第33話 嬰児
親が通る試練が訪れたようだ。
「ねえ、ねえ、アカちゃんってどうやってできるの?」
「ほう……それはいい質問だ」
レッドの質問に、周りの大人が聞いていないフリをして遠ざかっていった。ユーリと奥さんも知らんフリで、ビィですら知らんフリだった。まったく使えない大人どもだ。こうして自分たちで性知識を手に入れて、間違った道を歩む人間が多いのは言うまでも無かった。
一方のバロンは眼を開けてレッドを見つめていた。ユニコーンは処女を好むので、興味を示したことでも気に食わないのだろう。
ユニコーンって、気持ち悪いな。
俺の考えを読み取ったのか、バロンが睨んできたが、睨み返してやった。俺はユニコーン如きに負ける吸血鬼ではない、邪眼持ちを舐めるなよ。
「ねえねえ、どうやったら出来るの?」
「お前は、父ちゃんと母ちゃんの夜の営みを聞いたことないのか?」
「私、親、いないもん」
いつもの表情で言ったので、親がいないことは冷静に受け止めているようだ。
「分かった……。お前、小便するだろ」
「毎日するよ」
「出る場所からな――」
周囲の大人がこちらを振り向いてきた。レッドは股に掌をあてている。
「上に行く」
「上」
「「上?」」
俺はレッドの服をめくって、臍を丸出しにして、親指でギューギュー押してやった。
「これで子どもができるのさー!」
「えええっ! 本当に! いやー、アカちゃんできちゃう!」
「本当だよ」
「あっ、なんかお腹に痛みが」
「嘘です。すみません」
「えーっ!」
腹を掌でパチンと叩くと、良い音を響かせた。
「やめてよっ」
「良い腹太鼓じゃ」
そのまま後ろへ回って腹をつかんで、その場でグルグル回った。
「わーい」
「ほーら、たのしいぞー」
俺は話を完全にそらした――つもりだった。
手を繋ぎながら和やかな雰囲気で話していたが、洞穴での帰り道でこんな事が起きるとは思わなかった。夕方の通り雨に打たれて、俺とレッドとバロンは大きな木で雨宿りをしていた。違和感があったのは、バロンもだった。鉄の匂いが漂い、俺たちの鼻腔をくすぐった。レッドの服は雨に濡れていたが、スカートから覗く足が血に濡れていた。
「怪我したか?」
「おい、プレスター。それは違うぞ」
俺は布で血を拭いて、餓えて喉が鳴るが、なんとか抑えた。
「怪我なんてしてないよー」
俺はどんどん元を辿ると、とうとう気付いてしまった。雨があがった後に、俺たちはユーリの元へと戻った。掘っ立て小屋にはビィもいたので、年齢も近いのでレッドを任せた。
「うちのレッドちゃんが、初潮をむかえて。いやー、メデタイメデタイ」
「随分早かったですね」
ビィがレッドの頭を撫でている。
「まだ十歳なんですがー」
「そろそろ十一歳くらいだよ」
「なにー、お前の方が早く生まれたのかよ」
「なんと……お姉さんと呼びなさい!」
「うざっ」
俺は柔らかい頬を両側から摘まみ、引っ張ってやった。
さて、俺はふざけるのを止めて、洞穴の中で吸血鬼性教育講座を開始した。レッドは耳をかっぽじって良く聞いて、呆然としながらアカちゃんの作り方も覚えたようだ。
「という事だ。何か質問はありますか」
あまりにも詳しく説明しすぎたので、バロンがドン引きしていたけど、俺は徹底的に教えつくした。将来悪い男に捕まったたら損を見るのは女性の方なので、今のうちにガッツリ教えておくのは大事なことだった。
「はい! 人間と吸血鬼の間に子どもは出来ますか?」
「お前は俺と結婚する気か?」
「前から言っているじゃん」
えー、答えないといけないのか?
「一応できます。ただ、人間同士と比べたらスゲエエエエエエできにくいけどね。俺も二例ぐらいしか見たことがありません」
「へー、やったー」
……まあ、とりあえず無視することにしよう。
「まあ、人間と吸血鬼の混血なんて、どちらの世界からも敬遠されるから作らないほうがいいよ」
「えー、やだー」
「だからー、何で俺がお前と結婚しなきゃならんのだ」
レッドは泣きそうだった。
「嫌なの?」
「だから、前にも説明したでしょ。ある程度まで俺たちは年齢を一緒重ねるけど、お前が五十歳になったら俺は二十歳、お前が老衰するころにも俺は二十歳のままだ。そんなことが耐えられるか?」
「大丈夫だよ」
十歳の決意とはいえ、今まで良く考えていたようで淀みなかった。
俺の周りにも何人もの人間と吸血鬼の恋人が生まれた。子どもができた連中もいたけど、最後は別れが待っていた。それは人間同士でも同じことかも知れないけど、残るのはいつも吸血鬼の方だった。
それは寂しい。
「お前が大丈夫でも、俺が寂しいんだよ」
「でもー」
「分かった」
「えっ?」
「だったら、お前が二十歳になっても俺のことが好きだったら考えるよ」
「本当に?」
「わざわざ嘘はつかないよ」
「やったー! やったー!」
レッドは嬉しがってバロンに抱きついたが、ユニコーンはそれを喜ばない。
「あなたー」
「触るなっ!」
一緒に寝ようとしたので、俺は馬を挟んで川の字になった。
「初夜なのにー」
「本当にうざい」
その日の夜は騒がしいものだった。




