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第30話 火口

 古代のセメントの材料は石灰岩と火山灰からできており、科学的に成分のみを考えて調合しているわけではないようだ。特に顕著な違いは、現代のコンクリートは古代と比べると力が発現するのが早かったそうだ。ローマ帝国が優れていたとしても、コンクリートの力の発現速度は遅かったようである。だが、ローマのコンクリートは現代のコンクリートと違って、鉄筋は無いのに十分な強度を出しており、何世紀にも渡って維持されていることから、良質だったことには間違いないのだろう。

 俺は建物の計画をしながら、日々を過ごしていると、アルルと一緒に行動していたユニコーンのバロンが戻ってきた。少し痩せてしまったけど、気は晴れているようだ。

 口に指環を咥えている。

「主の持ち物なんだ。お前たちの銅の指環のようにしてくれないか」

 アルルが形見としてつけていた指輪だそうだ。バロンは二人の想いを背負って、生きていくことを決めたようだ。

 俺は革紐を編んでバロンの首にかけてあげた。

 その日から俺たちはバロンと共に行動するようになった。アルルの兄であるユーリの建物を手伝っていることを知ると手伝うと約束してくれた。

 バロンはレッドを気に入ったようで、離れなくなりいつも一緒にいた。学校が休みのときバロンを連れてユーリのもとへ行くと、俺は尋ねられた。

「この馬はどこで手に入れたんだ?」

「山で迷っているところを捕まえました」

「……そうか」

 それだけ言った。ユーリはアルルが無事では無くなったのを勘付いたようだ。それ以来、アルルのことを口にしなくなった。


 俺たちは近くの火山へ皮袋を大量に用意して、バロンとレッドを連れて、俺は走った。俺はな。レッドはバロンに乗せてもらって、風のように走っている。

 何故俺は走っているって?

 ユニコーンは処女おとめにしか優しくねーんだよ!

 童貞にも優しくしてもらいたいもんだ。

 うふふ、優しく乗っけてもらいたかったよ。

 今世では経験はまだ無いからねー!

 あーつかれるー。

 あーむかつくー。

 でも馬に走ってついていけるなんて、さすが吸血鬼だなー。

 と思っていると、火山の麓まで来た。ここまで来ると、コンクリートの原料がある場所なので、売っている店が数多くあったけど、俺たちは違う。噴火口まで行って、持ってくるのだ。

「面倒だな。そこまでして金を使いたくないか」

 俺はアルルの死でユーリに良心の呵責があった。やれることは、やってあげたかった。

「ユーリのためだぞ」

「そうだよ。バーちゃん」

 俺はプーちゃんで、バロンはバーちゃんか。

 ネーミングセンスが無いね。

「運ぶのは、我輩だろ」

 そうだよ、馬だろ。


 そうびーも、てきとーで、われわーれは、やまーにぃー、のぼぉぉったぁぁー。


 一日迷って、野宿して、ボロボロになりながら、火山口まで辿り着いた。山の頂上にあるせいか、風が強くて野宿もできないので、積めるだけ積んで下山した。

「あー、しんどかった」

「山を舐めていた」

「我輩が一番酷い目にあっているぞ」

 バロンは馬の限界を突破して山ほど石灰岩と火山灰を積んでいた。レッドを乗せる隙も無いので、俺とレッドは一緒に手を繋いで歩いていた。

「お前ら本当に仲が良いな。兄妹なのか?」

「違うよ。未来の夫婦だよ」

「何! 止めておけ、女は純潔のままのほうが美しい」

 ユニコーンらしい意見だった。

「というか、仲良いか?」

「手を繋いでんじゃん」

 ……そういえば、俺はいつも手を繋いでいる気がする。子どもなのでどこかへ行ってしまうと困るので繋いでいるけど、傍目から見たら仲良く見えるのだろう。

 ぶん、と振りほどくと、レッドが手を掴んできた。

「なんで離すの?」

「誤解を産むので」

 振りほどいた。

「良いじゃん」

「やだ」

 何回かしていると泣きそうになったので、俺が折れた。


 俺たちはセメントの原料を取って来たので、セメント工場に頼んで焼成を頼んだ。全てがセメントになるのを待って、俺たちは再びバロンに積み込んで出発した。


 帰り道に、意外な人に待ち伏せされていた。バロンも気付いたようだけど、俺は手で制して、待ち伏せしていた女のところへ歩いていった。

「なんのようだ? リン・パンクハースト」

 以前、俺たちを襲った毒女がそこにいた。人狼のギル・ガルテは捕まっており、毒女のリンは捕まっていないと聞いていたが、こんな場所で俺を待ち伏せしているとは思わなかった。俺とダルシャンが乱戦に参加していたときに遠目から見ていたそうで、体の動きから何となく俺だと分かったそうだ。色々捜索の手を伸ばして、橋の工事現場から離れた場所で待ち伏せすることにしたようだ。

「お願いします」

 リンは額を地面につけて土下座した。

「ギルを助けるのを手伝ってください」

「人狼をか?」

「お願いします。私の大事な人なんです」


「無理だ」

 やる、やらないではなく、俺の完全に復活しない体ではあの連中全員を打ち倒すことはできなかった。特に義母のミナとは戦いたくなかった。むしろ、彼女を何処かへ連れ去りたかった。

 危険な目にあって、人狼を助けるほど俺は暇ではなかった。

 リンは俺たちについて歩き、橋の近くになっても懇願し続けるので、俺たちは住処の洞穴まで山道を歩くことにした。とうとう我が家にまで入ってきて土下座を続けた。俺はバロンとレッドをユーリの元まで行かせて、俺はリンと向かい合って話すことにした。


「お願いします」

「そんなことを言われてもな」

「私には売る体もありません」

 体液が毒と言ったから、体に触れるのも危険だろう。

 まあ、そういうことだ。

 そもそも、体を売れなんて言ってないからね。

 誤解をまねくような言い方はしないで貰いたかった。


 助けてあげろよ。

 祖が話しかけてきた。

 何故ですか?

 私は女の恋心を成就させたいんだよ。

 そういう行動原理はどうかと思いますが。

 私はそういう女だ。お前がやらないなら、私がお前の体を操ってやるぞ。

 それは嫌ですね。

「……分かった。ただ条件がある」

「何ですか?」

「お前ら二人の命を貰おうか」

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