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第24話 一角

 日本では手を広げたときの中指と親指の長さを『尺』、地域差はあるが、尺の六倍が『間』だ。『尺』はだいたい30.3cmだと言われている。他にも指の幅で決められている単位があるなど、身体にあった感覚が長さの単位になることが多い、おそらく昔の大工が身体を使って長さの感覚を、他の人たちと感覚を合わせるためだろう。身体から長さが導き出されるのは異世界でも同じようで、運が良い事に地球の単位と合っている規格の長さあった。俺は簡単に図面に起こそうとしたけど、製図板が無かったので何度か失敗しながら書き上げた。この小さな紙ですら直角を出すのを失敗するのだから、実施となると大きなズレが出るのは当然だった。人間は道具を機械化していったが、その精度は本当に素晴らしかった。

 ズレはズレを呼び続ける……。

 俺はミルクを追加注文して、描きあげた図面を見て満足した。基礎、それぞれの階の平面図、立面図、断面図がある。休憩しているとダルシャンが隣の椅子に座ったので、絵を描いて遊んでいたレッドが逃げ出した。

「随分と嫌われたな」

「嫌われることをするからだろ」

「可愛い女を見ると虐めたくなる」

「ロリコンか」

「ロリ?」

 赤い髪は珍しいので奇異の目で見られるけど、レッドの容姿は平均より上だった。だが、ダルシャンが次にいった言葉に、俺は衝撃を受けた。

「だけど、髪が痛んでいるな。どうにかしてやれよ」

「はうわっ!」

「どんな声を出すんだよ」

 た、確かに……俺は髪の手入れに無頓着だったので、赤髪はごわついてくしも簡単に通りそうに無かった。俺はレッドを呼んで、手漉きをしてあげた。

「いたっ」

 毛根を引っ張ってしまった。ダルシャンの使用人に手入れ方法を聞いてみたけど、どうにもこうにも上手くいかなかった。なので、俺はレッドを椅子に縛り付けて、外套を身体に巻きつけて、はさみを買ってきた。


「やだやだ! 髪は女の命なのに」

「その女の命を復活させるためだ。大人しくしなさい」

「うううっ……」

 泣いたフリをするのは止めろ。お前が泣く時は手をつけられないくらいに泣くから嘘泣きは俺には分かるんだよ。

「はい、チョキチョキ」

「いやー!」

 床にどんどん赤髪が積まれていき、どんどん少年のようになっていった。少女よりも少年に見えたほうが悪い大人にちょっかいを出されないだろう。

「はい、完成」

「うううっ……」

 やばい、これはマジ泣きしそうだ。

「おっ、可愛いじゃないか」

 ダルシャンの援護射撃が入ったが、レッドはお前が嫌いなので、もっと泣きそうになった。仕方ないので、俺がフォローをしてやろう。

「可愛いねー」

「……本当?」

「おう、世界で一番可愛いよー」

 レッドは頬を赤くして、喜んでいた。

 ……チョロイな。

 悪い男に簡単に騙されそうだ。


 俺も適当に髪を短くしてから、ユーリの所へ行き図面を見させた。材料の購入などを指示して、一応材種も確認するように言った。樹種によって腐りにくさや耐久度があるので、交渉時に深い話にならなかったら止めるように言った。

「では、俺は石垣を作ろう」

 建設予定地の裏は崖があり、上部に森が広がっていた。この前修理したろ過器の水は森を横断させて運ぶつもりのようだが、ここは土砂崩れが起きそうなので石垣で防止をしたかった。石垣というと日本の城に見られるように表面を揃えて、石を加工する必要があるように思われるが、実はそうでも無い。

 表面に見える積み石よりも、裏側に込める小さな石が重要だ。排水にも強度にも影響するので、実は見えないところが要である。だからといって表面の石が適当でも当然駄目だ。今回は石を斜めにして積む、谷積みにすることにした。

「という訳で、君は小さな石をそこら辺から持ってきなさい」

「はーい」

 レッドにも手伝わせて石垣作りは始まった。俺は石垣を積む両端に木を打って、同じ角度で斜めの木を杭に打ちつけた。この斜めの木が石垣の表面の角度だ。両方に糸を張って、表面の石垣のつらを合わせるように積めば、綺麗な石垣が作ることができる。俺はスコップで石垣の基礎となる部分を掘り起こして、木槌と小石を撒いて地盤を固めた。下準備を終えたら、レッドと一緒に使えそうな石を探しに大河へと向った。石垣の一番下の石は比較的大きな物が必要なので、俺は鬼の力を利用して、どんどん運んでいった。だが、大きな石はなかなか見つからなかったので、今度は山へ入って川原を探した。大きな石はそこで見つかって、俺は一日目で石垣の基礎を完成させた。

「てっててー」

「わーい、二人でやったとは思えない」

 レッドよ。お前は小石を持ってきただけだよ。

 ほとんど俺だよ。

 誰か褒めてくれー。

「……君は力持ちって次元じゃないな」

 俺は一応人目につくのを避けながら仕事をしていたが、やはり依頼人には作業は見られてしまうので、薄々正体を勘付かれているような気がした。

「給料をはずんでください」

「お金ください」

「うん、分かっているよ」

 ユーリは工事現場の給料の倍近くをくれた。と思ったけど、レッドを含めての値段なので、相場は同じようだ。

「あと、頼みたいことがあるんですが」

「なんだい、プレスター君」

「奥さんのお乳をください」

「ください」

 ユーリは眼が点になっていたが、一人で納得したようだ。

「知り合いに赤ん坊でもいるのかい?」

 いいえ、目の前の俺が飲みます。

 後で、俺が美味しくいただきます。

「水筒に入れてあげるから待っていてくれ」


 俺は帰りながら、母乳を飲んでいた。

「薄口の母乳だな」

 あまり良い物を食べていないのだろうか。

 良い給料を貰ったのに気が引けてきた。

「回復した?」

「変身能力がどうも上手くいかないんだよな」

 夕陽に追われるように、我が家へ帰っていくと、洞穴を囲っていた熊の糞つきの結界が千切れていた。恐ろしい力で切ったようである。俺が急いで戻ると、洞穴の前に山賊の頭――アルルと馬がいた。アルルは仰向けで倒れており、馬が心配そうに鼻面を擦りつけている。

「助けてくれ」

 野太い男の声だと思ったら、馬が喋っていた。

「アルルが死んでしまう」

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