表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/209

第102話 速贄

 筋繊維が四方八方から襲い掛かる。八頭の脳を連結させた攻撃は苛烈で、絶対死を与えようと高速で飛んでくる。筋繊維の動きは風に舞う襤褸切ぼろきれを繋ぎ合わせるように巧みで、身体の中心線にある急所に殺到した。常人ならば数分のうちに何百人も犠牲になる攻撃だが、俺は筋繊維以上の高速移動で避けた。

 戦闘は筋肉や頭脳に左右されるが、戦闘を大きく左右するのは戦闘の技術である。

 俺より遥かに大きく、脳を複数所有していようが、九頭竜くとるぅと俺との間には数百年の歴戦の差があった。

「無能がっ!」

 俺は筋繊維を踏みつけて、石を拾って投げ、歯を砕いた。

 九頭竜くとるぅの苛烈な攻撃は正確だが、真っ直ぐすぎた。真っ直ぐに、最短最速、急所のみを狙った攻撃、常人ならば効くだろう。

 常人なら効くが……俺は鬼だ。

 動体視力、身体能力、戦闘技術、三者により素人丸出しの攻撃を防いだ。

 余りにも単調すぎる――俺はすでに攻撃パターンを覚えてしまった。さらに俺の戦闘経験が別の攻撃方法を想像させたが、それに到達することは無かった。

「無能だけではなく、単細胞だったか?」

「強がりを。逃げてばかりでは勝てんぞ?」

「そうか? なら俺の攻撃の嵐に耐えるんだな」

 俺は筋繊維を束にして掴んで、思いっきり引っ張った。縄を昇るように手を動かして、間合いの内側に易々と入った。九頭竜くとるぅは自らを攻撃してしまうのに躊躇い、俺にもう一つの頭部を潰された。

 残り――七頭。

 頭部が真っ二つに破裂、血潮が瀑布して、身体を包み込んだ。冷や汗の出る嫌な感覚があった。その感覚は正しく、俺の周りで電撃が走った。俺は九頭竜くとるぅの身体を転がりながら逃げ、正面に立つ二つの肉塊を睨んだ。現世にはいない服装――前世の服装をした肉塊が立っていた。九頭竜くとるぅが昔語りした時代から再現したものだろう。昔語りによればEater達は脳に微粒機械ナノマシンを注入している。微粒機械ナノマシンにより服を再現したのだ。

 二つの肉塊――特殊部隊の姿をした男たちだった。

「己の力で来ないのか?」

「これが己の力だ」

 俺は初撃を受けることにした。

 何が来るかは分かっている。

 特殊部隊の肉塊は九頭竜くとるぅの皮膚を蹴るように突進してきた。俺が前世で何度か相手にした加速装置アクセラレーターだ。眼にも止まらぬ速さで突進してきて、俺の胸と頭部に拳を叩き込もうとした。骨が軋み、苦痛が伝わってきたが、先ほどの同じように狙いは分かっていた。俺は胸と頭部の前を腕で防御して、何とか初撃を耐えた。加速装置は一朝一夕で扱えるものでは無い、所有者もあまりの速さに単調な攻撃になる。初撃を防ぎ、身体を掴んでしまえば、こちらの番である。

 片手で頭部をつかみ、拍手するように特殊部隊の頭部を合わせた。

 赤い肉の花を咲かせたが、中身は無かった。

 そこには脳すらない――肉塊が生者の真似をしていたようだ。

 俺は九頭竜に肉塊を放り投げて、あかんべーをした。

「ばーか! そんなド三一さんぴんで俺を殺せるか! もっと頭を使え!」

 ……言っちゃあ悪いかも知れないが、九頭竜くとるぅはベルゼブルと比べて遥かに弱かった。ベルゼブルの場合は信仰の力で無敵に近い力を持っていたが、九頭竜くとるぅは信じている者が遥かに少ないのだろう。攻撃に対する反発力が存在しなかった。

 半島の住民はEaterを知っているものは少なく、もしかしたら前世の信仰も影響するのかも知れないが、それを合わせても微々たる力なのだろう。

 俺は口笛を吹いて馬を呼び、九頭竜を倒した後の準備をした。

「さてさて、そろそろ終わらせようか」

「……痴れ事を」

 九頭竜くとるぅは翼をつかって不細工に飛び上がり、俺に圧し掛かってこようとした。クダラナイ攻撃だ。最悪の攻撃だ。なんの創造性も無い攻撃は紛い者の証だろう。他の生物を食い、自分の血肉とする能力だが、化物の形を自由に操る術を作り出そうとしなかった。

 だから、この便所の落書きにも劣る糞っ垂れな攻撃方法なのだ。

 ああ、笑える。

 腹が痛くて死にそうだ。

 良いだろう。

 かかって来い……相手になってやろう。

 九頭竜くとるぅは落ちてきた。

 俺は避けずに両腕を掲げて、受けた。

 全身の骨が軋んで、軟骨が爆ぜたような音を出した。

 俺は完全に受け止めた。

 そして片腕で支えて、右の拳で下から振り上げるように殴る。

 殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

 貫通。挿れる。内臓を掴む。引きずり出す。身体の下から走って逃げる。内臓を引きずり出す。九頭竜くとるぅも引き摺られて、不細工に悲鳴をあげていた。

 腸に引っ張りを感じた。

 限界まで引きずり出せたのだろう。俺はその場でハンマー投げのように回転した。九頭竜くとるぅは踏ん張っていたが、俺の馬鹿力に耐えられずに浮いた。広場にいた亜人たちを巻き込み、打ち倒して、次々と死体を量産した。

「あががががっ……」

「ああああっ、疲れるぅ……我慢できねぇ!」

 俺は近くの森の上空へ九頭竜くとるぅを放り投げた。

「面倒だから、殺しちゃうよーん」

 俺は急いで走って、森まで駆けた。九頭竜くとるぅは羽を使って飛ぼうとしたが、上手いこと制御ができないようだ。

 その隙に、絶対死を与えてやろう。

 俺は木を引っこ抜いて、上空の九頭竜くとるぅへ向けて投げた。

 九頭竜くとるぅの左翼を貫き、二撃目に右翼を破壊した。

「ああああっ!」

 九頭竜くとるぅは密生した樹の上に落ちて、数本の樹に串刺にされた。俺は樹を担いで、枝を足場に樹の上に昇り、釘を槌で叩くように樹を何度も振り下ろした。

 打撃を与えるたびに、肉体を樹が貫き、苦悶の悲鳴が聞こえた。

「百舌の速贄みてーだな」

 死ねや、死ねや、死ねや……。

 俺が打撃を加えていると、他のEater達が樹の上に昇ってきた。十人返り討ちにしたところで、思った以上に敵が増えたので、樹から飛び降りて馬に乗った。

「ま、待て……」

 九頭竜くとるぅが追い縋ろうと足掻いたが無駄だった。

「お前に俺は殺せない! 人間に憧れるものが、人間の天敵である吸血鬼に勝てるはずがなかろうがっ!」

 俺はレッドが率いる本隊を追いかけるように、追撃する亜人たちを追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ