第13話 鏡男
俺の両足は田圃に捨ててきたので、ガランドウの両足を形成していた。足を冒険者の剣が通過して、カウンターに刺さった。俺は足がなくなってしまったので、重力に任せるがままに剣の持ち主の髪を掴んで引っ張り、糸が千切れる音が響いた。ブツブツと音が鳴り、毛根も抜いてしまった。
「足が無くなっちゃったよー」
俺は男の眼球を舐め上げて、舌先で押してあげた。
「うっ……」
俺は剣の持ち主の首に腕を絡めて、隣の男の頭に衝突させて、剣を奪い、飛び上がって、一回り小さな身体に作り直し、冒険者たちの肩の上に乗った。
「動くな」
一人動いたので、耳を剣で飛ばした。
「いっ」
「動くなと言っただろ。耳があるのか? ああ、飛ばしたから無いか」
肩の上を練り歩き、男たちが動きを止めるのを見て、俺はカウンターの女を見た。
「まだか?」
「は、はい」
女は腰を抜かしていて漏らしているが、建物の奥へと消えていった。責任者を呼びに言ったのだろう。良い心がけだ。筋は通す。筋を通さなければ、人はついてこないからだ。
「おいおい、ボーヤ。大人をからかうもんじゃないよ」
一人で酒を飲んでいる男が話しかけてきた。
「そこまでされたら、誰も何もしないさ」
グラスを器用に掌で回しながら、芳醇な酒の香りを嗅いでいた。男は話しかけながらも、俺の視線を釘付けにしようとしていた。何か狙いがあるようだ。俺の足元の男が動いたので、爪先で鼻を蹴り、直立不動にさせた。グラスを持つ手に何かを隠し持っている。琥珀色の液体の後ろ側にあるのでよく見えないが――俺は男たちの間に崩れるようにそれから逃げた。床に落ちた瞬間に、それが襲ってきた。
光だ。
男の手元には鏡があるのだろう。正統な吸血鬼になら通用するが、俺には通用しない。
だがオカシイ、外は闇だ。太陽光をはね返して俺にあてようとしている訳ではなかった。
その鏡から光が発射されているように見える。
「ぎやぁっ!」
光の欠片に当たった冒険者たちの1人が悲鳴をあげた。人間ですら有効な光を操る魔法だろうか。俺は一人の男の腹をつかんで、盾にしながら突進した。突進する先も見えないが、相手は慌てているだろう。男が座っていた椅子を、盾で壊すと男がそこにいないのに気付いた。後ろに回られていた。
「俺が三番目だった……前の二人は倒したか?」
男の手元にあったのは手鏡だった。男がそれにグラスを映した。すると、それの中身は消えた。次の瞬間に、両目に熱さを覚えた。思わず眼を閉じてしまったが、それの正体は分かった、酒だ。男が椅子で殴りかかってきたが、俺は飛び退き避けた。椅子を振った勢いでグラスは床で割れて、次の瞬間消えた。
確認できなかったが、手鏡にグラスを映したようだ。
つまり――この男はグラスに映った物を取り込み、手鏡を使って物を飛ばすことができる。ならば、映らなければ言いだけの話だ。
俺は退き、違和感に気付いた。後ろに大きな姿見の鏡があった。
肌があわ立ち、この鏡は危険だと――俺の戦闘感覚が告げた。
「俺は鏡の中に、物を取り込むことができる。生物、無機物関係なくな。だが、大きいものを取り込むときには、大きな鏡が必要でね」
まずい――。
男の手鏡が、姿見の鏡に映った。
「なに……」
俺は血の霧になり、体を分離させて、姿見の鏡から逃れた。身体の半分は持っていかれたが、上半身と翼があれば十分だった。
「それで終わりか」
「しまった……」
俺は男の手鏡を割って、男の身体を姿見まで吹き飛ばした。
「うぐっ……」
姿見から吸込まれた俺がでてきて、男を挟んだ。
「さあ、死ぬがいい」
俺は血の霧で男を包み込み、肉で包み込んで、捻り潰した。筋肉は剥がれて、骨が粉々に砕け、男は泡を吐きながら倒れた。それを見ていた冒険者たちは汗を流すだけで、俺は受付の女が戻ってくるまで暇だったので、バーのカウンターに入って牛乳を見つけて飲んだ。喉越しスッキリで美味しかった。
鏡の男は瀕死だったが、トドメをさすことはしなかった。かなり惜しい男だ。何回か戦えば負けることもあるかもしれない、そう思えるほどの特異な技の使い手だ。
「遅いな」
受付嬢が戻ってくるのが遅すぎる。俺はカウンターの裏へ行こうとすると、冒険者たちは叫び声をあげて、外へ逃げようとしていた。どうやら窓から外を見たようだ。俺も同じように確認すると、闇にまぎれて男たちが集まっていた。
「射て」
窓の下に隠れると、窓ガラスを破った矢が殺到した。
「ははははっ……久し振りに楽しいな」
受付嬢は外に出て、味方を連れて戻ってきたようだ。
一杯食わされたな。
俺はバーのカウンターまで這って逃げて、蒸留酒の瓶にタオルをつめて、次々と火炎瓶を作った。十個作り上げて、着火装置で火をつけて、建物を囲い込む男たちへ投げた。何人か焼けたが、それでは焼け石に水のようだ。中にいた連中は手鏡の男も連れて逃げたので、俺以外誰もいなくなった。机を盾にしながら火炎瓶で応戦していたが、別の作戦を取ることにした。俺は事務用の資料を火炎瓶で燃やして、バーのカウンターの酒も散乱させてから、流しの下にある配管を壊した。腐臭が漂うが、俺は血の霧となって配管を通り抜けた。排水溝に出て、男たちの足元を通って、近くの川まで逃げ込んだ。川で体を洗ってから、街の方を振り向くと、騒ぎ声が響いていた。
俺は鳥の巣を見つけて、卵を盗んだ。
「食え。生卵だ」
レッドの口を開かせて、卵を二つ割って食べさせた。
「ヌルヌルして気持ち悪い」
「もうすぐ大人なんだから、我慢しなさい」
「どういう意味」
「大人になれば分かります」
「ふーん」
冒険者ギルドは各町と連携して仕事を行っているので、ここを壊したとしても仕返しは終わっていない。それに、もう一人の刺客がいるようなので、そいつに聞くのもありかもしれなかった。
俺は山の上で、火事を見物しながら眠った。




