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第112話 娼年

 冬来ふゆきたる。

 寒いな……脂肪の少ない身体にはこたえる冷たさだった。

 私の幼い体は女らしさが無い、胸も尻も膨れてなく、腰も縊れていない。少年に限りなく近く、性別が曖昧なままなので、ユニセックスな印象になる。

 身体にあった暖かい服が着たかった。

 大将はこの前あった時に、地球の機能的な服を再現しようとしていたので、街の服飾店にも似たような服が作られつつあった。

 戦争の凄惨さが薄れつつあり、活気が蘇りそうになっていた。

 店頭では鮮やかな服が飾られている。

 採取できる色彩も増えているようだ。

 入店。

「いらっしゃいませー」

 雌の猫人族ウェアキャットがゆっくりお辞儀をした。奥では若い女が大きな黒板に絵を描いていた。デザインの構想を練っているようだった。服とは全く関係の無い猫の絵も描かれていて絵心を感じた。

 足首に何かが忍び寄ってきた。

 糸だ。

 すっと足を上げると、奥にいた女がこちらを向いてきた。

「失礼しました。足音が聞こえないので……つい」

 女は指一本動かしていなかったが、糸を動かしていた。だが身のこなしは普通の女性だったので、特別な訓練を受けているようには感じない。戦闘は得意そうではない、糸を操る能力を仕立て屋の仕事にいかしているようだった。

「まだまだ治安が悪いので自衛のためでした。申し訳ない」

 耳の痛い一言だ。

 治安を維持するのは政府の責務だ。

 こちらの裏を見透かしたような一言だった。

「プレスター様から聞いて来たのですが、仕立て屋のミユキ様でよろしいでしょうか?」

 ミユキは機能的な服を作り上げる一翼を担っているそうだ。

「はい……御用は?」

「当然服です」

 私は採寸されて、身体に合う服を選んでもらった。

「本当でしたら、全てオーダーメイドにしたかったのですが、時間が足りませんので」

「オーダーメイドは時間がある時にお願いします」

 私は本革のスニーカーを履いた。試作中のようで彩色されていないがかなり歩きやすかった。真紅のミニスカをサスペンダーで肩から下げ、白のセーター、青を基調にしたチェックのマフラーをネクタイのように巻き、ポンポンのついた毛糸の帽子をかぶった。

「お似合いで」

「さすが私」

 服飾店を後にして、しばらく歩いていると、

「……ロリ臭いな」

「ロリだもの」

 ヴィトは革のベストを着させた。

 街の通りでは荒くれ者たちが街を修繕して、道も果てまで伸ばそうとしている。工事は肉体に厳しいものであり、肉体を維持させることができる。道が広がれば輸送はスムーズになり、人の行き来も激しくなる。この半島は自然と多民族国家になりつつあるので、この国を頼ってくる者達も多くなるだろう。

 流通の網を広げ、情報網も広げる。

 網が広がれば、より多くの人材が欲しくなる。

 最初に眼をつけた女――『魔女』が仲間になるかどうか――。

 石畳の道を急いで魔女を探索した。

 魔女は少年の子供を妊娠してからゴブリン国に滞在していたため、住んでいたゴブリンに話を聞いてみると、少年に手をつけた以外はごく平凡な女だそうだ。

 占いを使って生計を立てており、的中率が高くて『魔女』と呼ばれた。

 恐ろしいことを考えてしまうが、占いをした時に悪意の種子を埋めつけて回ったかもしれない。

「悪意の種子か……」

「たまにそういう人間がいる。全世界に戦争の火種が広がった時に、無償で武器を渡して、悪を為すがままに任せる者を見たことがある。最初はテロリストかと思ったが、そういう奴じゃなかった。人の皮の内側に詰まっている悪を露出させたい……ただ、それだけが目的なんだ。ああいうのは単純な利益が動機になっていない、人間が悪を為すのは利益が欲しいからだ。動機と利益が一致した人間……そういうのは一番性質が悪い」

 影が視界の端を通った。

 私は頭部を守りながら、緊急避難をした。

 大袈裟だと感じて恥ずかしくなったのは、それが暴れ馬だったからだ。

 馬の上で若い豚亜人オークが馬を抑えようとしており、暴れ馬が何人かを蹴り飛ばした。粉砕して、血が巻き上がった。

 魔女が馬の頭に何かを入れたのだろうか、本当に愉快そうに笑っていた。

「新しい服なのにな」

 私は馬に飛びついて、頭を掴んで地面に押さえつけるように力を入れた。周りの連中も手助けしてくれたけど、足を暴れさせて何人も蹴って殺した。私は腕の力を強めて、首を折りながら絞殺した。

 仕方が無い――という判断だった。

 だが、豚亜人オークが怒り狂った。

 自分の馬だったのだろうか、短刀を抜いて、抑えるのに手助けしてくれた男を斬りかかり斬殺、私にも斬りかかって来たが、顔面に拳を叩きつけて撃退した。新設したばかりの警察がやって来て豚亜人オークを取り押さえて去った。

 その時には、魔女はいなくなっていた。



 ヴィトの鼻を使って周囲の探索をすると、魔女はベルゼブルが消えた場所にいた。闇が発生した所だ。ベルゼブルと聞くと、ヴィトは難しそうな顔をする。アレはフィオナと混じりあい、大将の娘へと転生した。

 吸血鬼へと転生したのだ。

 大将がなんとか勝利をおさめたが、その後に天使ウリエルが現れて、永劫奈落タルタロスを出現させたそうだ。

 天使が現れたのはこの際どうでも良い、問題は永劫奈落タルタロスだ。

 吸血鬼……不老不死の私たちは終わることなく転生を続けているが、いつか終わる時には何も無い闇に消されてしまうのだろう。それを目の前で見せられた。結局のところ、私たちには救いが無いのだろうか。

 だが救いが無いからといって、生きるのを止めるわけにはいかないのだ。

「君、強いね」

 魔女が話しかけてきた。

「NINJAマスターだからな」

 ヴィトが死にそうな溜息をついた。

「……はあ?」

 少なくとも転生者ではないな、NINJAは国際用語だ。

「色々と話を聞きたいところだけど、これを聞けば万事解決……魔女――お前は誰かの手下か?」

「違うけど、誰かの手下になるつもりはない」

 魔女は子供を男の子に抱かせている。

 10歳に満たないほどだ……。

 子供たちの保護者に殺意を向けるのは躊躇ってしまうな……。

 だが、危険因子は取り外さなければならない。

 短刀を抜いて投げ飛ばした。

 魔女の反応は遅かったが、電撃が短刀を弾いた。

「ほう……魔女と言う名は伊達では無いか」

 だが威力を見て、単純な戦闘能力では負けないのを確信した。

「殺すのか?」

 魔女は初めて汗をかいた。

 今まで余裕だったが、自分に殺意を向けられるとは思わなかったのだろう。

「路傍に転がる障害は排除しなければならない」

 魔女の掌に闇があった。

「せっかく位置を……闇の座標を掴んだのに死んでたまるか!」

 魔女は男の子を睨んだ。

 その瞳は輝き、魔女は両腕を掲げて風を出した。

 逃げるつもりなのだろうか。

 ヴィトが魔女に飛びついたが、すんでのところで逃げられた。

 私は短刀を取り出して投げようとした。

 だが、男の子が城壁から身を投げた。

 赤ん坊ごと。

 魔女が頭に自殺衝動を投げ入れたのかも知れない。

 私は追って飛び降りながら魔女へ短刀を投げた。短刀は深々と脇腹に刺さったが、死には至らなかった。私は命を救出するのに集中した。男の子は赤ん坊を手放してしまい、私の両手は二人を助けられなかった。瞬時に男の子の手を掴んだのは、赤ん坊より近くにいて助けるのが確実だったからだ。

 地面に降り立つと同時に、命が一つ散った。

 魔女は虚空へと消えてしまった。

 赤ん坊は足元で死んでいた。

「すまない」

 私は虚空を睨んだ。

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