第32話 待人
「掘って、ほてほてっ」
レッドのイライラする手拍子に急かされながら、俺は建物の基礎の部分をスコップで掘っていた。以前、ゴブリンのジノに話したコーロバーテスとグローマを自作して建物に応用していた。高さ関係と、直角を正確に出していれば、後々の整合も問題無く合っていくので、慎重に確認しながら作業していた。
「掘って、ほてほてっ」
「あー、うるせー」
「頑張ってー」
レッドは俺の働くのを見ながら、手拍子をしている。この土地は自然の大地のままなので、掘ったままでも地盤は安定しているけど、念のために川原の石で敷き固めも、木杭も打つ気だった。俺は棒を立てて、ユーリがコーロバーテスを見て確認するのを待った。木の棒にはユーリが見たところに線を描いてあり、別の場所でも視線を木の棒の線に合わせて、全ての地盤の高さを合わせた。
「最後だよー」
俺がスコップを入れると、ガチン! と変な音が鳴り、三人の頭の上に『?』が浮かび上がった。俺が手で掘り始めると、レッドも降りてきて、顔にワクワクを隠さないで、発掘作業を続けた。俺たちの全財産も地面に埋めて隠しているけど、何百年か前に埋めた人がいたのだろう。
「なんだろう」
それは土器で、後から被せた粘土のような蓋にスコップの跡が残った。蓋を爪で引っかいて削っていくと中が見えた。金色の箱が入っていて、薔薇と無花果の掘り込みをされていて、宝石がちりばめられていた。俺は開けた時に思わず悲鳴をあげて、レッドに抱きついてしまった。
「まだ昼間だよー」
「あ、あぶねー」
俺は何も起きないのに安心して、中身をつまんだ。それはトゲだ。俺が何故焦ったかと言うと、聖書も十字架も効かない俺だが、さすがに聖遺物には恐怖の気持ちがあった。ホーリー・ソーン聖異物箱という物が大英博物館に保管されているが、その中には同じようなトゲが保管されている。そのトゲの由来はキリストが磔にされる前にかぶっていたイバラの冠だそうだ。俺はそれだと思って、急いで逃げた。
「別世界にあるはず無いか」
「どういうこと?」
「いや、気にするな」
だが、本物であろうと偽物であろうと、箱自体の価値は高そうだ。誰かが高級品なので隠していたのだろう。その誰かは永遠に戻ってこなかった。
「教団には見せられないな」
土地の持ち主であるユーリは水を飲みながら、俺たちを見おろしていた。
教団は基本的に偶像崇拝を禁止している。そこらへんは地球よりも厳格であり、イスラム教に近いものがあった。これから偶像崇拝の締め付けが強くなるか、弱くなるか分からないが、そのへんの加減は時代によって変わるものである。東ローマ帝国もオスマン朝トルコとの戦いで、劣勢になりイスラム教を真似て偶像崇拝を禁止したこともあったが、再び復活させた後に勝利したため偶像崇拝に対する嫌悪感が無くなってしまった。教団が今後、偶像崇拝を認めることがあるかもしれないが、現状ではこれを持っているだけで異端者と認定される可能性があった。だからと言って、高価そうな箱だけを売るのも、気が引けるものだ。
「まあ、とりあえず持っていてよ」
「えー、どこに隠そうかな」
ユーリは頭をポリポリとかいていた。
俺は竹垣の中で休憩していた。ギルを助けた時に、遠目とはいえヘドウィッグに見られてしまったので、できる限り姿を見せないようにしていた。ユーリの奥さんが水を販売している所とは、竹垣で仕切ってあるので、旅人に見られることも無かった。そんな中、ダルシャンが賭けで奪った女性――使用人が水を求めてやってきた。傍らにダルシャンがいないので、ダルシャンがヘドウィッグを襲った後に離れ離れになってしまったのだろう。父親の元へ帰ることもせず、ダルシャンを探しているのかも知れない。俺は女使用人から見えるように、手招きすると顔がはれてこちらへ走ってきた。
「私のご主人様を知りませんか?」
やはり離れ離れになっているようだ。
「残念ながら、あれ以来あっていないよ」
「そうですか……」
「父親の元へ帰れば?」
「嫌です! 娘を賭ける父親の元へ帰るくらいなら死にます!」
そこまで言わなくても……まあ、本人の勝手だけどさ。
「ここで働かせてもらえませんか?」
どこかで聞いた事のある言葉を、女使用人は言ってきた。
「あちらの方が雇い主です」
俺はユーリを指差した。彼女の名前は、ビィと言う珍しい名前だった。彼女は旅人を見ることのできる水売り場で働いて、ダルシャンを探したいと言っていた。しかも、かなり格安で働くと言っており、ユーリも奥さんも断る理由が無かった。
「なんか、人が来ては去っていくね」
「そんなもんだよ」
休憩していると、最後の運搬を終えたバロンがイライラしながら戻ってきて、コンクリートの材料を地面に置こうとした。
「濡れないように、洞窟掘ったんだからそっちに」
最後まで言う前に、バロンが足で蹴ってきたけど、何度も食らうほど俺は腑抜ではなかった。頭を横にずらして避けて、バロンに砂をかけた。
「舐めるな。ユニコーン」
「くそー」
散々働かせたのでバロンは随分と機嫌が悪くなっていた。
「よしよし、バーちゃん頑張ったね」
バロンはレッドには猫のように擦り寄って、甘えた鳴き声をしていた。レッドはバロンを座らせて、水で体を洗い、ブラッシングを始めた。
「腑抜けユニコーン」
「馬は乗り手を見るんだよ」
バロンは嬉しそうに言っていた。




