第34話 祝福
俺は初潮祝いと言う、祝いの名を借りた嫌がらせをするつもりだった。ただ、レッドの場合は嫌がっていないので、嫌がらせにならないかもしれなかった。だから盛大に祝ってやろう。他人にも女の体になったことを大々的に報告してやろう。任せておけ、吸血鬼の力を見せてあげよう。恥ずかしがる顔を見てやりたかった。
俺は朝早くに森へ出かけて、猪を見つけた。吸血鬼の力なら投石で十分だけと、やはり弓矢があったほうが良いかも知れなかった。自作はできるけど、矢を作るのが面倒なので、どこかで購入した方が良いかもしれない。
弓矢を作ってから狩りをするのは面倒だったので猪の頭を石で砕いて、素早く近づいて首を掻っ切った。あふれ出る血を鍋に受けて、血を溜める。お湯と短刀を使って毛を剃って丸裸にして、次に腹を裂いて内臓を取り出して、体の内側を水で洗い流した。腸以外は捨てて、急いで洞穴へ戻った。豚の腹の中に香草を詰め込んで、口から尻まで棒を突き刺して、丸焼きにした。血は塩を混ぜて腸詰にした。寝ていたバロンを叩き起こして、ユーリの家に運ばせて、朝から豪勢な食事にすることにした。
「朝から脂っこいものを、しかし豪華だ」
「当然だ。レッドが女の体になったお祝いです」
「私、こんなにされたら恥ずかしいわ」
ビィが言っていたが、それが狙いです。
俺は血のソーセージを食べてみたかったが、遠慮した。豚は人間に近いので、もしかしたら衝動が抑えきれなくなるかもしれなかった。俺はヨーグルトを食べながら、猪の丸焼きと血のソーセージを食うレッドを眺めていた。ユーリも奥さんもビィも美味しそうに食っている。
「どんな感じ?」
「えっとね……。猪の丸焼きは香草が蒸されて、臭みも無くなって、固くて歯ごたえがあるから、噛めばかむほど肉の旨味がでてくるよ。皮はパリパリしていて、肉とは違った美味しさがあるから、ご飯も進むよ! 血のソーセージは肉より野性味があって、最初は驚いたけど、美味しいね」
……食っても不味いだけなのだが、レッドが美味しそうに食べているのを見ると、腹が減ってきた。俺は血のソーセージを手にとって食おうと思ったが止めた。これを食べて吸血鬼化が進んだら、今までの苦労が台無しだった。
「レッド、あーん」
口をあんぐりと開けさせて、ソーセージをくわえさせた。
「……変態吸血鬼が」
バロンが誰にも聞こえないように呟いたが、お前に言われたくなかった。
存在がキモイんだよ、ユニコーンめ。
だいたい何の意図もありませんけど?
何を想像したんですか?
えー、こら。
俺が無言でジェスチャーをしていると、バロンに通じたようで、目線の罵りあいは食事が終わるまで続いた。
豪華な食事が余ってしまったので、水を買いに来る旅人にも振舞った。「嬢ちゃん、大人になったかー」と言われても、レッドはニコニコして笑っていた。前から薄々気付いていたが、こいつの精神力の高さは並ではないようだ。吸血鬼を好きになるだけあり、根本からおかしいとも言えそうだけど、とにかく常人離れしている。普通の女の子だったら、知られるのも嫌なはずだが、むしろ知ってほしそうに振舞っている。
俺たちは腹ごなしを終えて、建築作業に取り掛かった。この前掘削を終えたので、つぎに転圧作業だ。木槌、足、丸太を使って、どんどん音をたてて締め固めた。次に、四隅に木の杭を打ったガンガン打った。出雲大社でも木の杭が使われていたので、その起源は古くからある。ちなみに出雲大社は倒壊したことがあるけど、三本の木の杭の間に木の柱を建てたため、腐朽して壊れたそうだ。だが、今回はコンクリートと一体化させるので、問題ないだろう。何度か、高さを確認して、最後に砂利の上に木の棒を並べて準備は完了した。俺たちは鉄製の大きな器に、練り混ぜるためのスクリューをつけたもので、コンクリートを練った。
「はい、レッドちゃん。これは何をしているのかな」
敷き詰められた砕石の周りには、木の棒が固定されている。
「分かりません!」
「元気があってよろしい。これはね。捨てコンクリートの為の型枠だよ」
「なんですかそれは」
「一面にコンクリートを敷くことで、ここに基礎の絵を描いて、精度の高い建物をたてるんだよ。紙に描いても、角度関係が間違えるんだから、実施においても同じようなことをしないと駄目なんだよ」
コンクリートを打ってしまえば、土や砂と違って動くおそれがほとんど無くなる。絵も描けるし、それに基礎の型枠も固定できるので至れり尽くせりだ。
「直接構造には関係ないから『捨て』がついているらしいよ」
「なるほど! 良くわかりません」
「とにかく、コンクリートを木の棒の高さに合わせて撫でて」
俺はお手製の木の鏝を用意した。本当だったら金属製のもので撫でたほうがいいけど、現代でも木鏝でやる人が多いので別にいいだろう。実際の話し、金属製のほうが精度はあがるんだけど、作るのを忘れていたので、お手製の木鏝を使った。
「これがコンクリートか」
レッドが手で触れそうになったので、手首を掴んだ。
「駄目だよ。手で触ったら荒れるよ」
コンクリートはアルカリ性なので荒れてしまう。長年コンクリートに触っていると効かなくなるが、少女の手を荒れさせる必要は無かった。ちなみにだけど、コンクリートのアルカリ性が鉄筋を腐食させないので、現代では鉄筋コンクリートが主流になってきている。まあ、他にも理由があるけど、蛇足になるので省く――。
俺たちは鏝で均しつつ、コンクリートを作りながら、時間をかけて捨てコンクリートを完成させた。この世界に来て初めてコンクリートを打ったが、現代の計算された材料とは違い硬化が遅かった。結局夕方になるまであまり硬くならなかったので、その日の作業は、それで終わった。




