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第123話 修行

 微粒機械ナノマシンにより死者の肉体を蘇らせ、純潔王の器は復活した。器に満ちるのは東方王だ。その真実を知る者たちは限られていた。フィオナの血に焦がれていた者たちは喜んでいたが、俺――東方王の武力に屈した者たちは反感を抱き、新天地を求めてきた者たちは戸惑った。一つ一つを確実に対処していき、問題を少なくするのが急務だった。

 俺は地図と向き合っていた。半島を制してから徐々に測量を行ってきて、緻密な地図が届き始めていた。地形と他国との力関係を考えて、優先的に発展させる場所を測量させたので、必要な分だけは揃っていた。魔物達を屈服させて、種族を混合させたが、それぞれの種族の代表を知事に任命させて、地方を治めさせようと考えていた。法も徐々に整備させているが、後から大幅に改善させるのが難しい都市計画を考えていた。農業、工業、運送、治水、戦争などの要素も考えなければいけないけど、都市の美しさも不要といえば不要だが大事だった。一時期の東京やニューヨークなどは混沌と錯乱に包まれていたが、それはそれで美しいと思う者もいる。俺は調和した街並みの方が好きなので、ある程度の自由は持たせながら制限をすることにした。

 日本を例にすると、用途地域や地区計画などで制限を与える。建物の最高高さの制限、敷地境界等からの高さ制限、敷地境界から壁の位置の制限、敷地面積の最低限度の制限……など色んなのがある。西洋の都市計画だと、街路に面する外壁の装飾を制限している場所もあったはずだ。階数ごとにある程度の制限を与えて、偶然と必然が混じった美しさが生まれる。地図を模写しながら、都市計画の案を書き込んでは消して、再考して書き直した。

 いつの間にか、陽が傾き始めていた。

 俺は背伸びして、深呼吸で内部から整えた。部屋を出て、自分の本体がある部屋に足を向けると、扉の前で少年がたたずんでいた。魔女が見捨てた男の子だった。魔女に捨てられた衝撃で喋られなくなっていたが、少しだけだが言葉を口にするようになった。俺が暇を見て性根を叩き直してやっていたが、フィオナの姿になってから放って置いていた。

「どうしたの?」

 フィオナの口調を真似た。

 男の子が喋った。

「……彼は死んだの?」

「そう簡単に死ねないね。動けないだけよ」

 男の子はそれを聞くと、木剣を持って走り出した。

 俺は男の子を追った。中庭にはガノンがいて、男の子が無言で木剣を振り下ろした。ガノンは武人だ。殺気に反応して、男の子の顔面を殴りつけた。

「何の真似だ」

 男の子は鼻血を出しながら、ガノンに組み付こうとした。地面に組み伏せられ、追い討ちで後頭部を踏みつけた。手加減はしているが、片腕が無いためか反撃されないように徹底していた。

「良い。もっとやれ」

「……純潔王」

 ガノンは守備隊長だ。俺と話すことも多いが、余計なことを喋らない男だった。虚無的な所はあるが、剣術の腕は確かだ。

「ですが……」

「溜まっているんだよ」

 鬱憤が溜まっている。身体中を巡って、汗のように毒素が滲み出ていた。捌け口の無い感情をぶつける相手すら分からずに、相手のことを考えずに暴力を振るおうとしていた。

「彼我の実力も分からずに叩き殺そうとする。これに手加減する必要があろうか?」

「よろしいのですね」

「死ねば、それまでだったのだ」

 強い言葉がでた――フィオナは絶対に言わないだろう。

 俺が男の子に稽古をつける時も、大怪我させる気で叩きまくった。それでも死ななかった。死にかけから立ち直り、それを何度も繰り返すことで、心神ともに強くさせようとした。それでしか強くならないこともある。人はそれぞれ強くなる道が違うのだ。

「ただし、真剣は使うな」

 男の子が俺に向ってきた。フィオナは非力だが、俺の戦闘技術は衰えていなかった。拳を弾いて、顎に掌底を叩きつけた。一瞬怯み、足を払って地面に転がし、脇腹を踏み、股間を蹴り上げて、銃を取り出した。少ない微粒機械で作り上げた二丁拳銃だった。ブラック&ホワイト……適当に名付けていた。

「王に歯向かうか」

 引き鉄に力を籠めた。

 弾は出なかった。

「一回死んだな」

 ガノンが男の子の髪を掴んで立たせて、頬に拳を叩きつけた。

「お前はまだまだ死ぬ必要があるな」

 男の子はガノンに任せておけば良いだろう。このまま放って置いたら腐ったまま死ぬところだ。立ち直る余地があるなら、それが茨の道であっても進ませるべきだった。

 肉を打つ音を聞きながら、俺は中庭を後にした。


 一日の汚れを温泉で洗い流した。ジノが都市を作った時にいくつかの温泉が湧き出たそうだ。街にもあるが、王宮にも温泉を引いているので、身体を清潔にさせるのに最適な空間だった。

「で、なんで女風呂に入っているんですか?」

 俺は一糸纏わぬ姿でハロハルハラの目の前で仁王立ちしていた。

「男湯に入れと?」

「……まあ、別に見られても平気ですけど」

 ハロハルハラは肩まで浸かり、頭の上に布を乗せた。

「気にするな。俺も女の裸は見飽きている」

 長命の男を舐めてはいけない。

「いやあああっ! ど変態」

 温泉用の服で全身を隠しているナユキがいた。自分の身体をさらすのが嫌なのだろう。ハロハルハラみたいに身体を見られても平気ではないようだった。

「私は女だ」

 ――仁王立ち。

「いや、とりあえず前隠してくださいよ。フィオナが可哀想」

「そうか?」

「って、なんでぷーちゃんいるの!」

 レッドもいた。俺をフィオナ扱いしていないので、他の連中はいないようだった。そういう基本的なミスはしない女たちだった。

「女だから」

「そりゃそうだねー」

 ……納得したよ。

「いやー、合法的に女の裸を見れると思ったら、テメーらとは拙者ガッカリでござる」

「やっぱり、覗きじゃないですか!」

「覗いてはいない、見ている。堂々と」

「やだ、この夫」

 レッドは呆れていた。

「しかし三人揃って何してんの?」

「懇親会として上層部女子会を開催していたのですか。……上司のセクハラに対抗するために」

 ……魚人のミグルが除け者にされていた。

 ついでに――。

「俺は?」

「だから男でしょうが。ついでに現在進行形でセクハラしているし」

 つーかハロハルハラの上司って、俺しかいなくね?

「私は入れても良いと思うよ」

 さすが俺の妻。俺が悪に堕ちても味方になってくれる。

「……駄目でしょ」

「そうかなー。でも、今は女の子だよ」

 うんうん、俺は頷いた。まだ議論は続いていたが、どうでも良かったので、俺は全身を沈めた。全身が温かさで包まれて気持ちが良かった。また、明日も色々と仕事をしなければいけなかったが、今は温かさが気持ち良かった。

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