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9-3







「ん、ぅ・・・?」

陽の光を受けた天井の、温かい白が目に入った。

寝ぼけたまま、クルミは傍にあるはずの手を求めて視線を投げる。



「・・・気分はどうです?」

「え・・・?」

その声が耳に入るなり、一気に眠気の飛んだクルミは慌てて体を起こした。

まだ頭は重いままだけれど、そこに構うだけの気持ちの余裕はない。

彼女はゆっくりと揺れる視界の中で、体が傾いていかないように力を入れる。

「カイ部隊長なら、クルたんが眠ってしまってすぐ、レインに戻りました」

くすくす笑うのは、大佐だ。

彼女はカイが座っていた椅子に腰かけて、クルミを見つめていた。


カイがいない。

そう聞かされたクルミは、部屋の中を見回す。

大佐の言葉通り、彼のいないことを理解した彼女は、言いようのない喪失感に唇を噛んだ。

どうして起こしてくれなかったのかと、小さな苛立ちが生まれる。

そういえばいつだったか、少佐の個室に寝泊まりしていた時にも似たようなことがあったな、などと思い出しもしていた。


「・・・そんなカオしないで。大丈夫ですよ。

 現場検証に立ち会って、部隊の皆さんのところに寄ったら、迎えに来ます」

「現場けんしょう・・・?」

彼を詰りたい気持ちを抱えたクルミに、言い聞かせるようにして大佐が言う。

「ええ、昨日のシェルターでね」

「しぇるたー・・・」

起きぬけに知らない単語を聞かされたクルミは、小首を傾げた。

聞いたことのない単語に戸惑う彼女に、大佐は微笑む。

「昨日、クルたんがいた場所、覚えてますよね?

 あれはシェルターっていう、住民たちが逃げ込む場所なんです。

 ・・・大戦の折に作られたと聞いてますけど・・・」

知りませんか、と大佐が付け足して、クルミが首を振る。

その様子を見て微笑んだ大佐は、ゆっくりと立ち上がって手近にあった果物を手に戻ってきた。

「・・・ともかく。

 そういうわけなので、わたくしと一緒にもうしばらく待ってましょうね」



しゃり。しゃり。

かすかな音を立てながら、大佐が林檎の皮を剥く。

あまり手慣れているとは言えない様子に、静かに見守っていたクルミは、我慢できなくなって声をかけた。

このままでは、切った部分から茶色くなってしまう。

「あのぅ、わたし、やりますよ・・・?」

控えめなクルミの言葉に、大佐がため息をついて、ちらりと視線を寄越す。

そして、少しの間考える仕草を見せたあと、ベッドにテーブルを設置して、そこへ林檎と果物ナイフを置いた。

「・・・お父さんとお母さんの帰りが遅かったんです。

 だから、ゴハンの支度とか、わたしの仕事で。

 ・・・それに、カイさんの家でも、ずっとごはん作ってたし・・・」

手元をじっと見つめられたクルミが、はにかんで呟く。

そんな彼女の顔と手元を交互に見遣って、大佐が感心したように相槌を打って、言った。

「カイ部隊長が羨ましいです」

「え~?」

「だって、クルたんが食事を作ってくれるんでしょう?」

「うん、まあ、作るけど・・・」

用意された小皿に、クルミの手が切り分けられた林檎を落とす。

ひとつ、またひとつ。

そのひとつを、大佐の華奢な指が摘まんだ。

「エプロンとか、着けるんです?」

「・・・うーん・・・カイさんのとこでは、なかったけど。

 小さい時は、お母さんが買ってくれた子ども用のエプロン着けてたっけ・・・」

「小さなクルたんが、エプロン姿でキッチンに・・・。

 ・・・鼻血が出そうです」

思わぬ発言に、クルミの手が留まる。

そして、若干後ろへのけ反った。

「・・・大佐って、もしかして変態?」

「いえ、ちょっと人の道を外れそうなだけですので。心配は御無用です」

そう言って林檎を齧った大佐の顔が、笑顔に溶ける。

クルミは、カイが戻るのを切実に願うのだった。





しゃりしゃり、と林檎を齧る大佐が、思い出したように口を開いた。

「そういえば、」

ふいに聞こえた声に、クルミは振り返る。


手持無沙汰な彼女は、大佐が止めるのも聞かずに、ベッドから降りていた。

果物ナイフは、ナースセンターまで1人で返しに行って来たところだ。

銃弾が掠めた腕は痛むけれど、動けないほどではない。

カイの姿がないことに落ち着きを失くしているらしいことは、大佐だけが気づいていることではあるけれど。


することもなくなり、窓の外を眺めていたクルミは、窓枠に手をかけたまま振り返った。

すると大佐が、にやりと口角を上げる。

「カイ部隊長、出て行く時にクルたんのおでこに、ちゅーしてましたけど」

「ちゅ・・・っ?!」

「あら。

 あらららら。

 ・・・やだクルたん、顔が真っ赤」

ひと声上げたきり、顔を真っ赤にしたクルミを見た大佐が噴き出す。

そして、ぷるぷると震え声も出ないクルミに尋ねた。

「やっぱり、カイ部隊長と何かあったんですね?」

「な、なななななにかってなんですか?!」

思い切り揺さぶられたクルミの言葉に、大佐が目を細める。

「じゃあ、当ててみせましょうか」

とても楽しそうな大佐に、クルミはますます慌てた。


自分とカイの間で、どんな会話があって、どんなことが起きたのかなど、絶対に誰にも知られたくないのだ。

好きとかどうとか言う以前に、自分が彼としたことを聞いた大佐が、どんな反応をするのかくらいは、さすがのクルミにも理解出来ている。

カイと2人きりの時には感じなかった、どうしようもなく恥ずかしい気持ちが胸の中で暴れて、手がつけられない。


「いっ、いいいで、ぃっ・・・たぁぁぃ・・・!」

ぶんぶん首を振り手を振り、ずきんと走る痛みに顔をしかめる。

「まったくもう。慌てすぎです」

「・・・うぅぅ・・・」

痛む腕を擦るに擦れず、体を屈めてやり過ごす。

そんなクルミに呆れたように言葉をかけた大佐が、くすくす笑いながら言った。

「あんまり可愛いと、苛めたくなっちゃいますよ」

「もう苛めてるじゃないですかっ」

言い返して、クルミは窓の外へと体を向ける。

窓を開けた瞬間に、夏の温い空気が顔を掠めた。

外の世界は、今日も暑い。

顔の火照りを夏の風で誤魔化しながら、クルミは口を開いた。

「・・・大佐」

「なあに?」

言葉と共に、彼女の隣に大佐が並ぶ。

視線を遠くへ投げた大佐が、「日焼け止め、塗るの忘れちゃった」などと呟いている。

間近で彼女を見上げたクルミは、そっと尋ねた。

「あの、大佐って、好きな人いますか?」

「え?」

思わず、といったふうに聞き返した大佐は、ややあってから頬を緩める。

「・・・いますよ」

にっこり微笑んだのは、クルミが今までに見たことのない大佐だった。


大佐の微笑みに目を奪われたクルミは、一瞬言葉に詰まってから、質問を続けた。

「好きになるって、どんな気持ち・・・?」

「そーですねぇ」

呟いた肩が、わずかに上下する。

そして大佐は、答えを期待するクルミの瞳を覗きこんだ。

「わたくしの場合は、その人に会いたくて会いたくて仕方ないです。

 ひと言、言葉を交わしたり、目が合ったりするだけでドキドキしちゃいます。

 触れたいと思うし、自分だけを見て欲しいと思います。

 だから、他の誰かが彼に触れてるのを見ると、ものすごく苦しくて・・・」

苦しい、と言った大佐の表情は柔らかい。

クルミはそれが不思議で、小首を傾げた。

「でもね、」

大佐が言う。

困ったような、笑みを浮かべて。

「好きな人のことを思うと、すごくあったかい気持ちになるんですよ。

 傍にいないのは、ちょっとだけ苦しいんだけど・・・でも、幸せな気持ちです」

「幸せな気持ち?」

「気持ちが穏やかになる、ってことでしょうか。

 うーん・・・難しいですよね、気持ちに名前をつけるって・・・」

「うん」

最後のひと言に頷いたクルミは、視線を投げた。

病院の、広い駐車場には車がたくさん停まっている。

無意識に、その中にカイの車を探している自分に気づいて、彼女は口を開いた。

「わたし・・・」

「ん?」

そっと先を促した大佐の目が、柔らかく笑む。

「お父さんとお母さんの写真、見たんです。シェルターで。

 もう白髪も皺もあって・・・わたしはそんな2人、見たことなくって。

 わたし、それ見ても寂しくなかったんです。もう会えないのに。涙も出なくて。

 あの時のわたし・・・写真見て、カイさんのこと考えてた。

 すっごい親不孝ですよね・・・」

「・・・そうかしら」

大佐の言葉に、クルミは小さく首を振った。

「繭の中に入る前に、あんなに泣いたくせに・・・って、2人で言ってます、きっと。

 もしかしたら、笑われてるかもです」

夏の日差しが、クルミの頬を照らす。

前髪の作る影に隠れて、彼女は何度か瞬きをした。

そして、大きく息をつく。

すると大佐が、そんな彼女の様子を眺めて格好を崩した。

「・・・もぉぉぉ・・・クルたん!」

綺麗な手が、彼女の頬を抓る。

びよん、と伸びたクルミの頬を見て、大佐は噴き出した。

「どこまで可愛いんですか、もうもうもうっ。

 ・・・あのねぇ、子どもはみんな大人になるんです。

 親はみんな、子どもが大人になるのを楽しみにしてるんじゃないでしょうか。

 少なくともご両親は、あなたに好きな人が出来て、一緒に生きていく姿を思って、

 氷の繭を用意していたんだと思いますよ」

苦笑交じりの言葉に、クルミは顔をしかめる。

気分を害してしまったのかと、内心ひやりとした大佐は、それが自分の思い違いだということに、少し間を置いて気づいた。

眉間に力を入れて、唇を噛んで。

それはまるで、泣くのを堪える子どものようで。

大佐は何も言わずに、そっとクルミの頭を撫でた。

「・・・カイ部隊長と一緒じゃなくちゃ、嫌なんでしょう?」

「ん・・・」

震える声が、目を伏せた彼女の唇から漏れる。

「そういう相手に出会えたことを、ご両親は喜んでいらっしゃいます・・・きっと」

「そ、かなぁ・・・」

「そうですよ」

空に灰色の雲が流れ、日が陰った。

仰ぎ見たクルミは、そっと手を窓の外へと差し出す。

「降ってきちゃいましたね。

 天気予報では、今日は晴れマークでしたのに・・・」

これだから夏の天気は・・・と、困ったように呟いた大佐がため息をついた。

差し出したクルミの手に、ぽつり、と雨粒が落ちる。



・・・傘、持ってないよね。

・・・カイさんが迎えに来る時までに、上がるといいんだけど・・・。



ひと粒、ふた粒と落ちてくる雨粒を受け、クルミはそれが、少し前までカイに握られていた手だと思い出す。


「すき」

口にした瞬間に、隣の大佐が反応した。

「えっ?!」

思った以上の大きな声に、クルミは視線を彷徨わせる。

「・・・かも」

「えぇぇぇ・・・」

色めき立ち、一瞬にして脱力した大佐を一瞥もせず、彼女は雨に打たれた手を引っ込めた。

眼下に広がっていた駐車場のアスファルトが、みるみるうちに黒く湿っていく。

クルミがなんとなく、ぼんやりとその様子を眺めていると、大佐が口を開いた。

「んもう・・・よく分かりませんけど、難しく考え過ぎなんです。

 彼の目を見て名前を呼んでみるとか。手を繋いでみるとか。キスしてみるとか!

 ・・・何もしなかったら、何も分からないままです」

じれったさに、言葉をぶつけるように紡いだ大佐は、ふぅ、と息をつく。

その剣幕に思わず振り返り、こくこく頷いたクルミは、もう一度駐車場に視線を戻す。

大佐はそんな彼女を一瞥して肩を竦め、日が差さずに薄暗くなってしまった部屋の照明をつけに、踵を返した。

ちょうどその時、灰色の雲が切れて薄日が指し込む。

「あ・・・」

無意識に出した手に、雨粒が落ちてくる。

「お天気雨・・・」

呟いて、視線を戻した瞬間。

しとしと降り続く雨の中、小走りに駆けてくる人影が映った。


クルミの唇が綻ぶように開く。

瞬いた瞳が、柔らかく細められた。

そして、大佐の言葉が脳裏をよぎる。


「カイさん・・・っ」

大声を出すのは、勇気が要る。

息を吸い込んだ割に、彼女の口から漏れた声は掠れて、彼には届かない・・・はずだった。

クルミの目が、見開かれる。

最初にやってきたのは驚きで、次に胸の奥から湧きあがったのは、嬉しい気持ち。

小雨の中、駐車場を駆け抜けて病院の中に入ろうとしていたカイが、立ち止まったのだ。

まるで、彼女の呼びかけが聞こえたかのように、辺りを見回している。

「カイさん!」

彼を呼んでいるはずなのに、自分はここだ、と主張しているような気持ちになったクルミは、戸惑って叫ぶことが出来なかった。

その代わりに、こっちを見て欲しい、という思いが強まるのを自覚する。

こんなに必死にカイを呼ぶのは、初めてかも知れない。

頭の隅に残った冷静な部分で考えながら、クルミは再び彼の名を呼んだ。

「カイさん!

 ・・・ああもうっ」

彼が首を捻る様子が、上から見ていても分かる。

呼んでも、自分を探して仰ぎ見る気配がないことに、クルミは苛立った。

黙っていても、彼はこの部屋へやって来る。

そんなことは分かっていた。


・・・けど、でも、今がいいんだもん。


自分でも、何故そこまでムキになるのか分からない。

けれどクルミは、こんなに呼んでいるのにカイが自分を見つけられないことに、悔しいような寂しいような、詰りたいような気持ちになったのだ。

そして、その思いのまま、彼を呼ぶ。

大きく息を吸い込んで、腹に力を込めた。

「・・・、カイっ!」

背後で、大佐が息を飲む音が聞こえる。

それくらいに大きな、クルミ自身も驚くような声が出た。

一拍遅れて、カイの動きが止まる。

彼は、ようやく上を見上げた。

クルミが息を飲みこんでいる間に、カイが手を振る。


カイの目が自分を捉えたと分かった瞬間に、クルミは自分の足元から、何かが立ち昇ってくるのを感じた。

それは熱くて、甘くて、弾け飛ぶような勢いのある何か。


眼下のカイが、小首を傾げる。

その刹那、クルミの鼓動が跳ねた。

同時に、むくむくと耐えがたい衝動が襲いかかってくる。

「・・・どうしよう・・・どうしようどうしようどうしよう・・・!」

思わず窓枠から身を乗り出したクルミは、彼の目を見つめる。

そして、交わした視線を離したくない、と思った瞬間。

口が勝手に、言葉を紡いだ。

「好きになっちゃってたみたい!わたし!・・・カイのこと!」


小さな、悲鳴に似た歓声が背後で響く。

小首を傾げたままのカイが目を大きく見開いて、硬直した。







灰色の雲の隙間から差し込む光が反射して、キラキラと、瑞々しい輝きが降ってくる。


窓から身を乗り出して、クルミが放ったひと言に硬直していたカイは、その光景に絶句した。

足元に、色とりどりの粒が転がっているのだ。

それはアスファルトに落ちて、何度か瞬きをする間に、ふわりと虚空に溶ける。

その様子に、シェルターでの出来事を思い出したカイは、咄嗟にクルミを見上げた。

彼女は窓から顔を覗かせたまま手を伸ばし、落ちてくる粒を見つめているようだ。

ぱら、ぱら、と粒の落ちる音がする。

黄色、赤、ピンク、青、緑、白・・・目がチカチカするほどの鮮やかさ。

それがクルミの能力によるものだと気づいたカイは、瑞々しく、ともすると美味しそうな粒の降るさまを呆然と眺めている本人に向かって、口を開こうと息を吸い込んだ。

その時だ。

クルミの視線が、カイに向けられる。

そしてお互いに一瞬、口ごもった。

「・・・これ、1人じゃ止められない!」

先に口を開いたのは、クルミだ。

彼女は笑顔を浮かべながら、彼に言った。

「カイがいないと、わたし、全然ダメみたい!」


言いたいことは、いろいろと思い浮かんだ。

いつの間に、嬉しそうに自分を呼び捨てにするようになったのか。

止められない、と言った割に、全く困っている様子がないのはどうしてなのか。

それに、なっちゃってた、とは一体どういうことなのか。

・・・なっちゃったらダメ、だったのか。


一瞬の間にぐるぐると考え巡り、カイは空から落ちる粒を手のひらで受け止める。

手の中にある粒はまるで、甘い砂糖で出来た菓子のように見えた。

彼女の好きな、ジェリービーンズに。

「・・・今行く」

笑みを浮かべて言ったカイに、クルミは勢いよく頷いた。









その日の夕方のニュースは、突然降ってきたジェリービーンズの話題で持ち切りだった。

思わぬ夏の通り雨に、街中が楽しい気持ちになったのだと、キャスターが伝えている。

人畜無害な不思議現象を、統治総官が咎めることはなかった。

ただ、小言をいくつかもらったくらいだ。


「・・・腕は?」

向かい合わせの格好で、クルミを膝に乗せたカイが尋ねた。

何かが吹っ切れた様子のクルミが、彼の問いに、へにゃりと笑って答える。

「へーきだよ。

 薬も飲んだし」

すると、カイの手が彼女の髪を梳いた。

そのまま顔を覗き込むようにして、彼はクルミの手に指を絡める。

互い違いに、しっかりと絡められた手を握りしめた彼女は、そっと目を閉じた。

その仕草を見たカイは、思わず漏らす。

「分かっててやってる・・・?」

「ん?

 ・・・キス、したくなっちゃったんだもん」

薄眼を開けて答えたクルミは、再び目を閉じる。



・・・だもん、て。


思わず心の中で呟いたカイは、思わず俯いた。

顔に集まる熱を逃がすために、そっと息を吐く。

この小悪魔が・・・そんな思いと、嬉しくて仕方ない気持ちが交互に彼を襲って、どうにも出来ずに視線をうろうろさせる。

すると、目を閉じてじっとしていたクルミが、口を開いた。

「・・・ねぇカイ、まだ・・・?」

そのひと言に、カイは絶句した。

絡めた指が、いつの間にか飲みこまれそうになっている。

つい数日前までは、その手強さに途方にくれたというのに。

彼女のどこにスイッチがあって、恋愛モードに入ったというのか。

そんなことを考えたカイは、内心で大きく息を吐き出すと、彼女の腰を引き寄せた。


重なった唇の隙間から、どちらのものともつかない吐息が漏れる。

啄んで、時折やんわりと食んで、お互いの存在を確かめるような触れ合いを繰り返す。

そうして少しずつ息が上がり、苦しくなったクルミが、そっと唇を離した。

その瞬間、カイと指を絡めた手に違和感が宿る。

同じように訝しげな表情を浮かべたカイと顔を見合わせて、手を解く。

するとそこには、ひと粒のジェリービーンズが。

2人の目に留まった刹那、それは虚空へと溶ける。


どちらからともなく見つめ合った彼らは、小さく笑って、もう一度キスをした。













ここまでお読み下さいまして、ありがとうございました。

次話は、あとがき代わりのご挨拶です。


また、拍手会話を用意しています。完結から数日後、クルミとカイの会話です。よろしければどうぞ^-^

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