第116話 遺体
粉雪が舞い散る頃、悪党共の断末魔が消滅しようとしていた。バルティカ王国と帝国の謀略により反対勢力の残党に悩まされていたが、ハロハルハラの迅速な対応で何とか完封していた。
敵対勢力はとにかく俺のことを殺したいようだ。
分かるよー、分かる。
この時点で俺を殺せば、支柱になるのはハロハルハラぐらいしか居なくなる。
柱を折れば家は倒壊する。
だから俺を殺そうとするのだろう。
そう……お前らの気持ちは分かる。
分かる、分かるけどね、
断るよ。
一度志を立てたのだ。
この大地に安住の地を作るまで意地でも負けるつもりは無かった。
俺なら出来るはずだ。
逆に言えば、他の連中では出来ないはずだ。
そう思うからこそ国を盗ったのだ。
俺達は民衆の後押しもあったが、暴力で権力を奪った。
その戦闘力は誰もが認めるものであり、圧倒的な戦闘能力に求められたのは治安であった。善き力は悪しき力を淘汰する。だからこそ俺達は悪党共を駆逐して、悪徳役人共も排除した。そして多くの種族が集まる街は活気付き始めた。だが活気を凍結させるように冬が訪れていた。
「腐敗役人は駆逐しましたが、代わりがナカナカ……」
代わりになるような教養を持っている人材が見つからなかった。
そのため本当は徐々に悪徳役人どもを排除するはずだったが、元馬借のブラムの例があった。やはり腐った部分は全摘出しなければならないのだ。それにブラムの手前もあった。
ナユキの配下になり、情報網を形成するために運送業の段取り行っていた。数々の馬を掻き集め、俺が見ても良質な馬を揃えている。ゆくゆくは軍馬の調練をさせたくなるような人材だった。
「中国の科挙みたいなのをしてみるか」
「テスト問題を考えるのにも一苦労ですね」
「最初は数学だけでも良いだろう。作文で自分の意見を忌憚無く語らせるのも良いだろう」
「まあ、出来る限りやってみますか」
俺は市場で煙草を買い、一服吸った。
話を変えた。
「予想外だった。タイトスは執行官の手先だと思っていたのだがな」
ハロハルハラは焼き豚を買って一口で食べた。
周りの民衆は慣れたもので軽く挨拶してきている。
俺は街を積極的に歩き、なるべく上下関係が無いように振舞っていた。
強烈な上下関係を無くそうとしていたからだ。
「ええ、サイコダイバーですからね」
俺達は最初からタイトスを疑っていた。
それは当然の帰結と言うものだろう。
俺たちの勢力で特殊な能力を持つ者といえば、ナユキとレッド――それに毒女ことリンくらいだ。逆に敵対勢力で特殊能力を持っている者たちは山ほどいた。
例えば執行官。
偶然現れた能力者が敵のスパイであると考えるのは不思議では無いだろう。
「俺の夢に侵入してきたら一撃で粉砕しようと思ったが」
「私の夢にも入ってきません」
「おい、下忍はどうだ」
しゅた。
ナユキが唇を曲げながら、目の前に飛び下りてきた。
先ほどから後をつけて来ているのは分かっていた。
「中忍ですけど?」
「良いから質問に答えろ」
「侵入されていませんよ。まあ、侵入されたとしても」
この三人は返り討ちにできるだろう。
だから襲われていないとも言えそうだが――。
「ナユキ。タイトスの身辺調査は?」
「概ねタイトスが話していた通りですが、数ヶ月の間足取りが掴めない時がありますね。話した内容には不審な点が無いのですが、足取りが掴めないので裏が取れないんですよね」
「掴める兆しは?」
「難しいかと。なんの手がかりも無いので」
だからと言って止める理由にはならなかった。
「身辺調査はそのまま続行しろ。他に報告することは?」
「それが……どうやら死体愛好者が出たようで」
「はあ?」
墓場が荒らされていた。
本物の王になるはずだったフィオナの遺体が土葬されていた墓だ。
「なんて非道な」
ハロハルハラが本当に怒っていた。
こういう純なところがハロハルハラの美徳だろう。
「まったく気付かなかった」
墓と言っても王宮の中だった。
そう簡単に侵入できるとは思えなかったが、証拠は簡単に進入されたと告げている。
「証拠も無いんですよね」
「最悪だな」
ハロハルハラはナユキと話していた。
だが俺は話しに参加する気になれなかった。
「死体に何の意味も無い」
「冷たいですね」
「そうか? だが、ハロみたいに気にする連中がいるのは分かる。」
「私も大将と同意見です。だけど、そういうことは人前では言わない方が良いのでは?」
まあ、そうだろうな。
だが、死体は死体である。
その考えは変える気は無かった。
そんなこんなで、遺体の捜索を開始した。
「私も」
アイビーも志願して、ナユキの配下に混じり調査をした。
遺体を奪われた時に、犯人の姿を見たものは誰もいなかった。
「ふー、どうすっかな」
俺としては、遺体はどうでも良かった。
フィオナの生は尽き、遺志は俺の中で生きている。
だがフィオナの慕い続けた者は違う。
ナユキは命令で探しているが、ナユキの配下やアイビーの目の色は違う。
死への感覚が違うのだろう。
違うということは良いことだ。
多くの価値観が混じり、俺は人間性を保つことができる。
そんな時――。
手紙がきた。
一読して、痛烈な舌打ちが出た。
魔女が捨てた男の子に剣を教えながら、何回か手紙を繰り返し読んだ。
「ダルシャンが呼んでいる」
俺はレッドに話すと、少し嫌な顔をされた。
レッドはダルシャンが苦手だった。
「どんな内容なの?」
「遺体の交換をしたい――とのことだ」
交換? とレッドは首を傾げた。




