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東方探偵譚  作者: テイクン
第一部 古明地こいしの冒険
6/13

終章 名探偵とはいかにあるべきか

最終章。ただしプロローグの。

 一会は、砂糖に致死量があるなら、それをとうに超えるだろう甘さのコーヒーを一気に飲み干した。

 私は唖然として、一会の行動を見ていた。私が? 一会の追いかけていた相手? そんなこと。

「ありえないよ」

「ありえた。現にこのハンカチが証拠だ。君の持つ筆跡の証拠と同様に、これもまた確たる証拠なんだ」

「でも、私覚えてないよ」

「だろうよ。『能力の暴走』……これだろうね」

 私ははっとして、第三の目(サードアイ)に触った。

「さて、君が振り返ったとき、僕は困ってしまった。なんと、証拠がしっかりついているじゃないか。しかも悪びれる様子がない。口を拭いたときも動揺しない。これはどういうことだ? 判断出来なかった僕は時間稼ぎに君を連れて行くことにした。助手に任命したのはね、確かに口実でしかなかったよ。本当は君を観察するためだった」

 一会の顔は何の表情も表さない。淡々と続いた。

「だが、慧音さんとの会話直後に事態は進展した。君が姿を消し、それで僕が……」

 一会は言いよどんだ。

「胸の件ね……」

「実はあれも判断材料のひとつにはなったんだ。いや! あれは事故で、あくまでも偶然だ! でも君の人格の解析には役立った。

 僕は機会到来と見て、この家で君から『能力の暴走』の話を聞いた。嘘ではないなと思った。だから僕は君を守ることにした」

「守る……?」

「罪の意識のない犯人をどうして責められようか。彼岸にいるという閻魔様ならともかくね。

 だから、あの暗号を書くと決めたのは、君を助手にした時ではなく、あの会話の時点で決めた(・・・・・・・・・)んだ。ちなみにあれを選んだのは君と同じ理由。二銭銅貨と二千最中って似てるよね」一会は笑って、空のコーヒーカップを覗き込んだ。

「で、『仕込み』も終わったことだし、和菓子屋に向かった。霊夢と魔理沙がいたのはちょっと予想外だった。彼女達なら直ぐに君を犯人と結びつけてしまうかもしれない。それで僕は大急ぎでトリックをでっち上げた。ほら、箱の入れ替えのやつ」

 でっち上げだったの!?

「とっさに考えたにしては上手くやった方だろ。でも今この場の『常識』として真犯人は君だ。完全な無意識状態の君があれを思いつき、実行するか? 無いね。おそらくは君は姿を消し、誰にも認識されぬままにカウンターの上から箱を一個取った。それだけさ(ザッツオール)!」

 大体ね、と一会は続けた。

「カウンターに箱を乗せるのだって、盗むのと同じくらい目立つに決まってるじゃないか! みんな面白いくらいに僕の話を信じてくれたから事なきを得たね。

 その直後の君の発言、『なぜ犯人は箱を三個全部取らなかったのか』これは良かった……」

「なんで? あなたの推理をぐらつかせたんだよ」

「それが良かったんだよ。誰も気付いてなかったが、あれは、君こそを弁護できる推理だった。それを自ら否定する犯人がどこにいる? ちなみに、この時点で君の疑いがやっと晴れた。もしかしたら君が天才的な演技力で僕を欺いていたかもしれなかったから」

「そんな……」

「ごめんよ、でも今これを言ったのは完全に信用したからだ。僕が保証しよう。君は本当に心優しい人だよ。あ、妖怪か」

 私は恥ずかしくて顔を伏せたが、そのとき一会はカップの底に溜まった砂糖の溶け残りをスプーンでかきだすことに必死の様子で、私に気づいたようではなかった。

「とにかく疑惑の矛先を君にだけは向かないようにし、色々苦心した。

 腹が減ったと言って、和菓子を貰い……暗号を最中ごと食って、出した。これも僕なりの趣向なんだよ……。『二銭銅貨』でも銅貨の中から暗号が出てきただろう? ついでにトリックの推理も補強した。唯一心配だったのは、読書家の魔理沙があの暗号を知っていること……。でも、まあ魔理沙は日本の本はあまり読まないから多分大丈夫だと思っていた。で、家に帰り、君をおいたまま箱を埋めに行った」

 一会はかきだした砂糖を口に運んだ。ジャリジャリと砂糖を噛みながら、

「帰ってきたら君が暗号を解いていた。これも良かった。君の手柄になれば、よもや君を犯人と結び付ける奴はいるまい。あとは箱を掘り出して、終わりだ。これで、

 怪盗紳士≠食い逃げ犯

 なんて考えは誰にも、もちろん君にも、思い浮かばなかった。これで終わり」

 そこで一会は真っ直ぐに私の目を見つめた。

「そのはずだった……」

 彼はにっこりとした。

「まさか、君が来るとはね! 確かにそうだ。僕が今回した推理は、全て的確に、僕自身を示している(・・・・・・・・・)。なんてことだ、自分で自分の首を絞めていたのか」

 一会は大げさに身振りをした。

「ねえ、一会」

 私はおずおずと聞いた。

「なんだい?」

「……どうしてここまでしてくれたの? 証拠もあったし、さっさと慧音さんに会った時点で突き出せば終わりに出来たのに。あなたの手柄も増えたよ?」

 一会は少し悩んで、こう言った。

「最初に僕は君になんて名乗った?」

「え? えーと……」

「名探偵の合歓垣一会ですと言ったんだよ」

 そういえばそうだ。ずいぶん自信過剰だなと思ったんだった。

 一会は興奮ぎみに言った。

「僕が思うに名探偵の仕事はね、事件をただ解決するんじゃないんだよ……。

 皆が納得し、後腐れなく、そうなるように華麗に解決しなきゃいけないんだ。

 それが、名探偵なんだ! だから、僕は君に名探偵って名乗ったんだ! 必ず、ハッピーエンドに終わらせると僕は決めているんだ」

 一会は一気に言い終えると椅子に座った。

「手柄? そんなもの欲しがる奴にくれてやる。外の世界にもいたよ。分かってない……数字や尺度で表せないんだよ」

 だから僕は。一会は呟いた。

「名探偵を名乗る。何と言われてもね」

「……」

私はただただ圧倒され、何も言えなかった。

「さてっと」

 一会はすくっと立ち上がって、証拠のハンカチを取った。そして、それを部屋の隅の流し台に持って行くと、ゴシゴシと洗い出した。

「ちょっと! それ証拠でしょ!」

「なんで犯人が慌ててるんだ?」一会は手を止めずに愉快そうに笑った。

 すぐにハンカチはきれいになった。

「これで清廉潔白だな、ハンカチも、君も」一会は満足していた。

「えー……良いの?」

「良いんだ! 事件は完璧に解決した。それで、と……」

 一会は神妙な顔つきになって私に向き合った。そして、珍しいことに歯切れ悪く、

「君がさっき推理した手掛かりの中には完全に僕の盲点になっていたところもあった。君はかなり鋭い部類に入ると思うよ。たとえそう思ってなくともね。ねえ、君。助手というか、相棒というか……それを本当にしてみないか。これは強制じゃない。証拠も今、文字通り洗い流したから、君を抑えつけるものは何もない。ただ君が、もしも良かったなら……」

 一会の今までの発言の中で最も自信がない声色だった。しかしその目には期待と、挑戦の色が見えた。

(……助手、か)

 私はふっ、と今までのことを思い返していた。

 昨日今日だけのことではない。ずっと前からだ。この目を閉じてからだ。

 私は大きな変化を求めていたんじゃないか? だからこうして、事件につきあい、わざわざ推理までして、ここまでやってきた。今まででは考えられないことだ。そもそも考えるということすら放棄していたのに。

 合歓垣一会はそんな私の目を見ていた。ただ黙って見ていた。

 この目は、出会って早々に私の考えを見抜いた。覚り妖怪もびっくりの精度で、だ。

 私にもできるだろうか。私にも彼のようにまっすぐに真実を見つめるようなことができるだろうか。恐れずに、おびえずに。ただまっすぐと。

「私にも、できるかな」

「できるとも」

 独り言に近いつぶやきに、彼はただ自信を持って返した。

 根拠なんてないのだろう。それでも彼は自分が正しいと信じるのだろう。

(強い、なあ……)

 初めて、心がこの胸に帰ってきて初めて、私は今、ある感情に目覚めたことに気が付いた。

 あこがれだ。私が腕を一振りするだけで飛んでいってしまう、弱いはずの人間が、ここまで強い意志を持っている。

「一会。私は……」

 私だって、それに手を伸ばしてもいいはずだ。その強さのもとを知りたい。私も、そのゆるぎない自信が欲しい。

「……やるよ、助手」

「うん、そうか」

 一会がゆっくりと笑った。そして、手を伸ばしてくる。

「これは約束の握手だ。これから僕たちがどんな困難に会おうと、協力し合う、助け合う、というね。誰だって一人では強くなれないのさ」

 一人では強くなれない、か。彼にはやっぱり考えが読まれていたのだろうか。まあ、それでもいいかな。

 そして、私も手を伸ばし、決意を込め、その手を握ったのだった。

やっとこさ、終わりました、二千最中。


実はミステリーは完全なる初心者でして、推理小説を真剣に読み始めたのは、今年の三月から。当然書いたのも初めてです。


そんな素人の初挑戦作品、いかがでしたでしょうか。

感想、心の底からお待ちしてます! 出来るだけいろんな人の意見を聞いて工夫を重ねたいのです。ぜひよろしくお願いします。私の原動力です。返信もしっかりさせて頂きますよ。




参考資料(敬称略)

『東方地霊殿』上海アリス幻楽団


『二銭銅貨』江戸川乱歩

『D坂の殺人事件』江戸川乱歩

『シャーロック・ホームズの冒険』アーサー・コナン・ドイル

『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン』モーリス・ルブラン

『ローマ帽子の秘密』エラリー・クイーン






そして


『アクロイド殺し』アガサ・クリスティ


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