表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

イベント物短編

感謝の気持ちに想いをのせて

作者: 麻沙綺

去年の四月に入社して十ヶ月。

入社して配属された場所は、企画部。

まさに、精鋭部隊で、私以外みんな異性。

って事で、紅一点の私としては、部署全員にお礼を兼ねた義理チョコを渡す予定なのだ。



だけど、この部所の男性陣は、皆イケメンの上に仕事が出来るメンバーなので、物凄く恨まれてるんだ。

何で、私がこの部所に配属になったのかが、未だに不思議なんだけど…。


その中でも、神谷知哉先輩が私の教育係(?)として、色々と教えてくれた。

神谷先輩は、企画部の中で、一番の出世頭。

他の部所に配属された同期の子にも、羨ましがられるほどの逸材だ。


そんな先輩に、仕事のノウハウを教えてもらえるなんて、思わなくて、お局様(お姉さま)達に毎回、呼び出される始末。


それでも、めげずに先輩からの指導を受けて、やっとの事で一人前(?)になったと自負してる。


その先輩は、私の失敗を自分がした事だと庇ってくれる程の優しい人。

「すみませんでした」

「気にするな。同じ失敗を繰り返すなよ」

頭を下げて謝る私を優しいく頭をポンポンと叩く。

そんな先輩に惹かれていく自分がいる。


そして、バレンタインまで後二週間。


お礼とお詫びをしようとして、チョコを渡そうと目論んでいる。

そこに“好き“という気もちを隠して…。



バレンタインデー前日。

私は、早々に会社を退社して、デパートに駆け込む。


先輩以外の男性陣には、同じチョコを…。

友チョコと先輩用に手作りチョコとメッセージカードを購入した。


急いで家に帰り、先輩のチョコを作り出す。

チョコを刻んで、湯銭で溶かす。

チョコが滑らかになったところに、リキュールを一滴垂らし、軽く混ぜて型に流し込んだ。

冷蔵庫に容れて、固めた。


その間に、先輩へのメッセージを書く。


“いつも助けて頂き、ありがとうございます。

感謝の気持ちです。 高林“


“好きです“とは、流石に書けなかった。


出来映えのよいものだけを選んでラッピングする。

リボンのところにカードを挟んだ。



翌日。

就業前に、チョコを配り出した。

まだ来てない人には、付箋でメッセージを書いて、机の上に置いた。


先輩、まだかな。

何時もなら、もう来てるんだけどなぁ…。

「神谷なら、今日終日、外回りだぜ」

先輩と同期の睦月先輩が言う。

「そうなんですか…」

「何、そんなに落ち込んでるんだ?」

「いえ、何でもないです」

私は、慌てて答える。

「幸樹ちゃんは、神谷の事が好きなんだ。そっかそっか…」

って、睦月先輩が突っ込んできた。

エッ…。

アッ…。

「大丈夫。誰にも言わないから」

睦月先輩は、自分の口許に人差し指を立てて、ウインクする。

ハァ…。

ばれてたのかなぁ…。

「渡せるといいね」

って、応援してくれた。



退社時間を過ぎても、先輩は戻ってこない。

やっぱり、今日は戻ってこないのかなぁ…。

「あれ、幸樹ちゃん。まだ帰らなの?」

「エッ…あ、はい。もう少しやってから帰ります」

「そっか。じゃあ、お先に」

「お疲れさまでした」

と、声をかけた。


仕事に没頭してたら、いつの間にか廻りには、誰も居なかった。

あるのは、先輩の机に置かれてるチョコの山。

ハァ…。

時計を見る。

十一時を回ったところ。

結局、渡せなかったなぁ…。

もう、帰ろ…。


先輩の机の上に、チョコを置いて……。



私は、会社を出て駅に向かって歩き出した。

ちゃんと、手渡したかったなぁ…。



「……き」

ふと、名前を呼ばれた気がして、足を止めてキョロキョロと辺りを見渡す。

が、誰もいない。

空耳か…。

「幸樹!」

やっぱり、呼ばれてる。

振り返ると、先輩が走ってくる。

私は、平静を取り持ちつつ。

「先輩、お疲れさまです」

と言う。

「お疲れ。追い付いてよかった」

先輩が、安堵の溜め息を漏らす。

あれ、何かあった?

って、私、何かしでかした?

私の不安を余所に。

「幸樹。これ、ありがとうな」

って、先輩が私のチョコを手にして言う。

ああ。

その事か…。

「いいえ。大したものじゃないですけど…」

「なぁ、幸樹。本当にこれだけなのか?」

「?」

なんのことだろう…。

「このメッセージ以外にないのか?」

エッ…。

あっ。

先輩、私の想いを知って…。

「先輩…。私、先輩の事好きです…。付き合って欲しいとは、思っていません。ただ、自分の想いを伝えたかっただけですから…」

ヤバイ。

もう、恥ずかしくて、顔をあげられない。

「幸樹。本当に、付き合わなくてもいいのか?」

エッ…。

どういうこと…。

「俺も、幸樹の事好きだ。だから…」

それって…。

私は、恐る恐る顔をあげる。

先輩が照れ隠しするように頭を掻いてる。

「俺と付き合ってください」

先輩が頭を下げてきた。

う、うそ……。

私は、信じられなくて、瞬きを繰り返した。

「返事は、幸樹」

先輩に促され。

「私でよければ、喜んで」

って、答えていた。

「“よければ“はいらない。俺はお前がいい」

って、抱き締められてた。

「先輩…」

「先輩じゃなくて、名前で呼んで、幸樹」

「…知哉さん」

って、呼んでみた。

すると、益々赤くなっていく先輩。

可愛い…。

普段見せてくれない先輩の顔が、私だけに見せてくれてるんだって…。

それだけで、嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ