第36話 真祖
俺は引き続きユーリの建物作りの手伝いをしていたが、同時に色々なことが起きていた。まずシェリダンとミナが姿を消して、滞在していた教団関係者は半数以上姿を消した。ヘドウィッグはそのまま残り、橋の監督を行っている。
俺は気になったので、旅人に話を聞いてみたり、冒険者ギルドに侵入したりして、情報収集を行った。それによると、各地で吸血鬼が復活したそうだ。数は不明だが、少なくとも二人復活している。それは鏡男の死によるものだった。俺は鏡男の名を知らなかったので、冒険者ギルドの資料から彼を調べるのに苦労したが、だいたいの略歴を知ることができた。その討伐歴には数々の不死者の名が載っており、数名がカッコ書きで『封印』と書かれている。ここまで来ると、だいたい読めてきた。まず教団が鏡男の処刑を行わず、大河に沈めたのは、封印した吸血鬼を復活させないためだったのだろう。鏡の中に封じ込めて、外へ出さないようにしたのだろう。俺が最初に対決した時も、同じような手を使われそうだった。俺がこの前殺してしまったため、鏡男でも殺すことのできなかった強い吸血鬼が放たれてしまったようだ。
調べ終わってから数日がたち、若い男が首筋に血を吸われて死んでいるのが見つかった。恍惚とした表情を浮かべていて、天国に昇天してしまったような表情だった。死人が四名を数えた時に、ヘドウィッグは姿を消してしまった。今まで動かなかったのは吸血鬼がいる場所が分からなかったからだろう。そのお陰で、俺は人狼のギルを助けた時に、顔まで見られていなかったのを確信した。教団は吸血鬼の完全なる敵だ。わざわざ実力者の三人を橋の警護から外すのは、強い意思の表れだろう。
だが、教団の情報網は間違いだったようで、引き続き吸血事件は起きて、死人が五名となった。知らせを受けて、外部へ出たヘドウィッグも戻ってきているだろうが、俺は執行官の三人がいないのを良い事に、闇夜を建物の屋根を飛び石代わりに散歩していた。
ヘドウィッグが封印した吸血鬼に女はいない、だが情報によると男を狙う男吸血鬼はいた。女吸血鬼カーミラの小説では、カーミラは女を狙うために同性愛だと言われていた。俺が女の血を飲みたいと思うのは性的嗜好によるものの影響が大きい、ただ原則と言われるほどの物ではないので彼がそっち系なのかは分からなかった。特に最初の邂逅の時は、彼を男とは思わなかった。彼は女の体をしており、男の生き血をすすって唇を赤く濡らしていた。
「やあ」
「ああ、同族か」
驚いたことに大人の男の声で、もしかしたら変身しているのかもと思ったが、どうやら違うようだ。
「俺は、改造されたんだよ」
「そうか、聞いて悪かった」
深く聞いてもよかったが、どうせ碌なことではないので聞かなかった。
彼の名前はオセロと言い、俺のような成り上がりとは違って、祖と同じの真性の吸血鬼だった。だが、変身能力が使えない、血の霧にもなれない、翼を生やすことも出来ないなど、本物の吸血鬼のわりには才能が無いようだ。代わりに飛びぬけているのは、改造されつくした肉体美だった。元男とは思えない美貌で、誘い血を吸っている。
俺は鏡男を殺したことを告げると、オセロは乾いた笑い声をあげた。
「あの男も、俺に誘惑されかけたんだよ」
美貌に戦慄して、殺しではなく封印を選んだようだ。
俺は知り合い以外の命はどうでも良いので、基本的に放置することにした。オセロはしばらくの間、ここに滞在していて、夜の街を気ままに散歩していた。何度か美味しそうに煙草を吸っているのも見た。ある日の夜に立ち話をした。
「教団と吸血鬼はどういう関係なんだ?」
そんなことも知らんのか? という顔でオセロは語り始めた。
「吸血鬼は各地にいて、人間を支配して暮らしている連中もいたが、今の俺みたいに気ままに生きている連中もいた。だが、十世紀以上前に教団が設立されてから、俺たちは眼の敵にされた。人間に害をなすから――というのもあるけど、奴等からしたら明白に悪なのが分かるからな、それは偶像崇拝だ。成り上がり連中――すまない――は人間だったころの主義主張で影響を受けるので、教団を信仰していた連中は教団が禁止している偶像で滅ぼすことができた。これで、信徒たちに証明ができるわけだ。十字架に怯える吸血鬼を見れば、悪いやつは偶像に苦しむんだと……。だが、それは逆の考えも生んだ。それは、偶像は力になる――という事だ」
「前に、聖遺物のようなものを見たが」
「数百年もあれば、偶像崇拝をしたり捨てたりと色々あった。だが、結局それは悪とされて、偶像に屈服する吸血鬼は最大の敵とされた。討伐を繰り返すうちに、吸血鬼も力をあわせるようになり、力を持つ物が求められるようになった。それが執行官だ。どうやって不死者にしたか分からないが、それはほとんどのものが知らない秘密だ。天国を信じるものが、転生する生き物を飼っているなんて馬鹿らしいな」
ミナが吸血鬼に詳しかったのは、敵を研究していたからだろう。対立すればお互いに疲弊をすることもあるが、対立はお互いを研磨して強くすることもある。そのため、吸血鬼の知識よりも知っている事が多かった。母乳で育てられるなんて、人間が知るにはよほどの研究が必要だろう。
俺はオセロのお陰で知識を仕入れることができた。だが、別れはすぐに来た。オセロはヘドウィッグに見つかって、蝗で食われつくすところだった。だが、俺はヘドウィッグの情報を教えていたので、オセロは何とか逃げることができたそうだ。その方法が不死者らしくて、毒を飲んで体を毒まみれにするというものだった。お陰でイナゴは毒で死んだそうだ。最後の別れを告げて、オセロは行ってしまった。
どこへ行くか言わなかったが、不死者同士だ。
また何処かで会うことになるだろう。




