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東方探偵譚  作者: テイクン
第一部 古明地こいしの冒険
5/13

第四章 古明地こいしの推理

【解答篇】


 全ての謎が作者本人によって暴かれる前に、読者自らの手で真相に辿り着くことは、この世のどんなゲームよりも、知的で、素敵で、魅力的なことであると私は思います。

 さあ皆さん。答えを見る前に一度、今までの流れ、描写、そして何より会話を……見直してみましたか? 皆さんなりの答えは出ましたか?

 よろしいのですね? この先に行ったら、もう引き返せません。自らトリックを解きほぐす、あの快感を味わうことは出来ません。





 ……分かりました。それでは参りましょう、解答篇です。



3、2、1、…………

 ふわりと人里の入口に着地した私は、一会の住まう本の城に向かう前に、寄るべき所を思い出した。和菓子屋だ。あそこに私の求める物がある。


 今日の道は混んでいて、昨日より10分も遅く和菓子屋に辿り着くことになった。人里内での飛行は危険だから禁止されている。人混みは、不思議なことに和菓子屋の方面に向かうにつれ密集しており、私は苦労しながら進んだ。能力を使えば人混みを避けるのも簡単だったが、それに気付いたのは和菓子屋に着いてからだった。


 混雑の原因はすぐに分かった。なんと、昨日までがらがらだった和菓子屋が大繁盛している! 集まったお客さんが押し合いへし合いしながら和菓子を買い求めていた。行列の向こうに忙しく働く店主さんが見える。何事だろう?


「よう、こいしじゃないか」

 魔理沙だった。いつもと服装が違う。店主さんと同じ店の制服を着ている。

「私、今臨時店員なんだよ。信じられるか、この客の量。話題性ってのは凄いな。おいそこ、横入りは禁止だ!」

「話題?」私は首を傾げた。

「あれ、知らないのか。ほら、昨日の最後の手紙。『怪盗紳士』って書いてあったろ。……列を乱すなって! あれを宣伝に使ったらしい」

 見ると、壁には額縁に飾られた昨日の謎の手紙があった。その前にも人だかりができている。

「『怪盗に盗まれるほど美味い!』っていうキャッチコピーらしいぜ」

 たくましいな店主さん……。そんな発想は普通できないだろう。

「お前も買いたいなら後ろに並びな。……いや、お前ならサービスされるか、あとあいつも」

 私は首を振って否定した。

「昨日の暗号が欲しいの」

「一会の奴が持ってるだろ。あの写し」

「原本が必要なの。今すぐに」

 分かった、ちょっと待ってろ、と言って魔理沙は店の奥に消えた。私が魔理沙の代わりに列の整理をしばらくしていると、手に暗号を持った魔理沙が帰ってきた。

「悪いな、仕事任せて」

「気にしないで。これ持って行って大丈夫?」

「大丈夫だろ。あとであいつには言っとくさ」そう言って忙しい店主さんを指す魔理沙。ありがとう、と言って急いで店を出た。


 出た途端に誰かにぶつかり、尻餅をついた。

「うわっ! すまない。怪我はないだろうか」ぶつかったのは慧音さんだった。「って、古明地君か」

 何だか昨日よりも口調が柔らかい気がする。

「大丈夫です、この通り!」そう言って両手と片膝を上げてポーズを決めると、慧音さんが微笑んだ。

「良かった。それと、昨日は申し訳ない。失礼な態度を取ってしまったな」

「気にしないで。立場上、仕方なかったのでしょう?」

「そう言って貰えるとありがたいよ。ところで、助手の役割は立派に果たしたそうじゃないか! 昨日の話は聞いたぞ。お手柄だったな」

 そんなに褒められると照れる。私は赤くなりながら二言、三言会話をして、慧音さんに別れを告げた。


「よし、一会の家に行こう!」

 私は、ふん! と気合いを入れて、一会の家を目指した。人混みがすごく、上手く進めない。

 ますます増える集団をやっとこさ乗り越えて、私は一会の家のすぐ下に立っていた。一つ、深呼吸をして、階段を上がり、扉を睨みつける。そして、ベルを鳴らした――。


◇◇◇


「どうぞ」落ち着き払った一会の声だ。「お入り下さい」

 私が扉を開けると、安楽椅子に座って本を読んでいた一会は少し目を見開いた。

「やあ、こいし。……僕に依頼かな」

「いいえ、違うわ」私は固い声で言った。「昨日の真相が分かったの。聞いてくれるかしら」

 一会はちょっと待ってね、と持っていた本を奥の部屋に持って行った。本のタイトルは『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン』。

 本の魔窟から生還してきた一会は、その中から発掘したのだろう、別の肘掛け付きの小さい椅子を持ってきて座り、私に安楽椅子を勧めた。コーヒーは要るかという問いに肯定すると、一会は立ち上がり、コーヒーを淹れる。部屋の端からテーブルを引っ張ってきて、私と一会の間に設置、その上にコーヒーとミルク、砂糖を置いた。

 全部済ませると、満足げな声を上げて、一会は椅子に座った。

「さ、話を聞かせてくれ」

 私は迷っていたが、彼の目に期待と、わずかの……挑戦的な光を見て、私は口を開いた。

「まずはね」

 と、そこで一会が手を挙げた。

「推理を披露するなら『さて――』から始めるといい」

「そうなの? さて――」


「私は昨日自分の家に帰った後に、よく分からない違和感を感じたの。昨日一日の出来事についてね。それについてじっくり考えた。何かが引っかかったのよ」

 一会は頷いた。

「続けて」

「その疑問は解決したの。寝る前にね。でも、その時の考えには一つだけ弱点があった……。あとで解決したけど」

 私はコーヒーをブラックのまま飲んだ。苦い……。

「まずは昨晩分かった違和感の正体についてね。それは一つじゃなかった、たくさんあったわ」

 一会は黙って聞いている。

「どれから言おうかな。初めからにしようか。

 あなたは私に会った時に、足跡を追いかけてきた、と言ったわね。でもね、あの日には朝市があった(・・・・・・)のよね? 今日ほどじゃないけどかなりの人混みよ。ねえ、そんな人混みの中で、一体どうやって(・・・・・・・)足跡を追ったの?」

 一会はコーヒーに砂糖を一杯、丁寧に入れた。

「どうやったと思う?」

 私は答えた。

そもそも(・・・・)追いかけてなんて(・・・・・・・・)なかった(・・・・)! あなたは自分の意志であの場所に来たのね。そして私に見つかってしまったから苦しい言い訳をした。思えばあの時あなたは『参ったな』って顔をしてたわね」

「ほう」と言って一会はコーヒーを味見し、砂糖を加えた。「良い記憶力だ」

 私は追撃する。

「何故あなたがあそこに来たかは後で話すよ。

 次の違和感、それは私を助手に任命したこと」

「それが?」一会がスプーンを見ながら眉をあげた。

「だって、全然私に頼らなかったし。ほとんど全部あなたが謎は解いた。私が暗号を解いたのは全くの偶然。私に解けなかったらあなたが解いた。そうでしょう」

「だとしたら? 君を助手にしたのは何故なんだろう」一会はコーヒーをスプーンでかき混ぜ、その渦巻きを観察していた。

「私をあの場所……里の近くの川から遠ざける為よ」

「つまり……?」

 一会は私をちらっと見て、またコーヒーに目を移した。

「つまり、あなたはあの場所に大事な用があって、私は邪魔だった。その用も後で説明するね。

 次。あなたが最中の中から暗号を発見したとき。あなたは、犯人が箱の移し替えトリックの際に暗号を仕込んだんだって言ったけど……無理でしょ」

 そこで初めて一会がふふ、と小さく笑った。そして視線を上げないまま、手で先を促した。

「最中の中に暗号を仕込むには、箱を開けて、最中に穴を空けて、無理やりねじ込まなくちゃいけない。店主さんもいて、他のお客さんもいるのに、そんな目立つこと、出来っこないわ」

「じゃあ、どうやって?」一会がスプーンを振った。

「あなたが最中を食べるときに、手に隠した暗号と一緒に口に入れた(・・・・・・・・)の。思い返せば、お菓子を食べる流れに持って行ったのはあなただった。全部思い通りだったということね」

 一会がにっこりした。それに勇気づけられて、私は続ける。

「そうなると、あの暗号を書いたのはあなただった、ということになる。あ、待って!」

 一会が何か言い掛けたので、私は止めた。

「言いたいことは分かるわ。筆跡でしょう? それは最後に説明するから」

 一会は面白そうな顔で口を閉じた。

「あなたが暗号を書いたのは、これは予想だけど、最初にこの家に来た時だよね。私をあっちの本の部屋において、あなたはまさにこの部屋で暗号を書き上げた」

「そうだよ」一会は笑った。「さあ続けて」

「さて、あの暗号は『二銭銅貨』の知識が無いと解くのはほぼ無理だった。そして狙い通り、あの場の誰も解けなかった。あなたはじっくり考えると言って暗号を書き写し、再び家に帰った」

 私はここで一息つき、コーヒーに砂糖を入れようとしたが、砂糖はなくなっていた。全部一会のコーヒーに入ってしまったらしい。一会が立ち上がり、新しい砂糖を持ってきた。私は甘くなったコーヒーを半分飲んだ。

「その後のあなたの行動は大胆だったよね。眠いから散歩って! でも、和菓子屋での推理を見ていた私は疑いもしなかった。

 そうしてあなたはやっと自由になった。暗号を書いたのは私と会った直後。つまり、この、時間稼ぎの為(・・・・・・)に作ったものだった」

 私は残りのコーヒーを飲み干した。

「もちろんあなたはその『散歩』中に、箱を……例の手紙入りの箱を、邪魔もののいない川の近くの大きな杉の木の下に埋めた。これであなたの当初からの目的はやっと、達成された。私がその間に暗号を解いてたのは、さすがに予想外だったみたいだけど。

 あと一つあったね。あなたは手紙を開く前に店主さん宛てだと言った。あなたが書いたんだから分かってて当然ね。」

 私はコーヒーのおかわりを淹れた。

「最後に、筆跡の件ね。暗号の文字は整然としていて達筆」私は魔理沙から受け取った暗号を取り出した。「あなたの写しは」一会が気を利かせて写しを持ってきた。「すごく字が汚い。ここが弱点だった。暗号を書いた筆跡とは余りに違う。わざと汚く書いたのでもない。霊夢も魔理沙もあなたの字を見て何も言わなかったから。じゃあこの筆跡の違いはどういうことか。一晩答えは出なかったわ。でもね」

 私はお空のくれたとっておきのヒント……置き手紙を取り出した。

「どう? お空が一生懸命書いた手紙。私はこれで気付いたわ。あなたは左手でお茶を飲みながら右手で写していた。でもあなたは……これは勘だけど……左利きね。利き腕と逆の腕で字を書くと、ああいう風な、懸命に書いても下手な字が書ける」

「ふむ、それはどうかな。僕が本当は左利きで、達筆だって? 証拠は?」

 私は玄関のドアを指差した。

「手書きの、表札!!」

 一会の顔に衝撃が走り、消えた。もう笑顔はない。私はひるまず続けた。

「私は初めてここに連れてこられたとき、あなたが駆け込んだから、ほんの一瞬しか、表札は目に入らなかった。でも、その一瞬で(・・・・・)あの長い文章を全部(・・・・・・・・・)読み取れた(・・・・・)! これは字が汚かったら無理だよ。事実、今さっき確認したら暗号の文字と筆跡と一致した……。以上から」

 一会は黙ってこっちを見ている。私は大きく息を吸い込んで、彼に言った。

「あなたが今回の一連の事件の犯人だよ、……『怪盗紳士』こと、合歓垣一会(・・・・・)!」


◇◇◇


 一会は黙って顔を伏せた。コーヒーを机に戻し、椅子を後ろに引いて、頭に手を当てる。

 てっきり私は一会が何らかのアクションを起こすと思った。弁解するか、謝るか。しかし一会は、

「……」

 その真っ黒い髪を押さえ、黙り込んでいる。沈黙に耐えかねた私が、何か言おうとした瞬間、

 彼は腹を抱えて笑い出した。

「ふ……ふふふ、はははははは!」

 私はぎょっとして身を引いた。あまりにも狂気じみた笑いだった。

 だが、一会がやがて笑い疲れたように顔を上げると、その目には相変わらずの知性の光が見えた。

「いやあ、失礼、失礼。まさか君に解かれるとはね! 魔理沙辺りが、あるいは、と思ってたんだが……そうか、よりにもよって(・・・・・・・)、君にか」

 私は馬鹿にされたのだと思った。

「どう、返す言葉もないでしょう」辛辣に言った。しかし、

「ああ、うん。僕が『怪盗紳士』だ。二十面相よりルパンの方が好きなんだよね」一会は全く動じた様子もなく返した。

 で、と続ける。

「これからどうする? 出来れば、何もしないでくれると、ありがたいな」一会は言葉を区切り区切り、私を試すように言った。

「そうは行かないわ」私は一会を睨んだ。「泥棒はいけないことよ。……慧音さんに突き出そうかな」


 すると一会は突然立ち上がり、その場をうろうろ歩き回った。

「ああ! そうか。君はそれを選ぶか。 良いんだね(・・・・・)?」

「何を……突然?」

 急激に態度の変わった一会に驚きながら、私は身構えた。彼は鋭い目をして私を見据えていた。だが、一会は再び椅子に力なく座った。顔に元気がない。

「君は」

 一会が静かに言った。

「ひどく惜しい所までいった」

 ……惜しい?

「そうだよ。こいし、君の推理は全てを説明しているように見える。だが決定的に欠けている物があるだろう?」

「……動機ね」私は諦めたように言った。確かにそれだけは分からなかったからだ。

「そうだ。真に完璧な推理ならば、それすらも説明できるはずだからだ。出来るかな? 僕が何故、あんなに回りくどく、面倒な真似をしたのか……」一会の目は再び私の目を真っ直ぐに射抜いていた。祈るように。

 私は。……首を横に振った。

「分からないよ」

「聞きたいかい?」一会は素早く言った。

「……うん!」

 分かった、と言い、名探偵がゆっくり立ち上がった。

「さて――」一会は私を見ずに語り始めた。

「まずは君の推理の小さな、だが大切な見落としについて語ろう」

 見落とし……? 私は何も言わずに次の言葉を待った。

「君は僕と会った時点から説明を始めたが、僕としてはその前に注目して欲しかった」一会は窓の外に目を向けた。「君はあの日は混雑だったから、足跡が追えるわけはない。そう言ったね。おっしゃるとおりだ。僕は足跡なんか追いかけてない」一会はゆっくり瞬きをし、私の方を向いた。「川辺で君と出会ったのは何時だった?」

「えーと……」

 一会はすぐに言った。

「九時だった。あの時言ったはずだ。で、僕が和菓子屋を出たのは八時四五分。店主さんに確認してもいい。さて……十五分しかたってないね」

「それがどうしたの? 昨日二人で和菓子屋に行った時にも同じ時間しかかかってないよ」

 ぴったり十五分だったはずだ。

「それが問題なんだよ。君も言ったろ、昨日は朝市だったと。朝市の日には街の中心部に人が流れ込む。僕は村から出るために、その流れに逆らうように進まなくちゃいけなかった。十分は余計にかかるね………普通は」

 何が言いたいんだろう……? でも時間を見落としてたのは事実だ。一会は私の反応を見ると、話を続けた。

「昨日の朝、君に会う前の話をしよう。八時四五分に店主さんに依頼を受け、店を出た僕は、とても奇妙なものを見かけた」

「奇妙なもの?」

「そうだ。それは、流れる人混みの中の空間だった。一人分くらい通り抜けたような隙間が人混みに空いてるんだよ……。しかも誰もその隙間を埋める様子がない」一会は指を鳴らした。「それで、ぴんときた。ああ、何かが、透明な何かがここにいる」

 私は訳が分からない、という気分で話を聞いていた。一会は下手な作り話をしてるんじゃないか。

「そしてそれ(・・)は移動していた。勘だったがね、怪しいと思った僕はその空いた空間に入り、真後ろを追いかけてみた。面白かったな、僕が歩く数メートル前から、まるで人が向こうから避けるみたいに道が(ひら)けるんだから」

 だから、十五分で辿り着いたと言いたいんだろう。それにしても、この酷い作り話はどこに続くのか。私は少し腹をたてながら話を聞いていた。

「そうして僕は人里を抜けた」一会は思い出すように目を細めた。「そこからは本当に足跡を追いかけたんだ。足跡を追いかけると、川辺の方向に続いていた。それをそのまま歩いて行って」

 一会は何ともいえない表情をした。


「そして、君がいた(・・・・)

 ……え?

「僕は、水を飲んでいる君に気付かれないようにしていたんだが、君は振り返ってしまった。『参ったな』って思ったね。だって……」

 一会は昨日着ていたコートを持ってきて、ポケットから何か取り出した。

「君に推理を披露して驚かせた後にすぐ、僕は君の隣に座った。覚えているかな。君の……」

 一会は握っていたそれを机に広げた。私は何も言えず、吸い寄せられたようにそれに視線を向ける。


 そこにあったのは、一会が私の口を拭った、そして、あんこがたっぷり(・・・・・・・・)付いた(・・・)、ハンカチだった。

 実に、アンフェア! ですが、こいしの推理までは追いつけるようにしてました。

今回の正解者は、


ザインさん! おめでとうございます!


さて。解答篇はあと一章続きます。


お楽しみ下さい。

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