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第184話 どさんぴん

「さて実際はどれ程の実力かな?」

 シャラシャンカが俺を睨み、動きを見ていた。

 相手の動きを把握することは戦う上で肝要だ。

 撤退すると言いながら、実力を瀬踏みしようとしていた。

 俺の瀬踏みでは――シャラシャンカの力量は仮面の男よりは強くは無い。仮面の男の体捌き、筋肉量、洗練された武術は眼を見張るものがあった。さらに雷を自由自在に操る槍があった。シャラシャンカは周囲を見渡して、得物となるものを探していた。しばらく迷ってから抜いた剣は、鋭さがなく叩きつけることしか出来そうに無かった。

 風が砂を巻き上げ、疾風が彼我の間を通り抜けた。

 眼球に砂が飛び込んできた――転瞬、シャラシャンカが一瞬の間に目の前まで飛び込んできた。なまくらが肋めがけて横殴りされた。

 剣で守ったが、勢いで二歩程飛ばされた。

「シャラシャンカ様……」

 着地する前に、三段突きされた。体捌きで突きを避けると、それ以上は追撃してこなかった。シャラシャンカは溜息をして、首を傾げた。一連の攻撃に納得できなかったのだろうか、数歩後退して突きと斬撃を素振りした。

「驚いたな。キングが初手で動くとは」

 シャラシャンカの素振りは先ほどの一連の攻撃よりも鋭さを増していた。

「喧嘩をする時は、常に最善を尽くすものだ」シャラシャンカはバウドリーノとサッチャーを振り返った。「老いぼれども。若返って俺たちの戦い方を忘れたか? 俺たちは一人は皆のために、皆は一人のために戦うのだ。さあ、ボケッとしてないで殺し合いをするぞ」

 サッチャーが呼応するように突撃してきた。大柄な肉体を持て余すように力強く突撃してきた。

 拳が飛んで来た。

 剣を打ち下ろす――人差し指と中指の間に剣がめり込んだ。肉に入り込み、動きが止まった。剣がめり込んだまま腕ごと下ろされて、もう片方の拳が飛んで来た。

 サッチャーの手首を拳で弾いた。

 俺はもう片方の手を握り締め、サッチャーの顎へ向けて手の甲を振り上げた。

 柔らかな物質が崩壊するような感触があった。

 サッチャーは二軒隣の軒天に頭から飛び込んだ。

「雑魚が」

バウドリーノが一息遅く飛び込んできた。仮面の男と一緒にいたシャラシャンカ隊の連中と比べて連携の質が悪かった。バウドリーノは何かをしようと俺に手を伸ばしてきた。すかさず後退して両手を空転させて、鳩尾を蹴り上げた。呻き声をあげた。叩き斬ろうとすると、シャラシャンカが剣を弾いてきた。

「誰が守られているか分からんな」

「あいつの言うとおりだぞ。二人ともシャキッとしろ」

 サッチャーが暴れて軒天から脱出した。

「ふざけやがって糞が」

「あら? 死ななかったか」

 サッチャーの肉体はボディビルダーのように無駄な筋肉が付き過ぎているように思えた。無駄――この筋肉では贅肉と同じだ。サッチャーが顎を摩ると、そこには殴られた痕のない綺麗な顎だった。俺の拳は確実に顎を粉砕したはずだ。サッチャーという男には回復能力があるようだ。厄介だが、能力を把握できたので良しとしよう。

「怒るか、興奮するかどちらかにしろ」

 サッチャーの皮の中は情欲で漲っていた。かすかに漏れる体液の香りが吸血鬼の鼻で感知できた。戦いの高揚感を性欲に転換する手合いのようだ。

 それか俺を犯したいのだろう。

 サッチャーとバウドリーノから同じ体液の臭いがした。

「あの男は貴様の尻穴が好きなようだな」

 バウドリーノの眉間に皺が寄った。本当のことでも他人から指摘されると怒る者がいる。この男は性癖を暴露されると怒るようだ。

「ほう、随分と鼻が効くようだな」シャラシャンカは部下の二人を睨みつけた。「安い挑発だ。いちいち怒るな。怒りは隙を生む。俺もお前らの男色に巻き込まれて死にたくないんだよ」

 シャラシャンカが宥めると、瞬時に空気が変わった。

 3対1のにらみ合いが続いた後に……。

「勝つ方法を思いついた」シャラシャンカが言った。「撤退するぞ。ここの戦場で俺たちの得るものは何も無い」

 シャラシャンカは背を向けて、両腕を振りながら走り出した。

「逃げるぞー!」

「待ってください。シャラシャンカ様!」

「俺は走るのが苦手なんですが」

 三人が一斉に背を向けて走り出したので――。

「待ちなさーい。シャラシャンカさまー」

 ぶち殺す――俺も両腕を振って走った。

 最初にサッチャーに追いついた。大柄な男は贅肉と化した筋肉の重さでそれほどの速さを維持できないようだ。超回復の能力はあるが、俺と同種の吸血鬼男とも戦ったのでさほど脅威となる能力ではない、一撃必殺で確実に勝利できる。

 サッチャーは反転して、転倒するように前のめりに突撃してきた。地面と水平になるような鋭い体当たりだ。両足を抱きつかれたが、後頭部に体重をかけて無効化した。首に腕を絡めて、持ち上げた、地面に頭から叩きつけて、数歩下がって、走りながら蹴り抜けた。

 バウドリーノが眼球に向けて指を突いてきた。

 激痛――そして視界がおかしくなった。

 近視/遠視――どちらか分からないが視力が衰えたようだ。

 だがだいたいの位置は分かる。

 飛びながら回し蹴りするとバウドリーノが吹っ飛んだのが分かった。

 二人とも撃退したが、シャラシャンカには逃げられてしまった。

 視力の弱くなった眼を擦りながら、俺はシャラシャンカを追いかけた。

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