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第29話 M

 毒の煙に燻されながらも、教団の執行官たちには効いていないようだ。だが、冒険者たちは倒れて、吐きながら崩れ落ちていた。鍛え方の程度が違うのだろう。権力者は力を維持するために全力を尽くすものだ。教団に実力者が多いのも当然だ。

「これほど薄まった毒なら、私たちには無駄だ」

「痺れてくれれば良いのにな」

「全てが上手くいくと思うなよ」

 シェリダンはしなやかに歩いて、俺の間合いへと入ってきた。俺は飛び退いて、距離を取ると、シェリダンは馬鹿にして笑った。

「どうした。不死者? 母が怖いのか?」

「お前には聞きたいことがある。何故……」

「死んだのに生きているのか、だろ? そんなのは簡単だ。お前にも分かるはずだ」

 俺は迷っていたが、答えた。


「お前たちも不死者なんだな」


「その通りだ。分かっているじゃないか」

「ああ、おかしいと思っていたんだ。この世界には聖書がある。それは俺が前いた世界とほとんど変わったものでは無い、なら誰がこちらの世界に持ち込んだのか。神がいるなら、神がしたのだろうが、俺は別の可能性を考えていた。俺たち不死者の誰かが転生して、この世界に聖書を残した」

「おいおい、分かっているじゃあないか。素晴らしい推測力だ」

「だから、教団の中の執行官は不死者によって構成されている」

「私が死んだ時に吸血鬼だったのは事故だった。色々あってな。教団の創設者は執行官が死んだら技術が消えてしまうのを恐れて、永遠に使うことができるように、不死者を参考にしたんだよ。それが私たちだ。敵には不死者も多いからな、いちいち死んでいられないのだよ」

 ミナは幻術使いだったが、シェリダンは何ができるのだろうか。身体能力の高さは眼を見張るものがあるが、それだけなら吸血鬼の俺を殺すことはできない。剣の間合いを計りながら、三合打ち合わせた。

「綺麗な音だ。金属の音は美しい」

 シェリダンは無造作に間合いに入り、俺の服を掴んで、足を引っ掛けて倒した。俺は横回転して、間合いから離れて、立ち上がったが追撃は終わらなかった。俺は前に出て、剣先を腹にくらいながら、剣の握り手で殴った。

「これだから吸血鬼はやりづらい」

「分かっていることを」

「だが、私の調子も良くなってきてな。今回はそう簡単にはいかんぞ」

 シェリダンは反撃に剣を薙いできたが、剣の持ち手を前蹴りして、反対の足で顎を蹴り上げた。鼻血が飛び出して、地面に後を残した。次に剣を打ち合わせたときに、俺は弾かれてしまった。

「気付くのが早いな」

「急に強くなったな」

「私の能力は変態的だぞ」

 俺は劣勢になったが、一瞬の隙をついて傷付くのも恐れずに前へ出て、肩に切り落とした。肩を切断した――はずだった。剣は止まり、子どもとは思えない筋肉の鎧だ。

「私は痛みによって、強くなるんだよ」

 シェリダンは剣の刃を握り、自分の腿に剣を突き刺した。すると、みるみるうちにシェリダンの身体が大きくなり、柔らかそうな筋肉に覆われていった。剣を抜いて、捨てて、俺に突進してきた。避けられるはずも無く、大河間近まで吹き飛ばされた。

 駄目だ。

 完全に力も回復していないのに、こんな化物に勝てるはずが無かった。だが、負けると分かっていても、村の復讐は必ずしてやる。

 ミナを取り返すのを俺は諦めつつあった。ミナは姉の子どもだから愛おしくて、吸血鬼だとしても愛してしまい育てた。だが、その姉が子どもを殺そうとしている。だから、もう和解は出来ない。彼女は俺ではなく、姉を選んだのだ。

「だが、山羊と牛の仇ぐらいは」

 俺は地面を掴んで、シェリダンが駆けて来るのを待った。足も腕の力も使った速度だ。見たことの無い速さに瞬時に対応できるほど、生物の力は優れてはいなかった。

 間合いに入った。

 俺は地面を投げるように、足で大地を吹き飛ばすように力を入れて、シェリダンの脇を通り抜けた。仇は右脇腹を穿つことではらした。

「牛の仇だ。ばーかっ!」

「良いねぇ、本当に気持ち良いよ」

 シェリダンは倒れていたが、それでも問題が無さそうだった。怪我するほどに力がついて、絶対死を迎えるまで強くなり続ける化物だった。

 ミナは立ちはだかることも無く俺たちの戦いを見ていた。アルルの戦闘を見る限りは、彼女は俺を殺すことも簡単だろう。俺は逃げの一手にでて、ミナの横を通り過ぎた。

「たすけて」

 耳を疑ったが、ミナはそれを呟いた。

 鏡男を助けに出た人狼は数人の冒険者と執行官の手によって捕まっていた。ダルシャンとヘドウィッグの闘いは、俺とシェリダンの闘いよりも激しかったようだ。シェリダンはヘドウィッグの劣勢を見て、走って駆けつけた。ダルシャンがそれまで優勢だったが、一気に劣勢に陥って、逃げるしか手がなくなってしまった。驚いたことに、ダルシャンは大河へと飛び込んだ。ダルシャンは魔族だから平気なのかも知れないが、それは不死者の執行官には効果抜群の逃走方法だった。

 ダルシャンの逃走にあわせて、俺も逃走した。

 大河では騒ぎが起きているが、大鏡は沈められて、人狼は捕縛されて捕まっている。毒女は見つかっていないようで、逃走を続けているようだ。恋人なので、再び姿を現すことになるだろう。ダルシャンは姿を消してしまい、お別れになってしまった。

 だが、また会うことになるだろう。

 ああいう男は、簡単に死ぬことは無い。

 俺はレッドのもとへ戻り、ふて寝しながら今後のことを考えた。これからどうすれば良いのか。俺にはわからなかった。とりあえず、ユーリのもとで働こう。

 俺を動かしていた復讐心はどれも馬鹿馬鹿しくなってしまった。だが、義母のミナが助けてと言った。彼女は彼女なりに苦しんでいるのだろう。でも、俺はどうしたら良いか……答えは見つからなかった。

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