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第22話 水脈

 日本では長谷川平蔵が人足寄場というのをつくり、軽犯罪者などの自立支援施設をつくったけど、この世界にもそういう組織があればいいのに、あれば真っ先に向って職業訓練をしたかったよ。などと思っていたけど、よくよく考えてみれば、俺は建築と土木は結構得意だった。吸血鬼になってから戦争を何度もしているので、橋のないところに橋を作ったり、急ごしらえで城を建てたこともあるので素人ではなかった。

 ……だから作業員として働こうとしたんだった。

 そこをクビにされたから困ってんだよ。

 心の中でツッコミをいれても仕方の無いことだった。

 冒険者ギルドの件も、山賊の件もあるから、ここを離れると言う手もあるけど、学校で楽しそうに遊んでいるレッドを見たら、その考えは捨てたかった。俺に好意を抱いてくれているけど、子どもは子どもと遊ぶのが一番安らぐ、その笑顔を奪うのはしたくなかった。

 でも、何ができる?

 冒険者ギルドで働くのはさすがにしたくは無い、焼き討ちをした当人が働きに出かければ手打ちしているけど何かしてくるのは明白だ。その他にできることは無いだろうか。魚を獲ったり、猟ぐらいはできるけど、もっと形に残ったり、人の笑顔が見られる仕事がしたい、どうせやるならやりがいがあって満足感があるものの方が良い、望みは高いがやれる仕事は無かった。


 本当にいたるところを歩いたようだ。同じところを何度か歩いて、俺は何度も目についた人に話しかけたくなった。山肌を歩き回り、何かをしていた。暇つぶしにいいかも知れないので、近づいてみると、木製のタンクを修理していた。タンクは段々で五個設置されていて、上から順に水を濾過するように作られているが、藻が溢れているし、タンクが古くなっているので、最下段のタンクからの水が濾過されきっていなかった。あまりにも汚い水だ。

 現代では考えられないことだけど、清浄な水の確保は本当に難しい。そのため中世の時代は水を飲むより酒を飲んで水分補給する人が多かった。

「譲り受けたは良いが、上手くいかなくてね」

「ほうほう」

 若い男の人は流れる水に手を突っ込みながら修理していた。

 俺は一番上のタンクに水を入れている竹管の向きを変えて、水が入らないようにした。水があるから作業しづらそうだったからだ。

「手伝うよ」

「本当かい?」

 木のタンクにはそれぞれ泥抜きがついていたので栓を抜いて、余分な水を抜いた。栓は濡れて穴にはまっていたので抜きづらかったが何とか取れた。

「藻とゴミを取ってください」

 若い男はタンクの中に積んである小石の上に乗りながら、ゴミを取っていった。最後のタンク以外は小石が中に積まれているので、同じように藻を取っていった。最後のタンクには砂が詰まっており、底から濾過された水が流れるようになっている。

 俺たちは手分けして、竹管を新しくしたり、樹脂で補修したりした。夕陽が出る頃には、濾過された水が出始めた。この方法なら砂ろ過だけではなく、微生物による浄化も可能なので、綺麗な水を確保することができるだろう。

「いやぁ、君のお陰ではかどったよ」

「いえいえ、仕事をクビになって暇だったので」

 俺はレッドを早く迎えに行かなければ、と思いながらも、若い男――ユーリとの会話を続けていた。一緒にユーリの家に戻ると、そこには掘っ立て小屋と広い土地があった。大河を見下ろせる場所にあり、工事の連中が作っている家からはだいぶ離れた場所にあった。

「家ですか?」

「実は建てている途中でして」

 そこには掘っ立て小屋しかなかったけど、完成はしていた。

「ここに建てるんですよ」

 ユーリが指したところには何も無かった。

「実は建設業者に逃げられて」

 ユーリは新しく橋が作られるのを知って、住んでいた街から全財産を持ってここまで来たそうだ。事前に建設業者と話し合ったそうだが、橋の作業に人をとられてしまい、なんだかんだで契約は破棄になった。

「腹が立ったので、自分で建ててやろうって」

 ユーリは笑っていたが、タンクも直せないようだと、見通しは暗かった。

「ここに宿を作れば、かならず儲かるんですがね」

 ユーリは遠い眼をしていたが、俺は日が暮れてしまったので急いで走った。


 着いた途端に、レッドが号泣していているのが、遠くからでも聞こえた。

「うわああああああん!」

 遠目からでも先生たちがレッドの背中を撫でて慰めていた。夕方に迎えに来るって言ったから、いつまで経っても来ないので捨てられたと思ったようだ。

 何事も無く迎えにいくと、大泣きしたまま抱きつかれたのでオンブをして帰途についた。詳しくは聞いていないが、レッドはおそらく良い環境では育っていない。名前が赤毛を連想させるので、実の親に名付けられたとは思えなかった。だから、再び捨てられると思って、涙と涎と鼻水まみれにして泣いていた。

「悪かったよ。ごめんね」

「うええええん!」

「ああー、泣くなー」

「びええええん!」

 鼻炎……くすっ。

 はっ、いかんいかん!

「悪かったからー」

「ひっぐっ、ひっく」

 俺はどうにかなだめようとして、色々話しかけてやっと落ち着いたようだ。

 グスグス鼻をすすって、過呼吸気味になっていたが、泣き止んだ。

「ごめんな」

「……うん」

「何か買って帰るか?」

 どこかで甘いものでも買って気を紛らわそうと思ったが、

「あれが欲しい」

 俺の真横を指差したので、先を追うと露天商がいた。

 レッドは迷っていたようだが、革紐に銅の指輪がついた物を二個買って、一つは自分の首に、もう一つを俺の首にかけた。

「お揃いだね」

「こんな物を」

 ガラクタなのに、けっこう高かったぞ。

「良いでしょ。遅かったのが悪いの」

 レッドは機嫌を直して、先を急ぐように俺の前を歩いていた。

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