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第185話 デュランダル

ズゴッ、バゴッ、スガガンッ――サッチャーに力と体重を込めた打撃を与えた。何度も与えて紙飛行機のように吹き飛ばしたが、いつまで経っても死ななかった。バウドリーノも戦い方を思い出したのか、何度も触れようとしてくる。バウドリーノの能力は老化だろう。眼球を触れられて軽度の老眼になってしまったお陰で、繊細な打撃を与えることができなかった。シャラシャンカは一定の距離を保ちながら逃げていく、どこへ行くかわからないが追いかけるしかなかった。この状況で俺の弱点はシャラシャンカを狙うしかない――というところだろう。追いつけない限り殺せない、殺せない限り俺の弱点は変わらなかった。

 いつの間にか城の中に入っていた。人気ひとけは無い、誰も彼も殺されて城の中は巨大な墓地と化していた。バウドリーノとサッチャーの攻撃が止んだ。シャラシャンカが後ろを向き、さらに逃げ足を早くした。扉をくぐった。続けて扉に入ると、長い食卓と暖炉が置かれた部屋だった。シャラシャンカが向こうの扉をくぐって、外側で何かを動かした。後ろと前方の扉の前に鉄格子が降ろされた。轟音――天井に吊り下がっていたシャンデリアが揺れながらゆっくりと降りてきた。天井に小さな穴が開き、背伸びをするように無数の棘が伸びてきた。

「罠部屋か」

 食卓を持ち上げて、床に立てかけて天井を押さえてみた。勢いが遅くなったが長くは持たないだろう。抜刀――頭上の棘を切りつけて破壊した。食卓が崩壊すると、勢いを増して降りてきた。天井が頭上まで降りてきた。棘を壊したところで天井を支えた。

 重い――だが潰されはしなかった。

 さて、どうするか……。

 片手で天井を支え、もう片方の手で天井を殴りつけた。天井は欠け、穿たれたが、穴を覗き込んでみたが、歯車や金属の集まりで大きな機械が収納されているような部屋だった。天井を動かすための部屋のようだ。わざわざ此処を通り抜ける必要も感じられなかったので、棘を折り曲げながら前方へと進んだ。苦労して扉まで辿りつくと、鉄格子を広げて、扉を蹴って脱出した。

 脱出した瞬間、当然襲撃された。

「てめえの名前が気にいらねぇんだよ!」

 バウドリーノの顔面を横から殴った。殴る直前に指を伸ばして貫手――頬を貫き、反対側の頬も貫いた。そのまま下げて、顎を引きちぎった。

「老いぼれが――てめえの動きが一番遅いぞ」

「俺の男に手を出さないで貰えるか」

 サッチャーの動きがどんどん鋭くなっていた。地を這う体当たりは死角から入ってきて、俺は仰向けに倒されてしまった。だが彼我の間に僅かな空間があったので蹴って後方へ転がることができた。

「押し倒すんじゃねぇよ。衆道は好き者同士でやりな」

「そっちへ行ったな」

 サッチャーが笑うと、まっすぐ手を伸ばした。俺が転がった先は先ほどの罠部屋だ。立ち上がろうとすると、折り曲げたはずの棘が動き始めた。VHSを巻き戻しするように粗いながら確実に戻ろうとしていた。そして俺が穿ったはずの天井の穴も戻り、天井も上がろうとしていた。棘がまっすぐに戻る前に押し返そうとしたが抵抗できない力で押し返された。後ろに転がり最初に天井の棘を壊した場所まで戻った。

「直す能力かと思ったが巻き戻す能力か」

 バウドリーノの顎も戻っていた。

「厄介じゃあないか。恐ろしくて帰りたくなるぜ」

 俺は天井を見上げて、天井が下がってくるのを待った。巻き戻しが終わるのを待っていた。止まった。この棘の中では相手が侵入することは不可能だ。ならば上から抜ける。

 上を向いて天井を殴りつけていると、心臓辺りに何かが飛んで来た。木片だった。俺は倒れるように回避した。飛び去ったほうを見ると、後方にあった扉に木片が飛び込んでいった。サッチャーが事前に扉を壊しておいて、巻き戻しで扉の破片を回収させたのだろう。さきほどの棘の抵抗力を考えると、避けれて幸いだった。

「その攻撃の仕方はマンガで読んだことあるぜ」

「マンガ?」

 俺は返事を気にせず、穿った天井から大雑把な機械室へと入った。古い時計塔の内部を思わせる大部屋を慎重に歩き、外へと出る部屋を探した。扉から外へ出ると、廊下に出たが今度は誰もいなかった。シャラシャンカがどこへ逃げたか分からなかったので、匂いをかぎ、音をするほうを確認した。下の階で二つの物音がした。一つは騒がしいのでサッチャーとバウドリーノだろう。もう一つは物音を殆どさせず金属を鳴らしていた。

 金属を鳴らしているのがシャラシャンカだろう。

 絨毯に物音を吸収させながら疾走、階段を下りて、サッチャーとバウドリーノに追いつかれる前に、シャラシャンカのいる部屋の前まで来た。

 宝物庫――重厚な扉の鍵が外されていた。

「お邪魔しまーす」

「どうぞ」

 シャラシャンカは手に剣を持ち、鏡に向かっていた。鏡に額を付けて、自分の瞳を覗き、覗き、覗き、自らの暗示をかけるようにしていた。

「俺の能力は祝福というのだが、この力は対象の物体の底力を出す。生物に対しては殆どしたことが無いが、サッチャーとバウドリーノにはした。やつらが望んだからだ」

 何長い話をしようとしているんだ?

 俺は忍び足で静かに近づいた。

「それは今まで禁忌だと思っていた。だがお前がそれを許さなかった。だから俺も俺自身に祝福を与えることにした」

 シャラシャンカはこちらを振り向くと、全身が引き締まっており、表情が若返っていた。

「どうだ? これでそう簡単には殺せないだろ」

「それでもこの剣はお前らの血脈を吸いたがっているぞ」

「それが俺の息子を殺したのか……親が子供の仇を取るのか、あいつは親不孝者だな」

 シャラシャンカの手に持っていたのはデュランダルだった。トロイアの英雄ヘクトールが所有していた剣だが、死んだパトロクロスのために奮起したアキレウスに殺されてしまった。その後ローランの歌で出てきたが、しばらくは本物が何処へ消えたかわからなかった。いつの間にやら異世界へと流れていたようだ。

「それは敗者の剣だぞ。デュランダルと言う」

「ほう、これはそんな由来なのか。だがこの剣の中で最上だ。さらに祝福もしている。さて、どんな力を秘めているものか」

 後ろにサッチャーとバウドリーノの気配がある。

「これで負けたら俺も本望だよ」

 言葉とは裏腹に静かな自身に漲っていた。

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