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第17話 測量

「俺だったら、排水路はそのまま都市の下水道として使うから。一定の間隔を空けて作る必要がある。作るとしたら道の下だから、後々のことを考えて強固にするべきだ。建物を立てる場所は盛り土をするから地盤が安定しないから、岩盤まで木杭を打つ必要がある。後々の都市計画に支障をきたさないように、距離の単位は統一して一定間隔で排水路を作ろう。ゴブリンたちには距離のこだわりは何かあるか」

「い、いいえ、ありませんが」

「だとしたら、人間の単位に合わせたほうが良い。この半島の材料で用は足りるかも知れないが、材料がなければ人間と交易を行う必要に迫られる。そのときに、単位が同一ならば支障はきたさないし、人間の職人から技術を教えてもらう時にも支障をきたさない」

「な、なるほど」

「ただ、単位というのは身体感覚から作られる……ジノはゴブリンのみの国家が作りたいのか?」

「いいえ、魔物の国を作りたいと考えています」

「だったら、体の大小の差はできるな……やはり人間の単位を採用しよう。どちらにしろ、身体感覚にあった長さの単位では無くなるからな」

 そこまで喋って俺は口篭った。

 他人の計画にここまで口を出していいのだろうか。

「どうしましたか?」

「偉そうに話しすぎた」

「いいえ、とても参考になります……年齢に見合わない知識ですね」

「俺は吸血鬼だからな。実際には何百年も生きている」

「そう言う事でしたか……実は分からないことがあって、高低差を調べるのにはどうしたらいいのかと」


 俺は話すのにじれったくなって、レッドとジノと一緒に外へ出て地面に絵を描いた。

「幅広の角材の表面に長い溝を作る。この溝の深さを統一して水を張る。この溝が統一されているから、天端からの距離が一定に地面に設置すれば水平が取れる。これを水平に保ったまま地面に固定して、木の端から見るんだ。知りたい場所に木の棒でも立てて見て、逆から見て、反対側に棒を立てて見れば、その高低差が分かる」

 ジノは一気に言われて頭を傾げていた。

「見る棒に距離が書いてあれば。此処と其処の高低差も正確に分かる。これを利用して、排水路を作れば、高低差で自然と排水ができる。それだけではなく当然色々なものに使えるけどね」

「なる……ほど」

 これは分かっていないな。

「今の道具はコーロバテースと呼ばれている。探せばこの国でも同じようなものが見つかるはずだ」

 現代で言うところの『レベル』だ。この道具の素晴らしいところは現代の技術と大差なく高さ関係がはかれたことだ。古代ローマの水道橋の勾配は1/1000のところもあったがコーロバテースによる成果だ。これは一mの長さに一㎜高低差という厳しいもので、それが数十kmにも及ぶ、現代の技術においても再現するのが難しいであろう。


「基本的には都市は碁盤目だ。そうすれば、通りにも建物にも秩序ができる。だから、コーロバテースだけではなく、直線と直角を計るグローマという物が必要になる。これは垂直の棒に直交する水平な棒から構成されていて、先に四つの下げ振りがある道具だ。下げ振りと下げ振りが重なるように見れば直線を作れて、その直線に直行させたいなら、右か左側から見据えれば直角の線ができる」

 俺はグローマの絵も地面に書いた。

 この測量道具は現代で言うところの『トランシット』だ。歪んでしまうと美しくないし、建物や道路を形成する上で不整合なところが出て来てしまう。直角と高低差は眼勘では判別がつかないので、道具に頼らないといけなかった。


「……」

「こんな感じかな。少なくとも都市を作るなら単位の統一と測量ぐらいは出来ないと話にならないぞ」

 地球で色々していたことが役に立ったようだ。

「……あの」

「俺の名前はプレスター・ヴォルデンブルグだ」

「プレスター様……我が国に来ませんか?」

「……断る」

「そうですか」

 俺が即答したのは理由があった。

 俺は吸血鬼の貴族として領主経営をしたことがあるが、見事に失敗に終わっていた。不幸にも流行り病の結果だが、その苦さは未だに忘れならない。

「いや、勉強になりました。是非とも、我が国が出来た暁にはご招待をいたします」

「それは光栄です」


 ゴブリンのジノと別れて、俺たちは宿から旅立った。警察が来て、宿の主たちを捕まえたのはいうまでも無い話だった。

「ゴブリンさん、可哀想」

「これ以上首を突っ込んでもね」

「海の向こうに行ってみたいなー」

「勝手に行け」

「酷い!」

 レッドが後ろから首に抱きついてきた。

「俺は教団に仕返しを終えていないんだよ」

 ミナの生存も分からない、そしてこの世界の母親にも会わなければいけなかった。

「えー! 教団に仕返しするの」

「そうだよ」

 レッドは訳も分からずついてきているので、目的を知って意外だったのだろう。俺が首都へ向かうのはわかっていたけど、教団に仕返しをするのは初めて知った。

「止めようよ」

「止めない」

「死んじゃうよ」

「吸血鬼だから、死にません」

 語弊があるが、不死だ。

 死んでも俺の魂は何度でも転生する。

「俺の育ての親と話をしなければいけないんだよ」

「親……じゃあ、未来の両親に挨拶をしなきゃ……」

「なんで、俺がお前と結婚することになってんだよ」

「なんで?」

「なんで?」

「当たり前じゃん」

「どうして?」

「違うの?」

「違うでしょ」

「……嘘」

「……今までの会話でそんなこと言ったか?」

「チューされたよ」

 最初に助けた時の話かよ。

「責任を取って、お嫁さんにしてください」

「はあ? 唇如きで」

「されど唇」

「あー、うるさっ!」

「うえええん。弄ばれたー」

「誤解をまねく言い方を、お前な、良く聞けよ」

 目の前の少女に冷徹な事実を告げよう。

 俺はレッドと向かい合った。

「俺は何百年と生きるんだ。だが、お前の寿命は長くても百年だ。そんな俺と生きるのは、とても辛いことだぞ。お前がおばあちゃんになった時に、俺は若いままだ。そんなことに耐えられるのか?」

「……」

 あれ?

 涙ぐんでいる……。

 しかも、言葉にしない。

 しばらくの間、レッドはグスグス泣いていた。

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