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第40話 休暇

 コンクリート打設は明日なので、今日は暇だった。朝から温かだったので、湧き水で体を洗って、レッドの体も濡れ布巾で綺麗にした。金銀にも劣らない玉を扱うように、光沢がでるように磨いた。

「今日は、一緒にいるか」

「うん!」

 レッドは嬉しそうにニコニコ笑って、俺に手を伸ばしてきた。俺は手を繋いで、橋付近を探索しに出かけた。俺は何かにつけて散歩しているので、ほとんどの地理関係は頭の中に叩き込まれている。だがレッドは一人で出歩くことを禁じているので、真新しそうに周囲を見渡している。


 俺達は掘っ立て小屋がならぶ広場に来ていた。この掘っ立て小屋は娼婦たちが住み、仕事場としており、工事現場に次いで活気のある場所だった。娼婦たちは作業員相手に稼ごうと、仲間たちをつれてこの場所まで移ってきたようだ。娼婦の一人が朝食を作っており、乳粥を煮ながら塩で味付けしていた。手馴れているので料理するのは得意なのだろう。辺りに漂う臭いも美味しそうで、俺もレッドも指をくわえて見ていた。


「……食べるかい?」

「良いんですか?」

 完全な乳だけではないので少し違和感があったが味わって食うことはできた。レッドはスプーンを使ってかき込みモグモグと食べていた。

「仕事……儲かりますか?」

「んー……普通。教団がいるから商売する方も大変よ」

「大変ですね」

 教団は売春を認めていないのでたびたび取締りされているようだ。ただ教団もここは何も無い場所だから、息抜きできる場所として娼館の価値は認めているそうで、ある程度商売することを許してくれているようだ。

「アンタたち、私たちと喋っていると変に思われるよ」

「まあ、気にしませんので」

「なにが変なの?」

 レッドは娼婦がどういう職業か知らないので首を傾げていた。

 俺は鞄から干した魚と肉を食事のお礼に渡した。

「あら、良いのかい?」

「物々交換と言うことで」

「これじゃあ見合わないわよ。ちょっと待っていてね」

 おねえさんが持って来たのは小瓶に入った液体だった。

「オリーブオイルに香料を入れた整髪剤よ。女は髪が命だからね」


 俺たちは大河を見下ろす崖に登り、俺は石に腰かけてレッドの髪にオイルを垂らして、まんべんなく伸ばした。良い香りが漂ってきて、短い髪から女性の匂いがした。安物の感じはしないが、売り物のような感じもしない、おそらく自作だろう。

「良い香りがするね」

「これは良い物だな」

 毎日使い続ければ、髪が長くなる頃には綺麗で艶があるものになるだろう。俺は後頭部に鼻をうずめて、レッドが嫌がるまで匂いを嗅いでいた。


 崖の近くで料理屋がやっていた。料理屋から大河を見下ろせて、対岸の遠景まで見ることのできる景観の良い場所だった。俺達は乳粥を食べたけど、レッドがまだまだ食べたそうにしていたので、料理屋に入ることにした。料理屋の外に置かれたテーブル席に座り、俺はメニュー表を見て何が食べたいか聞いた。

「オムレツ」

 隣の席の人がオムレツを食べていた。

 オムレツは蜂蜜と卵の合成語と言われているので、食べているオムレツから甘い香りが漂ってくる。新鮮な溶き卵に野生の蜂蜜を混ぜて焼いたもので、食事と言うよりデザートと言った方が良さそうだった。

 注文して、風に遊ばれていると、俺の目の前に牛乳、レッドにはオムレツと牛乳が置かれた。レッドがオムレツを食べようとした時、隣の人が倒れた。

「食うなー!」

「へっ?」


 隣の人は胃を洗浄されて一命を取り留めた。どうやら蜂蜜に毒が混じっていたようである。蜂は蜜を集めるのに手近なものを集めるので、毒性のものも集めてしまうことがある。今日貰ったばかりのものなので蜂蜜が原因で間違いないといっていたが、俺は店主の服を鷲掴みにして持ち上げていた。

「大事な嫁入り前の女を殺す気か!」

 店主は子どもと見て舐めていたが、俺がどんどん持ち上げると慌て始めた。

「す、すみません!」

「もっと、心を込めろ」

「すみまてぇん!」

 大事なところで店主は噛んだ。

「ふざけているのか!」

「すみましぇん」

 また噛みやがったな。

 おのれ、彼岸で俺に詫びるがいい。

 俺が怒りで頭が沸騰していると、俺の服をレッドが掴んで引っ張った。

「もう、良いよー。プーちゃん」

「良くない。こういうのを放っておくと、いつか間違いを起こす」

「私、大丈夫だから」


 その後もしばらく謝罪を要求していたけど、俺の怒りは養蜂家へと向いた。近くにいるとのことなので、レッドを肩車して急いで向った。着いた。扉を叩いて、養蜂家に言うと蒼ざめた顔をして、俺に謝る前に方々へ商品を回収するのを手伝ってくれと頼まれた。仕方ないので手伝ってやると、運がいいことにそれ以上被害は広がらなかった。お礼にロイヤルゼリーと毒なし蜂蜜を貰ったけど、俺は毒あり蜂蜜も欲しかった。

「毒が欲しいのか?」

 何に使う? とは聞かれなかった。

「猟に使うんですよ」

「ほう、なるほど」

 本当に使うかは分からないけどな。

 毒は毒で貴重だ。


 日が暮れる前に、洞穴へと戻るとバロンだけがいた。

「あれ、二人は?」

「昼間に二人で出て行って、戻ってこない」

 バロンは伸び伸びと寛いでいて、鼻をひくつかせた。

「なにやら邪悪な匂いがする」

「これは毒だから気をつけろよ」

 俺は『超危険、毒あり』と書いているので大丈夫だと思ったが、念のためにバロンに言った。

「蜂蜜か……何にするんだ?」

「せっかくだから、蜂蜜酒でもつくるかな」

 古酒には口噛み酒などがあるけど、蜂蜜酒も有名だ。蜂蜜酒が優れているところは、蜂蜜と水を混合させると出来てしまうという事だ。蜜月の由来にもなったと言われていて、飲むと精力がつくので、新婚が子作りのため飲む酒でもある。

「ユーリの家の水を使えば、美味しい酒ができそうだ」

「お前、まだ子どもだろ」

「子どもだって酒を飲むだろ」

 酒が一番安全な飲み物だった時代は、子どもでも水ではなく酒を飲んでいた。それほど清浄な水の確保が難しい時代があったということだ。ちなみに日本は綺麗な水が確保しやすいので水が飲まれていたが、お札で有名な福沢諭吉だって幼少の頃から酒を飲んでいた。

「だいたい、俺は吸血鬼だからな。酒は好まん」

「……じゃあ、レッドが飲むのか」

「ろくでなしには育てません」

「育ちません」

「となると、売るのか」

「そう言うこと。水と一緒に売れば、少しぐらいの金になるだろ」

 何をするにも先立つものが必要だ。


 俺たちはダルシャン達を待って食事を作ろうと思ったが、なかなか戻ってこなかったので少し探してみた。すると、ダルシャンが一人でたたずんでいた。

「どうかしたのか?」

「ああ……少し昔を思い出していた」

 ダルシャンは過去を語り始めた。

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