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第23話 怨念

 しばらくの間、レッドに登校拒否をされた。銅の指環で機嫌を直していたけど、俺に置いて行かれるという恐怖感が拭えないのか、俺と離れないで一緒に仕事探しをした。そして、なかなか良い仕事は見つからず、無為な日々が過ぎ去った。

 あまりに暇だったので洞穴の中を改造した。水が中に入ってこないように、洞窟の前に溝を掘って別の場所に流れるように水道を作った。生活する場所を清掃して、虫が入ってこないように、虫除けの香草を焚いて燻した。虫の屍骸がいっぱい出てきたので、それも外へ出した。

「暇だよー」

 俺が裁縫仕事しているのに、レッドが抱きついてきたので、俺はリアルお馬さんゴッコをした。山を駆け巡って、木の上を飛び交って、二人とも飽きたので昼間から眠っていた。

「ご飯食べに行く?」

「うん」

 俺はダルシャンが言っていた卵サンドを思い出して、賭け事をしていた店に行くと、残念なことにダルシャンがいた。かたわらには賭けにされていた女の人が使用人の服装で立っている。

「おう、おはよう」

「どーも」

「元気が無いな」

 レッドも声は小さかったが、挨拶をした。嫌いな相手でも挨拶をされたら、挨拶を返す。偉いぞー、レッド。大人になるにつれて、そういうことが増えていくから今のうちに練習をしとこうね。それが、社会人ってものだよ。

 俺たちが隣の席に座ると、こっちの席に移ってきた。これは俺も嫌だった。頭のおかしい人には近づきたくないのは、正常な思考回路だろう。

「避けるなよ」

「避けてんだよ。子どもをびびらすな」

 レッドが俺の背中に隠れてしまった。

「なら、俺は死ぬしかないな」

「死んでくさい」

「ひでーな。プレスターは」

 ダルシャンは笑いながら、サンドウィッチを食べ、レタスの新鮮な音をたてた。俺はいつも通りの乳製品のフルコースを頼み、レッドは卵サンドとベーコンを頼んで、サンドにベーコンを挟み直して食べた。

「美味しい」

「ここ美味いよなぁ。旅の途中の宿では、人間をばらして出しているところもあって最悪だったけど、ここの豚は最高だ。知っているか、人間と豚って似ているんだぞ」

 レッドの口からベーコンがにょろっと出てきたので、指で挟んで止めた。指を口に突っ込んで無理に食わせて、俺はチーズとヨーグルトを食べた。


 レッドは朝食を終えて、店の中のピアノでデタラメな音楽を鳴らしていた。音楽家が聞いたら、耳を塞いで蹴り飛ばされるような騒音だった。

「この前、ある人を殺しに来たって言っていたけど、誰なんだ?」

 暇なので質問をしてみた。

「ああ、教団の男で、ヘドウィッグという男だ」

「教団か……俺もそいつらに用があるんだ」

「そうか、お互い色々あるな」

 レッドが店の中のピアノで遊んでいて良かった。ダルシャンの眼術は危険なのでレッドがいたら見抜かれていただろう。俺は真実を語って真実を覆い隠した。おかげで、ダルシャンは何の疑いも持たなかったようだ。教団の関係者とはいえ、ヘドウィッグはレッドの世話をしてもらい、他のことも色々と教えてくれた。恩人を売るほど、俺は悪人ではなかった。

「その男は、俺の愛した女を殺した。その形見がこれだ」

 ダルシャンは右目を指差した。両目の瞳の色がほんの少しだけ違う。

「女の眼から抉り出して、俺はこの眼術を得た。そして、必ず復讐をする」

「復讐か……」

「ここには、もうそろそろ教団が来るという噂がある。聞くところによると、どこかの街か村で冒険者ギルドを焼き討ちにした男を連行してきているそうだ。その教団の連中にヘドウィッグがいれば、俺の冒険はここで終わりだ。わざわざ首都へ行かなくても良いんだよ」

 ヘドウィッグと別れたときに、彼が向かったのは俺たちとは反対方向だった。ダルシャンの狙いは、どうやら当たっていそうだ。


「人生色々だな」

「どうしたの、急に」

「いや……」

 俺はレッドと手を繋いで、タンクの修理を手伝ったユーリの所へ向った。相変わらず家は手もつけておらず、掘っ立て小屋があるばかりだった。掘っ立て小屋の隣には小さな畑があり、小さな子どもを背負う身ごもった女の人が雑草を抜いている。おそらくユーリの奥さんだろう。苦労しているようで、遠目から見ても疲労している。

 レッドが奥さんの所まで走って行き、雑草抜きを手伝ってあげた。俺も手伝おうとすると、工具を山ほど担いだユーリが歩いてきた。その隣には、若い女がいる。

 畑で働いているのは、奥さんじゃなかったのか?

「兄さんは何も分かっていない! 私の事なんて何も分かってくれないのね!」

「おい、アルル」

 アルルと呼ばれた女の人が、俺の横を走って行ったが、俺と眼が合った。胸を見たら合点がついた――この前の山賊の親分だった。アルルの走る速度が上がり、そのまま走り去ってしまった。

 男たるもの一度揉んだ乳は、一目で判別がつくのである。

「あっ、君は」

「あの女の人、どうしたんですか」

 俺はユーリに近づいていくと、頬を叩かれたらしく赤く腫らしていた。

「僕の妹だよ。色々あってね」

 ユーリは口噤んでしまった。


「……雇ってくれだって」

 俺はユーリの家造りの手伝いをしたかった。ここら辺では珍しい善人の顔をしているし、俺が放っておいたらいつまで経っても建物ができそうに無かったからだ。

「建てられるのかい?」

「手伝いくらいならね。ただ、図面は見ておきたいけど」

 俺がユーリから見せられた図面は衝撃の物だった。図面ではない、絵だ。しかも結構大きな家で、三階建ての旅館のように見える。

「……図面は?」

「これだよ」

 ユーリはニコニコと笑っている。

「先が思いやられる」

「だろー、大変そうだろ」

 大変なのは、お前の頭だ!

「材料の規格品があるか調べて、まずは全長を決めるか」

「おっ?」

「建物に強度出すために木杭も打たなければいけないかも、三階建てだから念には念を入れよう。まあ、過ぎた能力になるかも知れないけど」

「ほうほう」

「それに、建物の後ろが崖で土砂崩れがありそうだから石垣が必要かもね」

「……そんな人件費は無いよ」

 何をおっしゃいますか。

 俺は吸血鬼ですよ。

 人の十倍は仕事をするよ。

「まあまあ、やれるところは手伝いますよ。ただ、給料ははずんでね」

 俺はユーリにお願いした。

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