第106話 絶無
「押せ、押せ、押せ!」
俺はゴブリンの顔に指をめり込ませて、力任せに押した。幅の小さな坑道は戦いを繰り広げるのには狭すぎで、俺は無理矢理押しに押しまくっていたが、押しまくった結果――ゴブリンが坑道に詰まってしまった。詰まっているゴブリンの置くには盾で俺の侵入を阻もうとしている勇者がいた。
そう、彼らは勇者である。
馬鹿力を持つ吸血鬼に良い度胸だった。俺は背中を味方に押させて、ゴブリン達を押し殺しながら無理矢理坑道を押しまくった。
坑道は血と肉片が散乱して、何度か肉片を踏んで足を滑らせた。
「行くぜ行くぜ行くぜぇ」
俺は最後の一押しをしてゴブリンを蹴り飛ばした。坑道は広がっており、狭い坑道を塞いでいたゴブリンたちは生前の姿がわからないほどに砕け散っていた。
「いやー、何とか押し切った」
俺が後ろを振り向くと味方がいなかった。
煙草を撒いて休憩しても誰も来なかった。坑道からは風だけが通ってきて、それは歴史の風のようだった。最果てへ導くように追い風が吹き荒れている。
この勢いは止まるべき場所を知らないだろう。
「おーい、まだかーい」
返事が無い……。
俺は耳を澄ました。
「た……」
もっと耳を澄ました。
「退避―!」
その途端に何かが崩れる音がして、微風すら来なくなった。
「……城壁を支えていた支柱が崩れたか?」
俺が通ってきた坑道はゴブリンが侵入してこなかったので、他の坑道でゴブリンたちと遭遇した結果かも知れなかった。俺は煙草一本吸い終わるまで待っていると、生き埋めを逃れた味方が何人か来た。全てドワーフ達で屈強な男たちだった。
「よおっ、生きていたか」
「猪武者みたいに突っ込むから、行くか戻るか迷っていたんですよ」
「声かけてくれればいいのに」
「目茶目茶言っていましたけど、耳に届かなかったようで」
ドワーフの頭目に当たるミツが俺に文句を言った。
「残念ながら聞こえてましぇん」
俺とドワーフが煙草を吹かしながら話していると、ゴブリンが何体か駆けつけてきた。休憩を邪魔されてイラついたので、俺は鶴嘴でゴブリンを刺殺した。せい、せい、せい、と一撃必殺で次々と貫き殺した。全員貫き倒したので、血を払って話を続けた。
「夢中になっているときは大きな声で言え、こっちは夢中で殺意がぴょんぴょんしてんだから」
「……平然と話を続けないでください」
俺が瞬く間にゴブリンを殺して、何もなかったように話を続けたのが気に入らなかったようだ。
「飯を食うのも、糞を垂れるのも、他人を愛するのも、他人を殺すのも、生活の一部だ」
ミツが「なに言ってんだ、コイツ」みたいな顔をしたが俺は無視をした。
「さて、そろそろ戦争を終結させるぞ」
俺は鶴嘴を担いだ。
坑道の出口は城内にあり、俺たちは外へ出て、城壁の内側へと向った。城壁は坑道を掘った箇所が一部崩れており、背の高さが半分以下になっていた。以前よりも攻めやすくなったが、城壁を守ろうとゴブリンが殺到していた。俺達はそちらに援護を行くよりも、ゴブリン王の首を狙うことにして、城内に転進した。
あとあと知ることになるが、この時城内には戦士が集おうとしていた。
この時は知る由もなかったが、まず城内に受け入れられた者がいた。それは九頭竜であった。ゴブリンとEaterは同盟として繋がっていたので、暗渠から城内へと侵入していた。
どうやら俺たちの警戒網を潜り抜けたようだ。
ちなみに、執行官とEaterは密約を交わしており呼応して戦おうとしていた。シェリダンは城から遥か西に戦況を眺めていて、状況を見て攻め入ろうとしていた。だが、とある新勢力の裏切りにあい、軍を保てなくなっていた。
まあ、後で分かることになるのだが――。
そして、場外には教団の司教であるベルゼブル、それを追いかけてハロハルハラが近づいていた。ベルゼブルは暗渠の道を通らなかったのは、教団の執行官と微妙な関係になっていたからだ。異世界から来た悪魔と、この世界の住人が手を取り合って仲良くはできないのだろう。もしも仲良くしていたら、ダルシャンの代理であるビィと秘密裏に会見していたので、ダルシャンも共同して戦線に参加していたはずだ。
あの海岸での戦いも別の様相を示していたはずだ。
そして、この戦いの終結地点も別の様相だったはずだ。
ゴブリン王の玉座の間で待っていたのは、俺をこの半島まで導いてくれたジノとゴブリン王、そして九頭竜だった。ジノは縄で首を繋がれており、ゴブリン王の鉄鞭を強かに食らっていた。
「プレスター様……」
「おいおい、味方を鞭打つなんて最低だな」
俺はゴブリン王を下に見ながら、たしかに九頭竜の気配を持つ男を見つめた。その姿は俺と似ていた。以前見た化物の姿ではなく、人型だった。
「おい、プレスター。こいつの命が惜しかったら」
「ジノ。命が惜しいのか?」
俺はジノに尋ねた。
最初に会ったときよりも老けており、再会してからも優しくしてくれたジノだが、独りで国を救おうと国外に旅立っていた気骨は衰えていなかった。
「いいえ、私は命が惜しくはありません。この国を救ってください」
「アイツが来なければ、このまま繁栄を続けていたんだぞ」
さて、それはどうだろうか。
執行官もバルティカ国も食指を伸ばしていた。結果的にEaterを仲間に付けたりしていたが、国を奪われるのは時間の問題だったろう。
俺達は運が良かった。
この状況で国盗りを行っても、俺は他国から国を守っているのだ。
俺達の正当性は幾らでも偽造ができる。
「やれ、ミツ。ゴブリン王はお前たちに任せる。俺はこっちだ」
俺が命令すると、七名のドワーフが一斉にゴブリン王へと向った。玉座の間の騒ぎを聞きつけてゴブリンたちも乱入してきて、少数精鋭の乱闘が始まった。
「で、だ」
九頭竜が微笑んだ。
「てめーは、何だ?」
「この前の戦いで悟ったんだよ。化物の姿は荷が重すぎるってな」
「だからって、俺の真似か? 最近、よく真似されんだよなぁ」
俺はアイビーを思い出して、言った。
「やはり人型の方が良い」
九頭竜が握り拳を作った。
「お前、他の奴等はどうした?」
連結した命が九頭竜だった。
「俺はお前に勝てる方法を考えた。それがコレだ」
九頭竜は数本の銃を手に持っていた。
「そんな銃弾なんぞ」
「これは始まりだ」
銃は変貌して、前世の時に見た自動小銃になった。
「なっ……」
「脳の中にあった微粒機械、最後の一人になり、微粒機械を最大限まで使う……それが俺たちの答えだ」
「他の連中は殺したのか?」
「ああ、だから俺は九では無いな。ナイアーラトテップ……いや、無い。ナイといったところか」
ナイは俺に銀の銃弾を乱射しながら挨拶をした。




