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第12話 毒女

 街を後にして、しばらくして土砂降りになった。煙るように降り、遠くの山並みですら見えなかった。ツギハギの外套で雨を受け、足元に水が流れていった。道路の表面を川のように流れて、俺たちの足音はピチャピチャと鳴った。蛙のつがいが並んで歩くように、俺たちは歩いていた。レッドは鼻歌交じりで歩いているが、こう見えても魔法が使える魔女だ。だけど、戦力にはならなかった。

 足音を消そうと歩いているが、後ろから歩いてくる女の気配は間近に迫っていた。

 吸血鬼は人間の天敵だ。

 だから闘争は激しいものがあった。

 そして不死者は殺し合いを喜ぶものだ。痛い、怖い、苦しい、だがそれよりも心臓が高鳴り体が生きるために勝手に動く、俺たちにとって戦いとは自分の命を確かめるための唯一の方法だ。

 一歩、二歩、後ろの女が動き出した。

 俺はレッドを押して、小川に落とし、後ろから斬りつけてきた剣を両手で挟んだ。

 真剣白羽取りだ。

 掌にひんやりとした冷たさと、滑りそうな恐怖が伝わった。

「誰だ。お前は」

「……」

 顔色の悪い女は答えずに、剣を体重かけて押し込んできた。身体捌きから、初心者ではないようだ。俺は剣を引き込むように倒れて、足で腹を蹴り、巴投げをした。立ち上がると、相手もすぐさま対応して立ちあがった。

「だから、誰なんだ?」

「……」

 女は足場が悪いのも無視して、剣を突いてきた。俺は剣の腹を叩いてから、肘鉄で顔面をついた。女は転がったが、道を転げるように走って、見渡す限りに広がる田圃に着地した。波紋が広がり、稲すら波を打ったようになびいた。

「身体に聞くか」

「……」

 女を追って、田圃に入った。道のぬかるみ以上に足元が悪くて、子どもの体が逆に有利だった。俺は足がはまらないように、体重をかけないで歩いた。

 女は退いていき、俺は誘われるようについて行った。

「馬鹿め」

「あら酷い」

 初めて女が口をした言葉は蔑みのものだった。

「不死者が負ける理由はいつも同じだ。自分の能力に過信をすることだ」

 女は剣の刃をつかみ、手首を横に切った。鮮血が飛び散り、女は田圃の水に切り口を浸けた。豪雨の波紋に乗り、真紅が漂う。俺は後ろを振り返ると、俺の歩いてきた場所にも赤いシミが広がっていた。道での戦いのときに怪我をしていたのだろう。血が漂っている。

 俺は歩こうとしたが、激痛が全身を襲った。

「……これはマズイな」

「『カンタレラ』……私の体液は劇薬だ。私以外にとってはね」

 俺の足を見ると、爪先から腐るように黒くなっていった。もうそろそろ膝まで達しそうになっている。体液――今回の場合は血がそれにあたるのだろう。田圃の水には毒が充満しており、青々しかった稲も腐れてきた。泳いでいた蛙がのたうち回りひっくり返って浮かんだ。

「犯人を逃がすわけにはいかないよ」

 犯人……あの館の主殺しのことだろうか。

「俺はやっていないぞ」

「そんなのは知っている」

 知っているということは、裏事情も知っているということか。

「あれは誰がやったんだ?」

「いくら死ぬと分かっていてもそれを言うわけにはいかない」

「そうか……やはり身体に聞くしかないな」

 女は下品に笑い、俺のことを指差した。

「どこにそんな力が残っている。体には毒が回り、一歩も歩けないだろ。ほらほら、膝を通り過ぎて、もうすぐ股間まで回って、腐れ落ちるぞ。玉無しの吸血鬼なんて世界初じゃあないか?」

 俺は溜息をついて、翼を生やした。そして、腕で足の根元を斬って、飛び上がった。

「油断は負けに繋がるぞ」

「畜生……」

 女は唖然としており、俺を見上げていた。こうなると、田圃に足をとられている女が絶対的に不利だった。俺は捨てた足を掴んで、女に向けて放り投げた。

 飛び蹴りを食らった女は仰向けに倒れた。暴れるように這って、あぜ道へと逃げて、女は泥を吐いていた。それでも逃げようとしたが、意外な伏兵が現れた。

 レッドがあぜ道を歩きながら、魔法を使っていた。手に触れずに物を動かす、念動力のような力で、女の足を引っ張って、あぜ道にうつ伏せで倒した。

「よくやった」

「突然川に突き落とさないでよ」

「悪かったよ」

 俺は着地しながら、女の頭を叩いて、気絶させた。

「なかなか役立つ魔法だ」

「そうでしょ」

 レッドは平たい胸をそらせて喜んでいた。


「さて、喋ってもらおうか」

 女を樹に蔓で縛り付けて尋問をした。攻撃するのはこちらも危険なのでしないが、俺には相手を魅了する邪眼があるので、額を突き合わせて睨みつけた。だが、相手の精神力が高いため、完全に操ることはできなかった。

 吐き出した言葉は、『冒険者ギルド』だ。

「……あの男が怪しいとは思ったが、もっと大きな存在だったか」

 つまり、俺が情報を盗んだことを、冒険者ギルドは知って、便乗して殺しの依頼をしたということだ。もしかしたら依頼ではなく、ギルドと対立した結果の抗争かも知れなかった。そうならば、怪しまれるのが冒険者ギルドになるから、俺を犯人として供物にしようとしたのだろう。

 まあ、推測に過ぎないけれど。

「それだけを教えてもらえば十分だ」

「……殺せ。私がバラしたと知られたら、私には命が無い」

「悪いが、俺は殺して救われる相手を殺すことはしない。生きて、苦しみ、地獄を味わえ」

 俺は女を磔にしたままでその場を去った。

「風邪引いちゃうよー」

「それぐらい構わないだろ」

「酷いよー」

「こっちは殺されそうになったんだぞ」

「そうだけどー」

 俺たちは山に入り、再び元の街へ戻ることにした。

「わざわざ戻るの?」

「ああ、お仕置きが必要みたいだからな」

「憎しみは憎しみしか生まないよ」

 レッドは良いこと言った様な顔をした。

「そんなことは無い。憎しみだって、生物には必要だ」

 それに毒女の能力は気になっていた。もしも、俺が吸血を狙っていたら、確実に俺を葬り去ることができただろう。彼女の力は対吸血鬼において抜群に効果を発揮する。となると、専門家が襲ってくる可能性が高かった。このまま旅を続けていたら、攻められ続けるばかりだ。戦いにおいて、攻めるほうは守るほうより有利である。

 攻める側に回らなければ、勝つことはできない。


 俺たちは街へ戻ってきた。もう夜になっていたが、冒険者ギルドの建物は輝いており、まだまだ人気ひとけがあるようだ。俺は正面の扉から入り、嘲笑う冒険者たちと、眼を見開く冒険者たちの視線を浴びた。眼を見開いたのは事情を知る連中だ。俺は冒険者たちを無視して、カウンターへ向って受付嬢をみた。受付嬢も目を見開いていた。

「やあ、おねえさん」

 俺はカウンターの上に飛び乗った。

「依頼をしたいんだけど」

「な、なにを」

「この冒険者ギルドをぶっ潰すことなんだけど……誰かやりたい人はいる?」

 俺は数十人いる冒険者を見渡した。

「なら、仕方が無い……俺がここをぶっ潰す」

 俺は受付嬢の胸元を掴んで、持ち上げた。

「お前は、お前の雇い主を呼んで来い……おんなぁ」

 俺の背中に冒険者たちが殺到してきた。

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