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第10話 毒茸

 夜明けの牧場、乳牛の牧舎に侵入して、乳を搾った。口に直接乳を飛ばして、ゴクゴクと飲み込んで、竹製の水筒に入れた。半溶けの銅貨を千切って置いて、牧舎を後にした。

 寝床へ戻ると、10歳の少女は外套に包まれて、震えながら寝ていた。魔女と言え人間だから、吸血鬼の俺とは体力の差が歴然としている。気をつけていないと自然と無理をさせてしまうだろう。俺はレッドと一緒に外套に入って抱きしめて体の熱をあげた。手足はさらに冷たいので、手で擦り合わせて温めた。しばらくすると寝汗をかき始めたので、俺も少しだけ眠った。


「朝飯だ」

「ん?」

 レッドは瞼をこすりながら起きて、ゆっくりと牛乳を飲んだ。助けたくて助けたとはいえ、助けっぱなしでは餓死してしまう。子どもなので食料の確保もままならないので、俺が食材探しをしている。

「という訳で、茸を食べてみよう」

「茸……大丈夫かな」

 俺の眼の前にずらりと茸が並んでいた。俺は基本的に乳製品しか食ったことが無いので、どの茸が食えるか食えないか分からなかった。ミナが食べているのは見たことがあるけど、食わないので興味が無くて覚えていなかった。

 俺は基本的に乳製品しか食えない、他の物の食べると体が拒否して、口中に灰を食べたような不味さが広がる。食えないことは無いが、栄養にならず美味しくも無い。

「俺が食えたら、たぶん食えるはずだ」

「大丈夫なの?」

 俺は赤色の禍々しい茸を掴んで、テラテラしている部分を齧った。

「がばっ!」

 毒で口が痺れて、口の端から液体と茸の欠片が溢れた。

「ひー!」

「お前のためにやっているんだから、ちゃんと見ているんだ」

「う、うん」

「もっと見ろ……俺の勇姿を」

「頑張って」

「褒めてくれ……もっと」

「頑張ってー!」

 男とは女に褒められると頑張るものである。

 俺は次々と茸を食べていき、毒を確認した。どれも不味い味だが、毒の有無ぐらいはそれで判別がついた。俺はしこたま吐いたが、なんとかレッドの食べる分の茸を見つけた。

「ああ、死ぬかと思った」

 不死者だから死なないけどね。

「なんて滅茶苦茶な食料の見つけ方……」

「文句を言うな。これで食事にありつけるんだから」

 俺は火起こし器に枯れ草を入れて着火した。枯れ枝を積んで焚き火をつくり、鍋に水を入れて茸を煮立たせる。唯一、判別のついたシイタケの匂いが漂い、人間だった頃の干しシイタケの香りを思い出した。

「……ほとんど味がしない」

「塩が無いんだから仕方ないだろ」

「はふはふ……」

 柔らかくなった茸を口から蒸気を吐くように食べて、熱さで身体を温めているようだ。複数の茸の味が出た汁を飲み、額から汗を流していた。今まで食事には無頓着だったけど、レッドという同行者がいるのなら料理の勉強をしたほうがいいかも知れなかった。


 そんな旅を数十日続けていて、とある街に着いた。道路は綺麗な石畳だけど、水はけが悪いようでいたる所に水溜りができていて、街路樹もうろができて朽ちかけていた

「実は冒険者ギルドに行きたいんだよ」

「へー、冒険者になるの?」

「違う。俺の親友を殺した復讐だ」

 屍人のハロハルハラは俺が殺してしまったが、その原因は冒険者ギルドだ。特に依頼者は許すことができない、正攻法で尋ねても教えてくれないだろうから、秘かに侵入して調べるつもりだった。

「ひやー、きな臭い」

「嫌ならついて来なくていいぞ」

「やだっ。一人は寂しいもん」

 俺たちは道を並んで歩いて、冒険者ギルドを探した。それは街の北西の街区にあり、冒険者ギルドの敷地は広い公園のようになっていて、いたる所で冒険者たちが話していた。剣の練習をしている奴等もいるし、雑談に興じている連中もいた。

 場所は見つけたので、とりあえず食事を取ることにした。

 俺は節約するため、ゴミをあさって食料を探した。あっても腐っている部分は多かったので、なかなか首尾は良くなかったが、レッドが食べる分くらいは見つけることができた。

「……くさい」

「洗って食いなさい」

 俺はチーズを見つけていたので一口含んだ。不味かったがないよりマシだった。川水で洗えば、汚れも取れて食べるのに問題なかった。

「さて、食事も済んだし……行くか」

「私も行くー」

「お前は残っていなさい。死んだら痛いよ」

「……はーい」

 レッドを川原に残して、俺は冒険者ギルドへと向った。


 俺は隠れながら冒険者ギルドの建物まで駆けた。裏口の扉の前で、血の霧と化して、鍵口を通って、建物の中に侵入した。音を立てないように歩いて、資料室を見つけた。再び鍵穴から内部に入り、保管されている依頼書を探してみた。だが、そこに保管されているものは古いもので、新しいものは見つからなかった。俺は部屋の隅に隠れて、体の一部分を霧と化して、冒険者ギルドのカウンターまで飛んだ。そこで鼠に具現化した。

 俺は冒険者ギルドの職員に見つからないように、棚を開けて資料を探した。何度か本で叩かれそうになったけど、資料を見つけることができた。依頼中の資料で、賞金が繰り上げられている。依頼主も見つけることができた。俺は頭に情報を叩き込んで、血の霧と化して、建物の裏口から出た。

 いや――出る前に停止した。

 裏口の前に男が立っていて、鼻をひくつかせていた。匂いを嗅いでいて、何かを探している。この世界にも吸血鬼はいる。もしかしたら、吸血鬼ハンターかも知れなかった。

 俺は扉の前で具現化して、扉を介して男と対峙した。体の大きさは俺のほうが小さいけど、吸血鬼の力なのでそれは考えなくても良い、だがこの前の母親のように異様な力を秘めている男かも知れない。なにしろ吸血鬼は霊長類よりも強い。その吸血鬼に挑むと言う気概は、実力あってのものである。

 やるか――。

 俺は扉の前で、腕を後ろに引いた。短いが、指先さえ届けば、扉に体を押さえつけて、左腕で心臓を貫くことも可能だ。

 わずかに近づかせれば、こちらに勝機がある。

 扉を壊した音で、誰かが来るかも知れないが、それはそれで仕方が無い。

 だが、男は去ってしまった。

 罠かと思ってしばらく観察していたが、本当に気配は無くなった。

 そうか、今は太陽が出ているからだ。彼は経験上、吸血鬼が昼に活動しないのを知っている。匂いではなく、経験を信じてしまったのだ。俺は無事、冒険者ギルドから脱出することができた。

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