。

「さて、これで準備は整った」

「うん」

 俺に捨てられるときは、取り乱していたがそれ以外では冷静な少女だ。旅を続けているうちに色々あったが、取り乱したりせずに淡々としていた。


「話していなかったと思うけど、俺は前世の記憶があるんだ」

「前世の記憶……」

「その時も、俺は吸血鬼だった。死んで、この世界に赤ん坊として産まれたが、それでも、また吸血鬼だった。おそらく不死者には天国が無い、安息の救済なんて無いんだ」

 レッドは静かに黙りながら、俺の言葉に頷いていた。

「赤子の俺を取り上げてくれたのが、ミナだ。俺は心の底からミナを愛している。男と女という意味じゃなくて、親子の愛だけどな。彼女が俺に助けてと言った。だから、殺しに行く……不死者にとって生きるということは地獄だ。死にたいと言う気持ちは、俺には痛いほど分かる」

「生きるのが辛いの?」

「俺は、今は辛くない」

 俺はレッドの髪をなでた。

「俺は国を作ろうと思う」

「く、国?」

「ああ、レッドも見ただろ。俺との旅の中で、世界の醜さを……俺はこの世界をもう少しだけ良くしたい。いや、それは綺麗ごとだな……。俺は俺たちのための国をつくる」

 その『たち』の中に誰が入っているかは、俺にも分からなかった。

「その過程で千の万の血が流れるだろう。だが、その分それ以上の命が助かる。嫌なことも、良いことも、普通に生きるより起伏の激しい人生になる。そこで、俺はレッドに聞きたいんだ。お前はそれでも良いか?」

「……」

「お前は俺と結婚すると言ったが、お前は妻として、権力者の妻として、それに耐えられるか?」

 即答せず、考えてから口にした。

「うん。大丈夫だよ」

「俺には以前にも、人間の妻がいた。俺は愛していたが、彼女を……」

 そこへ至る経緯はあったが、結果は変わらない。

「殺してしまった。俺たちも、そうなるかも知れない。それでも良いのか?」

「うん。平気だよ」

「分かった。なら、俺も安心して、お前を愛せるな」

 俺は首にかけていた銅の指輪を取って、左手の薬指につけた。

「俺は嫉妬深いから、戻ってくるまでに浮気したら許さないからな」

「……うん」

「……バロン、頼んだぞ」

「ああ、分かった」


 俺はダルシャンとビィを探し回ったが、当然警戒しているので見つからなかった。ヘドウィッグを監視することにした。シェリダンとミナは戻ってきていないので、今が絶好の機会だ。だが、ダルシャンの妹のシルヴィアがいるのが気になった。

 三日目の夜、俺はダルシャンを見つけた。樹の上を跳んで、俺はダルシャンの横に降りた。斬られるかと思ったが、俺だと分かったようで何もしてこなかった。

「プレスターか。どうした?」

「知っているか。お前の妹がいるぞ」

「ああ、監視していて気付いた。確かに……いる」

「どうする気だ?」

「殺すに決まっているだろ。アイツがここにいるということは、アイツが手引きしたんだ。親父を殺そうとしたのも、シルヴィアを招きいれたのも、俺の愛もアイツが手引きした……馬鹿にしやがって……許すことができない」

 ダルシャンの過去の話から考えれば、その通りだろう。だが、人間とは裏もあれば表もある。この前の、死病の娼婦たちに対する治療活動は偽善かもしれないが、少なくとも善ではあった。彼女が死ねば、良い余命を過ごせる人々の可能性が無くなってしまう。

 俺がそのことを告げると、

「それがどうした。寿命の長さなど、どうだって良いことだ」

 斬り捨てられた。

 簡単に、とりつく島も無しに、一刀両断だった。

「だが……」

「俺にはどうだっていいことだ」

 確かに、その通りだろう。

 だが、お前の復讐も、どうだって良いと言えるんだぞ?


「俺はやはりお前のことが嫌いだ。お前はただの『悪』だ」

「吸血鬼が何をほざく」

 俺は樹の枝の上に飛び乗って、牙をむき出しにして、翼を生やした。

「やるのか」

「俺はお前が買い取った聖遺物が欲しいだけだ。俺がお前を殺すのも、お前の『どうだっていい』と同じことだ」

「ほう、本当にやるのか?」

 ダルシャンは強敵だった。強いと思ったヘドウィッグも苦戦していたので、一対一で戦うのはナカナカに骨が折れるだろう。だが過去の話からして、ダルシャンが持っているのは『王の眼』以外は、その豪剣のみだ。

「たかが魔族の王子が、吸血鬼の俺に勝てると思っているのか?」

「思っているけど」

 愚かな……。

 愚者は死ね……。

「待ってください」

 ビィが走ってきて、俺とダルシャンを間に入った。

「止めてください。お願いします」

「おい、ビィ。このまま行かせても、どうせ死ぬんだ。俺が殺しても同じじゃないか?」

 ビィは俺が吸血鬼とこの前知ったが、威圧感に恐怖しながらも立ちふさがった。

「勝手にしろ」

 ダルシャンは行ってしまったが、興がそがれたので俺はビィの目の前に降りた。

「あの男は、ビィの想いを受け止めないぞ」

「それでも良いです」

「手に入らないものなら、俺はいらない」

「私はそれでも良い」

 馬鹿な、女め。

 俺はダルシャンの後ろをつけて行った。

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