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第11話 館

 都市には一定の間隔で公園が作られている。子どもが遊ぶ場として作られているだけではなく、自然を楽しむ場として大人も楽しめる場所になっている。子ども達が砂の山を作ったり、家を作ったりしている砂場に、レッドを担いでいって置いた。周りの子どもたちと比べてもレッドの可愛さは群を抜いている。年を重ねたらどこまで美しくなるか楽しみだった。

「君はここで、砂遊びして待っていなさい」

「わーい」

「五層の天守閣付きの城を作るんだよ」

「わーい」

 ふっ……所詮は十歳の子どもよ。

 楽しそうに砂遊びに興じているではないか……。

 まあ、いいか、子どもだし……。

 さて――。

 俺は公園を横切って、高い樹に登り、公園の隣にある館を眺めた。体力は使うが蝙蝠になって、館を囲う塀を飛び越えて、屋根の上に乗った。屋根の上は清掃が行き届いていないようで、雨水が流れる場所が黒ずんだままだった。

 この館にハロハルハラを殺す依頼をした男がいる。

 屋根裏部屋の窓を力で開けて、埃だらけの部屋に足跡をつけて歩いた。ここも掃除が行き届いていない、使用人の程度が知れる。くしゃみが出そうなくらいに塵が舞っていた。俺は床の扉を開けて、覗いて誰もいないのを確認した。廊下におりて、耳を澄まして、足音に近づいていった。壁に隠れて覗くと、女の使用人だった。やる気が無さそうに溜息をつきながら、掃除をしていた。俺は後ろまで近づいて、女に飛びついて床に押し倒した。

「ひいっ!」

「まあまあ騒ぐなよ」

 俺は女の顎を掴んで、額を打ち合わせて、両目を見つめて邪眼で魅了した。精神的に弱い相手なら吸血鬼の魅了で操ることができる。

「よしっ、俺の言うことを聞けるな」

「はい、ご主人様」

 スカートを摘まんで、お辞儀をした。

「この名前を知っているか?」

 俺は冒険者ギルドで見つけた依頼者の名前を言った。

 女は俺の言うことを聞いて話してくれた。その結果、ハロハルハラの殺しを依頼したのは、館の主ではなく、その息子だった。俺は女に案内されて、その部屋に入った。本を読みながら椅子に座る男がいた。

「おい、勝手に入るな」

 女は返事をしなかったので、男はこちらを振り向いた。俺は女の陰から出て、ゆっくりと男へ近づいていった。

「誰だ……お前は」

「名乗るほどの者じゃあないよ」

 俺の見た目が子どもなので、油断しているのだろう。

「館に迷い込んだのか? それとも、使用人の子どもか?」

「どちらも違う。お前――屍人を殺すことを依頼しただろ」

 男はそれに反応して、近くの剣を取りに走った。だが、それは叶わない。俺は壁を蹴って走り、剣を奪って、天井に立った。

「吸血鬼?」

 男は腰を抜かして倒れた。

 吸血鬼は壁や天井を歩くことができる。だが、それは歩くというより、足で掴むといった方が良いだろう。俺は足の爪と力で天井にぶら下がった。

「お前は、俺の親友を――死人のハロハルハラを殺そうとした――理由を教えろ」

「ば、化け物め」

 おいおい、笑わせるなよ。

「化物に化物と言って楽しいのか?」


 男は過去を語り始めた。

 ハロハルハラの身体の元の主は、ある商人の娘だった。

 その商人は街から街へと渡り歩いて、各地の名産を売り歩いて、財産を築いていた。

 この街に来た時に、商人の娘は目の前の男と肉体関係ができた。

 あとは、お決まりというか子どもができた。

 当人同士では好きあっていたが、子どもができてしまえば別だった。

 娘は流れ渡る商人として生きることを決めて、男から養育費を貰う約束をした。

 だが、ある疑惑が浮上した。

 彼女はこの街で複数の男性と肉体関係になっていたのだ。

 だから、男は盗賊をつかって隊商を襲わせた。女は死んだはずだった。だが、近くの山で女に良く似た屍人の目撃情報が聞こえた。だから、屍人討伐を依頼した。

 そういう話だ。

 ハロハルハラは痴情のもつれに巻き込まれて、死んだ。

「す、すまない。死体に別の魂が宿るなんて知らなかったんだ」

「知らなくても……それは俺の親友だった」

「知らなかったんだ。許してくれ」

 この男は人間のクズだが、俺は理由を知れてスッキリしていた。今更殺しても仕方が無いことだし、理由が分かればそれで良かった。

 俺は天井から降りて、床に立った。

「依頼を取り消せ」

「わ、わかっている。命だけは助けてくれ」

「大丈夫だ。無闇な殺しはしない」


 女の使用人は俺に魅了されたまま、扉の前で立っている。

 だから、その声は別人の者だった。

 悲鳴が館中に響き渡った。

 男は俺を一瞥して、廊下へ出て行って、声の方へ走って行った。

 俺は使用人の陰に隠れながら、そちらへ向うと男が泣き崩れていた。

「お、おやじ……」

 ……急展開だな。

 俺は女使用人のスカートに隠れて、女が自由に動けるように戒めを少しだけ解いた。

「あの……吸血鬼め」

 男は元の部屋に走って戻って行った。

 いえいえ、俺は何もしていないよ。

 泡を吹いて倒れる悲鳴の主の横を通り、部屋の中に入って、扉を閉めた。男が戻ってくるまで少ししかないが、一応状況を確認しておこう。

 老人が窓際で、葡萄酒をこぼして倒れていた。葡萄酒は血と同じ色をしており、凄惨さを増している。扉に背を向けており、切り傷が右肩の後ろから左脇まであった。獲物は剣だ。俺だったら首を折って殺しているところだ。完全に背を向けて死んでいるので、正式な訪問者ではないだろう。窓から外を覗くと、道を農耕馬が歩いていて、その奥の公園でレッドが遊んでいた。俺は部屋から出ようとして、扉の端に眼が止まった。

 埃がついていた。

 この手入れが行き届いた館で埃がつく……屋根裏か。

 俺が屋根裏から入った後に、誰かが後ろから入ってきた。俺は扉に手をかけていないので、俺が間違って埃をつけたわけではなかった。女使用人を屋根裏部屋の出入口まで歩かせて、屋根裏へ飛んだ。

「ありがとうね。おねえさん」

 俺は女使用人の魅了を解いて、屋根裏部屋を見渡した。俺の足跡が消されている。いや、侵入者が自身の痕跡を消したようだ。やはり誰かが俺の後をつけてきて、俺に便乗して殺したのだろう。


 俺は屋根の上にのぼり、周囲を見渡したが痕跡は見つからなかった。地面に降りて、足跡を探れば見つかるかも知れなかったが、館中が騒ぎ始めたので、とりあえず逃げることにした。俺が公園まで戻ると、レッドは砂場の主となっていた。五層の城を作り、城下町まで描いているので、他に遊んでいた子ども達が指をくわえて見つめていた。

「天守閣は?」

「天守閣って何?」

 そうか……日本の天守閣を知らないのか。

 西洋には天守閣みたいな無用の長物は無いからな。

「あのさ、俺がいない間に誰か来た?」

「誰も来ていないよ?」

「そうか」

 もしかしたら、レッドに接触しているかと思ったが推測は外れたようだ。

 俺たちは手を繋いで、街を後にした。

 道すがら考えたのは、あの殺しのことだった。

 たまたま、館の主を殺そうとした者がいたのなら予想をするのは難しいことだが、俺の不注意から利用された可能性もあった。

 思いついたのは、冒険者ギルドを出るときに、俺を見逃した男だ。俺が何かをしたと気付いたなら、何かをしたか調べるか、後をつけていたかもしれない、資料はすぐに戻したが急いで調べたので何か痕跡を残してしまったかも知れない、後をつけられる可能性はあったが、だからと言って便乗して殺しを行うだろうか。

 俺はモヤモヤしながらその街を後にした。

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